4-5
ナマエが消えた。
ジェイクから詳細を聞いたシェリーであったが到底納得できるものではなかった。
どうしでジェイクは彼女に向かってあんなことを言ってしまったのか。
恐らくナマエはずっとそのことを気にしていた。
彼に言われたことによって爆発してしまったのだろう。
(私がなにかしてしまったのだろうか?)
考えれば考えるほど優しいシェリーには自分の所為な気がしてならなかった。
だがそれはジェイクも同じ。
彼女がいたときはこんな荒んだ毎日の中でも笑顔が溢れていた。
だが今はくすんだ空模様のように、心も疲弊しているのが分かる。
思えばナマエは何度もサインを出していた。
「自分は役に立っていない」とポツリと口に出すこともあった。
(なんで一緒にいたのに気が付けなかったの・・・っ)
ただ彼女の遺体が見つからないのが唯一の救いであった。
きっとどこかで生きている。そんな一つの希望を持てたから。
ポイサワンの街を抜けてチェーンソーを腕に持つクリーチャーをやっとの思いで退けた二人。
その先でシェリーにとっては懐かしい顔を発見することになる。
「レオン!」
金髪のサラサラな髪が特徴的な美丈夫だ。
「シェリー!?
エージェントになったとは聞いていたが、何故ここに・・・」
「合衆国の命令で彼を保護したの。レオンは?」
そしてシェリーは自分の上司がこのテロの首謀者であり、大統領を殺害したということを聞かされる。
「シモンズが・・・?だって彼は私の上司よ。この後会う約束だってしているわ。」
「なんだと・・・!」
動揺する彼女だが考える暇もなく爆発音と共に巨体が炎の中から現れる。
「・・・しつこいやつだな」
半年ぶりだろうか。
雪山でネオアンブレラに引き連れられてジェイクを連れ去った張本人、ウスタナクが現れる。
「知り合いか?」
「元カノみたいなもんさ。どうも引き際が分かっていないようでね。」
軽口を叩く男二人を無視し、女性陣は銃を構え戦い始める。
レオン、それにヘレナがいてくれたこともあってなんとか二人はウスタナクを短時間で撃破することに成功する。
「ねえレオン・・・。
日本人の女の子で、これくらいの背丈の。黒髪の制服を着た子を見なかった・・・?」
レオンは少し考えるがすぐに答える。
「いや。見てないな。知り合いか?」
期待していた訳ではなかったがレオンの答えに表情を曇らせるシェリー。
「・・・ええ。私たちの大切な、仲間だったんだけど・・・、
私たちが傷つけてこの町のどこかへ、行ってしまったの・・・」
辛そうな表情で話すシェリー。
上司のこともあり彼女の精神状態が心配になる。
「止めろ。どんなに探しったってアイツはもう戻ってこない。
それにアイツをそこまで追い詰めたのは俺だ。お前の所為じゃない。
奇跡的にあの瞬間生き延びていたとしてもナマエが一人でこの場所を・・・」
生きていける訳がない。
戦う術を持たぬ彼女がこの地獄のような場所を。
何故自分はあの時あんなことを言ってしまったのか。
何故あの時彼女の手を掴めなかったのか。
悔やんでも悔やみきれない。
(だから大切なものなんて作りたくなかったんだ)
もう後悔したくない、悲しみたくないから、自分を守るために人を信じることを諦めた。
だが結局このザマだ。
ガキの頃からちっとも成長しちゃいない。
「・・・お前、その子のことが・・・?」
ジェイクの表情から何かを察したようにレオンが質問する。
「・・・てめえには関係ねぇだろ。英雄さんよ。」
ハンと自嘲気味に鼻で笑うジェイク。
「・・・お前、厳つい顔の割には良い男だな。」
「なっ!?バカにしてんのか!?てめぇ!」
「・・・縁があればまた会えるさ。
でも今度その子に会うことがあったら、しっかりと言葉で伝えろよ。そして思いっきり甘やかしてやれ。
女ってのは嫉妬深い生き物なんだぜ。」
(特にお前みたいに無意識で他人に優しくする奴は要注意だな。)
「は・・・ 何言ってんだ」
ジェイクの肩をポンポンと叩きながらレオンはアドバイスする。
そしてジェイクにだけ聞こえるようにこっそりと耳打ちする。
(案外その子がお前の所を離れたのも、小さい嫉妬が原因かもしれないぜ)
「!!」
その反応にレオンは微笑むと「シェリーを頼む」と言い残しヘレナと共に去っていった。
「レオンと何話してたの?」
話している内容までは聞こえなかったのかシェリーが尋ねてくる。
「・・・いや。大したことじゃない。」
シェリーは「そう」というと元々それ程興味がなかったのか建物の中へ足を進める。
その背中に思わず声をかけるジェイク。
「シェリー!
___いつかまた、ナマエと会えるよな」
「__ええ。必ず。」
次にお前と会ったら、まずは一発お見舞いする。
さんざん俺とシェリーに心配かけた礼だ。
そしてその次はその小さい身体を力一杯抱きしめる。
そしてしっかりと言葉で伝えるんだ。
『お前だけを愛している』と___
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