1-1

「ん…ここは…」


気が付いた私は廃墟のような場所にいた。


外から差し込む光からして時刻は昼のようだが、そこはなんとも言えない不気味さがあった。


「なんで、こんなところに…」


訳が分からず立ち上がる。私は確か昨日まで家にいたはず。
その証拠に服装は学校の指定服だ。


「お父さん…お母さん・・・?」


こんなところ知らないしきた覚えもない。私は夢遊病だったのか?
と思いつつも外に出なければと足を進める。



しかし遠くの方からパララ パララと非現実めいた音が聞こえてくる。


思わずギクリとその身を固まらせる。



「今のは…」

銃声?



いや、でもあまり聞いたこともないし、もしかしたら違うかもしれない。


足音を立てないように歩く。








そしてやっと人に出会えた。


ホッとしながらその人へ近づく。


「あの、すみません。私間違えて入ってしまったようで…。
出口はどちらですか?」




男は振り向かない

「あの…?」


グチャ グチャ 


異様な音がしておそるおそる下に目をやる。



「え・・・」




男の本来腕のあるべき場所からは得体の知れないものが生えていた。

まるでそれ自体が独立して動こうとしているようにドクンドクンと脈打っている。



「っひぃ…!」


その悲鳴に気がついた男はこちらを振り返る。

その顔ももはや人間のものとは言い難いものであった。





「あ”・・・あ“あ”」

男から発せられる声はなんとも忌まわしくこの世の者とは思えない。

咄嗟にその場から逃げようとするがカクンと腰が抜けて立ち上がることができない。



その間にも得体の知れない怪物はこちらに近づいてくる。



「あ・・・」





逃げられない



覚悟し目を閉じた瞬間

ドン ドン という銃声が近くで響く。



「こっちへ!」



可愛らしい女性の声がしたかと思ったら手を取られて走るように促される。

何がなんだか分からないがとりあえずその女性に手を引かれるまま必死に走る。




もう走れないと思ったところで彼女は物陰に隠れその場にしゃがむように促した。


「ゴホッ…ゴホッ… 
あ、の、ありがとう、ございました…」


「気にしないで。」


何が何だか分からないがこの女性は私を助けてくれたらしい。



私のことを心配そうにのぞき込む彼女の姿を見る。



(うわ…!めちゃ可愛い…!)




金髪のショートヘアーの彼女は、恐らく外国人なのだろうがその顔立ちはどちらかと言うと日本人に近く、見た目だけでは正確な年齢が分からない。




「どうしたの?」


「い、いえ…」



あんまり可愛らしい人なので思わず見つめてしまった。


「大丈夫?私は合衆国エージェント、シェリー・バーキン 

本当はターゲット以外誰とも接触するなと言われているんだけど、まさかこんな所に一般人がいるなんて思わなかったから。」


「アメリカの・・・」


この私と同じくらいの年齢にしか見えない人がエージェント!?


実はもう少し年は上なのだろうか?



しかし、先ほどのとても人間とは思えない化け物は一体?

「それにしてもあなた、どうしてこんな所に・・・」


シェリーは何かに気が付いたように言葉を止め、警戒したように部屋の中を覗く。


私も気になり後に続き覗いてみると、そこでは何人かの兵士が集まってそれぞれ謎の注射を打っている処だった。


(どう見てもヤバイ薬です。)


考え込む私を他所にシェリーは私の手を引きその部屋の前をササッと通り抜ける。


「〜♪〜♪」


なんとなく切ないメロディーの口笛が遠くから聞こえてくる。


その方向にシェリーに手を引かれながら走る。


「もう少し落ち着ける場所にいったら話を聞かせてもらうから!
今は私を信じて着いてきて!」


「は、はい…!」


どちらにしろ今は彼女を信じる以外に私に道はないのだ。


「…高くつくぜ」


掠れたような男の声が前方から聞こえる。


シェリーに続き壁の向こうをのぞき込むとそこには先ほどと似たような化け物を素手で倒す男の姿があった。


「つよっ・・・!」

あまりに美しい無駄のない動きに思わず見入る。



「彼を連れてここから離脱するわ。」

「え・・・?」


チラっと時計を見たシェリーは「話は後ね」と言ったかと思うと、私の手を引き彼の前に踊り立つ。



「ジェイク・ミューラー。やっぱりあなたには抗体が・・・。」


「何がどうなってんだ?」


あの男はジェイクと言うらしい。
そしてシェリーさんは彼に用事がありここへ来たと。





しかも極秘で。





なんだか物凄くマズイことに巻き込まれている気がする。



先ほどジェイクが叩きのめした相手は恐らく傭兵仲間であったのだろう。
それが突然化け物となって襲ってきた。

だが彼はそれなりに場数を踏んでいるのかそれ程動揺は伝わってこない。





(絶対にあの注射が原因でしょ・・・!?)





その時何者かの視線を感じ柱の方を振り返る。


チラっと人影が動いたかと思ったがすぐにそれはどこかへと消えてしまった。

(・・・気のせいかな?)




「ボーっとしてないで!あなたも来なさい!」


「え?え?」


いつの間にかジェイクはいなくなり目の前にはあの化け物の群れが。


するとシェリーに背中を押されて下水道へと続くダクトへ押入れられる。


「ぎゃあああああああ!」



突然のことに対応できず次にくるであろう痛みを予想して目を閉じる。


(あれ?痛くない)

おそるおそる目を開けると私の下敷きになっている黒い物体が

「じぇ、じぇ、ジェイク・・・さん?」


「・・・てめえ、いい度胸じゃねえか」




ギロリと睨まれ咄嗟に立ち上がる。
彼がうつ伏せに転んでいることから私は後ろから突っ込んでしまったのだろう。



私が立ち上がると彼もムクリと立ち上がる。

(で、でか・・・)

そのあまりの大きさに私は身上げないと彼の顔さえまともに見ることができない。



「ああああの!すみませんでしたぁぁぁ!」



彼の威圧感に恐れを成しその場に土下座をする。



例え下が下水であろうとなんであろうと関係ない。自分の命が一番大切だ。


「おい!何してんだお前!んなことしてる場合じゃねえだろ!」



私の謝りっぷりに動揺したのかジェイクは少し狼狽える。というか引いている。

突然土下座をし始めた私を立たせようと手を掴み引っ張られる。


そこにタイミングよくシェリーが現れる。

可愛らしく尻餅をついたかと思うと、私の手を掴むジェイクを見て何を勘違いしたのか突然彼に向かって怒りだす。


「ジェイク・ミューラー!あなた、その子に何をしたの!怯えているじゃない!」


「俺は別に何も」


「とぼけないで!後でたっぷりと聞かせてもらうから!」


この場でお説教でも始めそうな剣幕のシェリーに私が促す。



「あ、あのシェリーさん?そろそろ行かないとまずいのでは・・・?」


するとシェリーはハッとしたように「そうね」と優し気な笑顔で言う。



取りあえず下水道からでるべく歩き出した三人。

あまりにでこぼこなその様子に先が思いやられそうだと小さくため息をついた。

[ 1/30 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]