4-6

「あの河口の先がクーチェンよ。」


レオンたちと別れてシモンズと落ち合う場所まであと少しという所まで近づく。


ナマエの出来事があった矢先に、上司が裏切り者かもしれないと聞かされたシェリー。




ラクーン事件ですべてを失ったシェリーにとって、シモンズは育ての親のようなものだった。




そんな彼が自分を欺いているかもしれない。


「・・・・・・ナマエもこんな気持ちだったのかな。

父親が自分を利用していたって聞かされたとき。」



携帯をじっと見たまま悲しそうに眉を顰めるシェリー。



「ビビんな。会えばわかる。」



シェリーを励ますように彼女の肩を叩くジェイク。


その時彼らの後ろから先ほども嫌と言う程聞いた、チェーンソーの音が聞こえてくる。


「行くぞっ!」


ジェイクはシェリーの腕を引いて船へと乗る。

追いかけるクリーチャーだったが、突然何者かによって発砲された銃弾によってその場に倒れ伏す。




「誰がやった・・・?」


辺りを見回す二人だが人の姿は見当たらない。

とりあえず未だ生きているであろうクリーチャーから逃れるべくジェイクは船を発進させた。


「ジェイク!シェリー!」


ナマエは二人の姿を河口沿いの建物の屋上からエイダと共に見ていた。


「・・・可哀想なシェリー。化け物ばかりに愛されて。」


そう言ったエイダはクリーチャーに向けてライフルを放つ。
それは見事化け物に命中した。



「・・・ジェイクも私もシェリーのことが大好きよ。
会ったことはないけれど、レオンさんって人もクレアさんって人もきっとシェリーを大切に思ってる!」


その言葉にエイダは目を見開く。


「・・・・・そう。」



こんな所でもあなたの名前を聞くことになるなんてね。

___レオン




しつこく二人を追い回すクリーチャー。

あの化け物が持つ腕のチェーンソーのようになっている部分。


あの攻撃を受けたら致命傷は避けられないだろう。


二人があの攻撃をもし受けてしまったらと思うとゾッとする。




ついには船の上にまで昇ってきて二人に襲い掛かろうとする。


エイダさんに渡されていたスナイパーライフル。

恐らくピアーズさんが持っていたものと同じもの。



それを構えてクリーチャーに向けて発砲する。

自分の周りは無防備になってしまうが、照準を合わせやすいライフルはハンドガンよりも命中はさせやすかった。




(ダメ・・・!一発当てただけじゃ倒せる気配がない
・・・あっ!)


クリーチャーの頭上で揺らめく吊り下げられた鉄骨。
工事途中であったのであろうそれはたった一本のワイヤーでぶら下がっているような状態であった。


反射的にワイヤーに照準を合わせて引き金を引く。
ドンッと重い衝撃と共に見事ワイヤーに弾が当たったことを知る。


半分千切れたワイヤーは重い鉄骨を支え切ることができず、クリーチャーの上に降り注いだ。


「見事ね。」


「・・・それ程でも」


その間に二人は何とか岸へと渡ろうとする。

これで二人共助かった。そう思った矢先、


先に岸に渡ったジェイクと渡ろうとしていたシェリー、
その間をクリーチャーはチェーンソーで切りかかる。


その衝撃でシェリーを乗せたまま船は岸を離れてしまう。


「シェリー・・・!!」


慌ててライフルを構えるナマエ。


(くそっ・・・!船が揺れて照準が合わない!)



ジェイクも岸から援護射撃をしているようだがクリーチャーはビクともしない。

船が向かう先には墜落したヘリのプロペラが回っている。


(あのままプロペラに突っ込んだら・・・)


間違いなくシェリーの命はない。


「全く、世話が焼けるわね。」


エイダはそう言い立ち上がったかと思うとナマエを脇に抱える。



「え、え、エイダさん?」



「ナマエ、あなたと過ごした時間、少しだったけれど楽しかったわ。


彼と幸せにね。」






そう言うとエイダはフックショットを手にし、夜の街へダイビングする。



「ぎゃあああああああ!!」



前にもこんなことがあった気がする。本当にこの人たちの神経は普通ではないと思う。



そして私はエイダの手から放り出される。



「え、エイダーーー!」



運ぶならきちんと地面まで運んでほしい。



痛みを覚悟して目を閉じる。




だがいつまでたっても痛みはやってこない。








(・・・あれ?前にもこんなことがあったような・・・)


