2.謎の集団との遭遇
到着したのはショッピングモールから出て、それ程離れていないホテルの一室。
お世辞にも綺麗とは言えないそこに、彼と同じく武装した集団がいた。


「ピアーズ!無事だったか。」

「クリス隊長 遅れてすみません。生存者を発見しました。」


狭い室内に集まる大柄な武装した男たち。
訳が分からぬままこの場所に連れてこられたナマエは雨に濡れた子犬の様にブルブルと震えている。

それに気が付いた私をここに連れてきた男が、私を怖がらせないためか同じ目線まで屈んで話しかけてくる。


「驚いたよね。ごめんね。
俺はピアーズ。BSAAという組織の人間。
ここにいる奴らは君に危害を加えることはないから安心して。」

「…びーえす、えー?」

謎の名称に思わず疑問符を返す。

「そう、BSAA。
対バイオテロ特殊組織の略称。聞いたことない?」

彼の言葉にフルフルと首を横に振る。

「そっか。じゃあまずは君の名前を聞いてもいい?」

目の前の優しく問いかけてくるこの男が危険ではないと判断したナマエは震える唇で言葉を紡ぐ。


「……ナマエ」


「OK ナマエね。
じゃあ今から俺が話すことを落ち着いて聞いてほしい。」


私は彼からこの街がバイオテロを受けたこと。元々それ程大きい街ではなかったことも相まって被害が一気に拡大したこと。
そして彼らがこういう不測の事態の際に動く特殊部隊であることを聞いた。

普通に生活してきた私にとって信じられないような話ばかりであったが、先ほど見た人を喰うモノと、目の前にいる武装した彼ら。
それらを見て夢だと思えるほどおめでたい頭はしていなかった。
そして自分以外の生存者は未だに発見できていないことも聞かされた。


「そ…そんな…」

「信じられないのも無理はない。だが実際君も見たはずだ。生きる屍を。」


人を喰らう人。
血に濡れたその顔を思い出すと吐き気を催し思わず口元を抑える。
それを見たピアーズは彼女の背中を優しくさする。


「…ごめん。俺が無神経だったね。嫌なもの思い出させた。」


「わ、わたし…どうなるんですか…?あれと同じになんか、なりたくない…!」


恐ろしい現実に涙を流すナマエ。
それをピアーズは慰めるように彼女の頭を撫でる。


「大丈夫。バイオテロに巻き込まれた君みたいな一般人を守るのも俺たちの役目。

__君は俺が守るから安心して」


頭に当てられる温かい大きな手と魔法の言葉。それだけで先ほどまでの不安と恐怖がスッと引いていくのを感じる。
それを見ていた彼とは別の大柄な男が声を発する。


「…落ち着いたみたいだな。
ではこれからバイオテロを鎮圧しつつ街の外への脱出経路を確保する。だがその前にここで少し休息時間をとる。これからハードな工程になることは間違いない。
今のうちに英気を養っておくんだ。」

先ほどクリス隊長と呼ばれていた男はそう言う。隊長と言うだけあって落ち着いた雰囲気だ。




それぞれが休息をとるためかこの窮屈な部屋から出て行った。
だが私はその場を動けずただ椅子に座っていた。
先ほどピアーズさんから聞いた信じがたい話。それを信じてしまえば私が今まで生きてきた人生すべてが変わってしまいそうで、とても怖かった。

「不安?」

誰もいないと思って居たためビクリと身を竦ませる。
後ろを振り向けば壁にもたれかかるピアーズさんがそこにいた。

不安?そりゃあ不安に決まっている。
先ほどの化け物がまた出てきたらと思うと生きた心地がしない。


「…大丈夫です」


全然大丈夫ではないが強がって平気なフリをする。
時間が経ってなんとか立ち上がるようになった足を立たせて彼の横を通り過ぎて部屋を出ようとする。

フラフラと何かを探すように部屋を出た私を見て、彼は何を探しているのか悟ったのかそれ以上何も言うこともついてくることもなかった。


こんな危機的状況に陥っても生理現象は止められない。
目的のトイレらしき扉を発見した私はその扉を開いて足を進める。


「きゃあっ!!」

だがその足が地面につくことはなかった。
ガクンという衝撃と共に咄嗟に開いたドアノブへと掴まる。

そう、トイレだと思っていた扉の先には空間がスッポリと抜け落ちてしまったかのように地面がなかった。
その先は真っ暗でかなり深さがありそうだ。
なぜホテルの一室にこのような深い穴が__


ドアノブに掴まった私の手は自分の体重を支えるだけの力がなく限界だった。


「だ、だれかぁっ!!」


その悲鳴にピアーズはすぐに駆けつけてくれた。


「ナマエ!?」


彼に遅れて他の隊員も向こうからやって来ようとしている。

だがそれを待たずしてドアノブは悲鳴を上げた。
バキッという音が何もない真っ暗な空間に響いたかと思ったら私の身体はすでに宙にいた。
ヒュッと内臓が浮き上がる感覚。もう駄目だと諦めかけたそのとき、


ピアーズさんは暗闇に飛び出し私を抱きかかえる。

後から来た隊員たちは飛び出した彼を助けようと手を伸ばすが、その手は彼に届くことはなかった。



二人は暗闇の中を真っ逆さまに落ちていった。


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