「う…」
目を覚ました私は辺りを見回す。
しかし目の前は暗闇に包まれており周りを見ることは叶わない。
自分が落下してきた上の方を見上げるがやはり暗闇に包まれておりなにも見えない。
背中に鈍痛を感じるが私としてはそれどころではなかった。
もしも今、あの化け物が周りにいたら__
「ぴ、ピアーズさん…?」
先ほど覚えたばかりの男の名前を呼ぶ。
だが返事は帰って来ない。
「ピアーズさんっ!」
小さい声では聞こえないのかもしれないと思い、先ほどよりも大きな声を上げる。
だがそれでも彼からの返答はない。
___もしかして
彼は私を置いて先に出口へ向かってしまったのではないか?
「や、やだ… ピアーズさん!どこなの…!」
パニックになりかけたその時、突然後ろから何か太いものに口を塞がれる。
「んんー!!」
「シィー…落ち着いて。俺はここにいるよ。」
後ろから自分の口を塞いでいたのはピアーズの腕であった。
先ほどまでは得体の知れない恐ろしいものだと思っていたそれの正体を知った途端に安心したように力が抜ける。
彼はナマエがもう叫ばないと判断すると彼女の口から手を離し、視界を確保するべくライトを付けた。
見えた彼の顔に安心して思わず抱き着く。
ドクンドクンと力強く鼓動する彼の心臓に、ここにいるのは自分一人だけではないと安堵する。
私の意を汲んでくれたのか彼は私を安心させるようにその背中に手を回してくれる。
「無事でよかった。痛い所はない?」
彼の言葉にコクンと頷く。
背中が落下したときに打ったのか少し痛んだが、今はそれよりも一刻も早くここから出たかった。
「よし。じゃあナマエ、今から君と俺とでここから地上に出る道を探すよ。
だけど、もしかしたらさっきも見た化け物がここにもいるかもしれない。」
ここにもゾンビがいる?
それを聞いた私はブルリと震える。
それに気が付いた彼は安心させるように私の耳元へ唇を近づける。
「大丈夫。俺はこういう修羅場をいくつも潜り抜けてきている。
君は絶対に俺が守るから。
だけどそのためには君にも幾つか守ってもらわなけらばならないことがある。」
彼の言葉に私の震えも自然と収まる。
そして唇が私の耳にくっつきそうなくらいの至近距離で囁くように話す。
「一つ目、出来るだけ大きな声は上げないこと。奴らは音に反応して近づいてくる。
一応頭には入れておいて。
二つ目、俺が発砲しても驚いて逃げたりしないこと。三つ目、
__俺を信じてついてくること 守れる?」
優しく抱きしめながら囁く彼に私は再び頷く。
「は…い、守ります…。」
久しぶりに出した声は思ったよりも震えていた。
「OK。じゃあゆっくり進もうか。決して俺から離れないで。」
スッと離されるその身体。
「あ…」
駄目だと頭では理解していても離れる体温に怖くなり、思わず彼の服を掴む。
「ご、ごめんなさい!」
慌ててその手を離す。
それを見た彼はクスッと笑いその大きな手を差し出してくる。
「手でも繋ぐ?」
さんざん恥ずかしいところを彼には見せてしまっていたが、何故か今になって猛烈に恥ずかしくなり一度出しかけた手を引っ込める。
「け、結構です!」
「そう?いつでも必要だったら言って」
そう言って彼は私に背を向けて歩き出してしまう。
私は置いて行かれないようにその大きな背にぴったりとくっついて歩を進めた。