おそるおそる眼を開ける。


「・・・・・ジェイク、何でこんな所にいるの?」


私の下敷きになって倒れているジェイクの姿が。



「・・・・それはこっちの台詞だ。

いつもいつも人のことクッション替わりにしやがって・・・」





「ナマエ!」
エイダの声に私は上空を見る。
彼女は今まさに船から救出したシェリーを放り出そうとするところだった。




なんであの人は普通に助けることができないのか。



「ジェイク!シェリーを受け止めてっ!」


私の言葉に反射的に反応したジェイクはシェリーを軽々と受け止める。


どうせなら私のこともそうやってかっこよく受け止めてほしかった。



エイダは一瞬こちらに顔を向けて微笑むと、再びビルの屋上へ向かって飛んでいってしまった。


(ここからどうするかはあなた次第よ、ナマエ。)



「少し寄り道しすぎたわね。私も自分の為に動かなくちゃ。」





「・・・・ナマエ?本当にナマエなの・・・?」

シェリーの信じられないものを見るような目にハッと我に返る。



「・・・・・・ごめんなさい・・・勝手にいなくなったりして」



二人の目が見られない。
視線を彷徨わせる私を突然シェリーは抱きしめる。



「うわっ!」


抱き着いてきたシェリーを何とか受け止める。



「馬鹿っ!心配したんだからね・・・!!」


涙を流しながら抱き着いてくるシェリーに私も涙ぐむ。



「・・・ごめん・・・・ごめんね。シェリー・・・・。」



私もそってシェリーの背中に手を回す。

どれだけ自分が彼女に心配をかけてしまっていたのか知り、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。







「シェリー、離れろ。」


ジェイクがシェリーの肩を掴みナマエから彼女を離す。





「ジェイク・・・?」

シェリーはキョトンとした表情を浮かべている。





ナマエと向き合うジェイク。
その瞳はいつものように優しい光を宿してはいなかった。


(当然だ。私はジェイクを、彼のトラウマを抉って酷く傷つけた。)


今更許してもらおうとは思わない。ここで置き去りにされてもいいと思った。




だけど、一言でいいから謝りたかった。



「ジェイク・・・あの、っ!!」




突然温かい彼の腕の中に閉じ込められる。



「ジェイク・・・聞いて、私、「言うな。」


ジェイクに言葉を遮られる。



「俺も無神経なこと言っちまった。だからお前は謝るな。」





耳元で囁くように話すジェイクに身体の力が抜ける。


好きな人の胸の中というのはこれ程安心するものだっただろうか?



「・・・うん。ジェイク。ありがとう・・・。
離れてみてわかった。


私、やっぱりジェイクがいないとダメみたい。


___大好きだよ。」




彼女の告白にジェイクは口をパクパクさせている。


その様子にシェリーが促す。





「ジェイク。女のナマエが勇気を振り絞って言っているのよ。答えは?」



ジェイクは顔を真っ赤にしながらシェリーに向かって言う。




「お、お前は向こうに行ってろ・・・・」



「はいはい♪」




シェリーは語尾に音符でもついたような声色でスキップしながら先へ行ってしまう。



先ほど死にそうな目に合ったばかりというのに元気な人だ。



改めてナマエと向き直るジェイク。



「俺は、大切なものなんてもう二度と作らないつもりだった。

でも理屈じゃねえんだよな。こういうのは。


いつの間にかお前は俺にとってはなくてはならないものになっていた。

お前がいなくなったとき、心底後悔した。
なんでもっと考えて言わなかったんだろうってな。」




言葉ってのは大事なんだな__そう言いながらジェイクは恥ずかしそうに口にする。




「もう俺の傍から離れんな


___お前を愛してる ナマエ」





ナマエの顎を指で上に向け深く口づける。


始めは触れるだけのキスだったのが、ジェイクはナマエの唇を割り口の中まで侵入してくる。



「っん・・・はぁ・・・・・っ」


舌を絡めながら器用に吸い付いてくるジェイクの舌に翻弄される。


だんだんと全身の力が抜け力が入らなくなってくる。





それを感じたジェイクは彼女の唇を離した。


「わりぃ・・・。苦しかったか?」



ハァハァと息切れを起こしている自分に対して彼は随分と余裕そうだ。
これが鍛えているいないの差なのだろうか?




「・・・ううん。ジェイク、あなたの目をもう一度見せて。」



彼の傷痕がある頬を優しく両手で包み込みその瞳をのぞき込む。



「・・・早く空が見たいな。」



「・・・・絶対 俺が本物の青空を見せてやるよ」





「ねぇ。もう終わった?」

ヒョコっとシェリーが物陰から現れる。



「どわあああああっ!おまっ!ふざけんなっ!!」


「え!なによその反応!ひどいっ!!せっかくジェイクの為に隠れて見ていたのに!」



「見てたのかよっ!余計質悪いわ!」



「『俺が本物の青空を見せてやるよ』 

やっぱジェイクは言うことが違うわねっ!」



ワナワナと肩を震わせて顔を染めるジェイク。

その姉弟のような姿に思わず笑ってしまった。

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