5-1

「・・・う、ここは・・・」


ゆっくりと目を開けるナマエ。
手足を動かそうとするが何かに拘束されているようで全く動く気配がない。


辺りを見回し目の前にジェイクとシェリーが同じように拘束されていることに気が付く。


「ジェイクっ!!シェリーっ!!」


その声に気が付いたのか二人は目を覚ます。



「・・・なんだ?ここは」

ジェイクは枷を外そうとガチャガチャと力を込めるがそれはビクともしない。


「二人とも・・・ごめんなさい・・・・。

私がシモンズの嘘を見抜けなかったから、こんなことに」


項垂れるシェリー。やはり先ほどまでのは空元気だったのだろう。


いつも明るく私たちを引っ張っていってくれるシェリーはそこにはいなかった。
だがやっと見せてくれた彼女の本心に少し安心する。


「シモンズに言われたから今までやってきたのか?

ワクチン作って世界を救うってのがお前の信念じゃないのか?」


「それは・・・」



「シェリー。ジェイクの言う通りだよ。

信頼していた人に裏切られるって辛いよね。

でもそれを受け入れて前に進まなきゃ、今までシェリーやジェイクがしてきたこと、すべてが無駄になっちゃうんだよ。」



「・・・ナマエ」


シェリーの瞳が揺らぐ。簡単には受け入れられないだろう。


私だって未だに父親のことを考えれば苛立ちや悲しみが込み上げてくる。

ジェイクだってたぶん分かっている。



でも今ここで迷うことは世界が終わるということだ。




シェリーの夢も、希望も。


私たちも、すべて消える。



それだけはなんとしても阻止しなければならない。


どこからか警戒音が鳴り響き私たちを拘束していた枷が突然外れる。


突然のことに受け身をとれるはずもなく私たち三人は床にたたきつけられた。


「なんだってんだ、一体・・・」


「やっぱり武器は全部とられちゃってる・・・」



シェリーの言葉に私も背中背負っていたライフルを確認するがやはり見当たらない。


「ねえあれ!」


部屋の外に私たちの武器が置いてある。
ここから出られれば・・・


しかし部屋の扉はロックがかかっており開く気配はない。



「ジェイク、あのダクトから外に出られないかな?」


ナマエが指さす方向に目をやるジェイク。


「わかんねぇ。だけど他に道はなさそうだな。
・・・・だけど俺は通れねぇぞ。」


見れば分かる。ジェイクの大きい身体であそこは通り抜けられないことくらい。




(・・・シェリーに行ってもらうしかない。だけど・・・)



今の状態の彼女を一人で行動させてもいいのだろうか?



「ジェイク。私とシェリーで行く。」


「ナマエ!?危険よ!何があるか分からない。
それに今は武器もない状態なのよ。

あなたはジェイクの傍にいて!それが一番安全よ」



ナマエの言葉にシェリーは信じられないとでも言うように否定する。
だが私はこうするのが一番だと思った。



「駄目。今の状態のシェリーを一人で行かせるわけにはいかない。」


「っ!!」



ナマエの自分の心を見透かすような目が突き刺さる。


(・・・本当に、よく見ているのね)



彼女の観察眼には今まで幾度となく助けられてきた。

確かに今の自分は動揺している。
シモンズに裏切られていたというショックから立ち直れていない。



こんな余裕のない状態で予想外の事態と遭遇しても、とても対処できないだろう。



「わかったわ・・・」


「話はまとまったか?」


「ジェイクはいいの?
大切なナマエをこんな状態の私と一緒に行かせちゃって・・・」


シェリーの言葉にジェイクは訳が分からないと言った顔をする。


「?何言ってるんだ。
俺以外にナマエを任せられんのは、お前だけだぜ。シェリー。


まぁ、最も今回に限ってナマエはお前のお守だからな。」


ケラケラと笑うジェイクに自然とシェリーの顔にも笑みが浮かぶ。


「・・・ありがとう、ジェイク」



___最高の友人と出合えて、私は幸せだわ



シェリーが助走をつけてジェイクの手を踏み台にしてダクトのある足場へ上る。


私はジェイクに抱えてもらってシェリーの元へと上った。


「・・・気を付けろよ、二人とも。」



歯がゆそうな顔をするジェイク。待つことしかできないというのも結構堪えるものだ。


「大丈夫!シェリーは私が守るからっ!」


「フフ 頼もしいわね。」


シェリーの後ろへ続き細い通路を這いずって前に進む。


(出口・・・)


見えてきた金網に出口が近いことを知るシェリー。
だが突如として出口付近の何もない空間から今まで見たことがないクリーチャーが出現する。


咄嗟に金網と一緒に出口に向かってそれを蹴り飛ばすシェリー。



ダクトから出た先は運が良いことに先ほどの部屋の目の前だった。だが・・・




「なによ・・・アイツ」


くねくねと身体を捩じりながらゆっくりとにじり寄ってくる化け物。
今まで見たクリーチャーと比べれば、大きさもそれ程ないし姿形もそれ程恐ろしくはない。




だが、『コイツに掴まってはいけない。』
 
シェリーの第六感が間違いなく警報を上げていた。



「シェリー!コイツは任せてジェイクをっ!」




いつの間にかナマエはショットガンを手にしてそれを化け物に向けている。


ショットガンの威力に相応しい凄まじい音が鳴り響く。



「いった・・・っ!」


ショットガンを撃った反動は並大抵のものではない。

反動と共に銃から手を離しそうになるが、痛む肩を無視して次の弾を撃ち込む。



慌ててシェリーはジェイクが閉じ込められている部屋のロックをハンドガンで撃ち抜き鍵を開ける。



そしてシェリーから銃を受け取ったジェイクは化け物にマグナム弾を撃ち込む。




化け物はまだピクピクと動いておりしばらくしたら再び再生しそうな気がする。



「さっさとここからズラかるぜ。」


ジェイクはナマエの頭にポンと手を乗せて先行する。


「よくシェリーを守ったな」


ジェイクの賛辞の言葉にナマエは嬉しそうに口角を上げる。


「うわっ なんだお前その顔 気持ち悪っ」


「はぁ!?気持ち悪いってなに!」



言い逃げしたジェイクの後を追うように二人は走り出した。


「ナマエ、ありがとう。あなたがいなかったら私はきっとやられていたわ。」



「そんなのお互いさまでしょっ!」



「・・・そうね」



そう言い微笑むシェリー。

彼女の目にもう迷いはなかった。

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