手をつなぎながら歩く二人。少し前を歩くピアーズの精悍な顔をチラリと盗み見るナマエ。
こんな状況だというのに彼の横顔に見とれる。
その視線に気が付いたのかピアーズは視線は前のまま尋ねてくる。
「どうしたの?俺の顔に何かついてる?」
「…ピアーズさんってモテそうですよね」
「え?」
唐突な彼女の言葉に疑問符で返すピアーズ。
優し気に自分を見つめてくるその目は今は点になっている。
だがすぐに落ち着きを取り戻したのか笑いながらそれに対し返答する。
「ククッ… ナマエってホント唐突だね。」
「え?そうですか?
ほんとにそう思ったから聞いたんですけど。
彼女とかっていないんですか?」
「残念ながらいないね。職業柄なかなか、ね。」
やはり笑いを堪えながらなんとか答えるピアーズ。
だがナマエの空気を読まない発言は続く。
「えー!勿体ない。
女の子ならピアーズさんみたいな人、ほっとかないと思うけどなぁ。」
「…俺はこんな仕事をしているしいつ死ぬかも分からない身だ。
後のことを考えるとどうしても慎重になってしまうのさ。」
かっこよくて、優しくて、気が使える。
だが相手が負担にならないようにさりげない気づかいができる人。
そして強い信念と目的を持っている。
きっとピアーズさんはその為なら進んで自らの命さえなげうつのだろう。
ここに落下した時だってそうだ。
彼は身を挺して私のことを守ってくれた。見ず知らずの自分をだ。
__死ぬ覚悟ができている人間。
それは私には想像もつかないくらいすごいことだ。
彼くらいの年齢でそんな目的や覚悟を持っている人間がどれほどいるだろう。
出会ったばかりの私がこんなに心惹かれる位の人だ。
きっとピアーズさんは相当にモテているだろう。
そう考えると胸の辺りがもやもやとした。
「…じゃあ私、立候補しちゃおうかなぁ」
「それは光栄だな。」
ナマエなりの冗談だと思っているのか相変わらず笑っているピアーズ。
(半分くらい本気なんだけどね。)
私と彼は住む世界が違う。
たぶんここから出たら二度と出会うことはないのだろう。
だがここにいる間はピアーズは自分だけを見てくれる。
いけないと思いながらも心の隅では、もう少しここにいたいと思ってしまった。
ピアーズは何となくだがナマエが内包している思いが何なのか分かっていた。
唐突に話し始めた彼女。恐らく一種のつり橋効果というものだろう。
壮絶な体験を共にした男女はその時の動悸を恋と勘違いするというやつだ。
今まで何人もの人を救ってきてその中で好意を向けられたことがなかったかと言えば嘘になる。
やはり自分を守ってくれる人間と言うのは特別になるのだろう。
事実自分なんかより今まで数多の人を救ってきたクリス隊長なんかは物凄くモテる。
だいぶいい年齢だというのに未だ若い女の子が後を絶たない。
だがやはり相手は一般人であることには変わりない。
いつ死ぬかわからない身で軽々しく無責任なことはできないというのがピアーズの持論だった。
彼女の気持ちも一時的なものだろう。
無事にここから出て、普通の生活に戻れば徐々にその気持ちは薄れていく。
だからピアーズは冗談っぽく返すことにした。
だが自分とて軍人とはいえその前に一人の男だ。
一時的にとは言え好意を向けられ嬉しくないはずはない。
彼女の訴えるような大きな瞳を見ないようにピアーズは笑って誤魔化した。
__気づいてしまったら後には引けなくなる
彼女には普通の幸せを掴んでもらいたい。
それは自分では成せないことなのだ。
ピアーズはそう言い聞かせてただ笑った。