3-2

__半年後


ジェイクは真っ白いなにもない部屋で多くの時間を過ごしていた。

外に出される時と言えば禄でもない実験のときくらい。


思い起こすのは半年前この部屋で何度も何度も抱いてしまった女のこと。



まんまと敵の術中にはまってしまった己を、ジェイクは今でも悔いていた。


あの時のことを彼女が覚えているのかは正直言ってわからない。

何故なら彼女は薬を使われて意識が相当混濁していたからだ。





結局ナマエがこの部屋に連れてこられることはあれからなかった。

恐らく今も自分と同じく監禁されているのだろう。



この半年間、自分がされてきたさまざまな実験。

それを奴らは抵抗する術を持たない彼女にも強要したのかと考えるだけで腸が煮えくり返る。





しかし脱出のチャンスは突然訪れた__

あろうことかたった三人だけの監視で、この自分を部屋から出してくれたのだ。


例え相手が銃を持っていようが、こちらの両手が拘束されていようが、ジェイクには叩きのめす自信があった。


いとも容易く三人を沈黙させたジェイクは先の部屋へ行くが、そこから外へでるためにはパスワードが必要なようだった。



「っクソ!」



パスワードになりそうなものがないか探していると、一つの監視モニターがある人物を映していることに気が付く。



「!!シェリー!?」


ジェイクが部屋から脱出したのと時をほぼ同じくして脱出に成功したシェリーは、身を潜めながら出口を探していた。



半年前最後の記憶にある状況からして、ジェイクもナマエもこの施設に監禁されていることは間違いないだろう。



ジェイクは一人でもなんとかするだろうが、心配なのはナマエ。




シェリーは彼女を探しつつ脱出の糸口を見つけようとしていた。

音もなく後ろから敵を一撃で沈黙させながら廊下を進むシェリー。


そのうち他の扉より明らかに大勢の見張りがついた扉へとたどり着く。



(間違いなくあそこにナマエがいる・・・だけど、)




敵が多すぎる。


さすがにスタンバトン一本では対抗できない。

しかし突然どこからかサブマシンガンが打たれ、扉の前に居た敵は一人残らず消える。



「一体、何が・・・」



警戒しながら辺りを見回すが、どうやら弾が放たれたのはあの監視カメラかららしい。
横にマシンガンが備え付けられている。



「・・・ジェイク?」




恐らくあれを操作しているのはこの施設のどこかにいるジェイクだ。
つまり彼も無事だということだろう。



心強い味方の出現に、シェリーは目の前の扉を開いた。


一度停電したおかげですべての扉のロックが外れているそれは、いとも容易く開けることができた。



「ナマエ・・・?」


室内は暗く、彼女の姿は見えない。


「シェリー・・・?」


声のした方にシェリーは足を進める。ロッカーを開けるとそこには半年ぶりのナマエの姿があった。



「ナマエっ!良かったわ・・・!」



思わず彼女を抱きしめる。
こころなしか半年前よりも若干細くなってしまったような気がする。



「よかった・・・シェリーで。
突然停電したからビックリしてこの中に隠れてたんだけど、シェリーは無事だった?」


「まあ色々実験されたけどね。問題ないわ。

それよりも早く、ここから脱出するわよ。
ジェイクも無事みたいだし。」



『ジェイク』という単語に心臓がドクンと音を上げる。





「・・・早く、ジェイクに会いたいな」



何故だか分からないが心の底からそう思った。




「・・ナマエ、もしかしてジェイクのことを・・・」


シェリーはニヤニヤと笑ったかと思うと自分よりも幾分低い位置にある頭をワシャワシャと撫でる。


「安心しなさい!
オヒメサマは私がナイトの所まで連れていってあげるわ!」



シェリーはそう言うと恐らく監視カメラからその様子を見ているであろうジェイクに向かい、ウインクする。



『早くジェイクに会いたい』


監視カメラ越しにジェイクは二人の様子を逐一見ていた。


やはり彼女はあの時のことを全く覚えていないらしい。


「・・・今更、どのツラ下げて会えっていうんだよ」

覚えているんだ。


あいつの瞳を、声を、身体を。



今の状態で二人に会って、平常心を保てる自信が今のジェイクにはなかった。



一足先にロッカールームにたどり着いたジェイクはそこでシェリーとナマエを待つ。

(平常心・・・平常心・・・)

何事か唱えながらジェイクは壁に寄りかかる。



目の前の扉が開きバタバタと二人が入ってきた。



「シェリー!もう!危ないから!」


「フフ、半年ぶりだから腕がなっちゃって!」



敵地だと言うのに騒がしい二人にハァとため息をつく。



「あっ!ジェイク」


「ほら、ナマエ」とシェリーに促されおずおずと彼の前まで行く。



「・・・ジェイク」


「・・・よぉ」



しかし次の瞬間、彼女たちの服を見たジェイクは焦ったように目を逸らす。



顔の割に初心な彼に笑いが込み上げてくる。



「ププッ!ジェイクって意外と初心だよね。

シェリーがナイスバディで戸惑う気持ちも分かるけどさ。」



それを聞いたシェリーも吹き出す。


「っな!?バカにしてんのか!てめぇ!」


顔を真っ赤にしながら怒るジェイクにさらに笑いが込み上げてくる。


笑いすぎて出てきた涙を拭うとシェリーはナマエの背中を押す。


「ほらっ 言いたいことはそんなことじゃないでしょっ」


「うわっ」


シェリーに押されたことにより必然的にジェイクの胸へ飛び込む形になる。


反射的に彼はそれを受け止める。


目の前に迫った半裸の逞しく鍛えられた胸板にどうしようもなく胸が高鳴る。


「・・ジェイク・・・会いたかった・・・」



俺の決意はなんて脆いんだ。

あれ程もうコイツに対する思いは封印しようと決意しておきながら、
実際に目の前にしたら瓦礫のように音を立てて崩れ落ちた。


「俺も、お前に会いたかった・・・


ナマエ」



彼女の薄い肩を恐る恐る抱きしめる。

自分が力を入れれば壊れてしまいそうなその脆さに、守りたい__



強く思った。

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