12.戻るか、進むか
「クソッ!どこから湧いた…!?」

ピアーズさんは私の手を取りながら全力で走り続ける。
後ろからは恐らく十体以上はいるだろうか?
無数のゾンビが結構なスピードで追いかけてきていた。

「ハァ…!ハァ…!」

これだけの重装備にも関わらずピアーズの走るスピードは速く、早くもナマエの息は切れていた。
このままでは追いつかれるだろう。


(どうする…!?)

しかし悪いことは続くものである。
自分たちが走ってきた一本道の先、そこは一階分くらいの下がっている階段があり向こうの棟へと続いているようだった。

ここの先にエレベーターがある。
だが__


「クソッ!なんで浸水してるんだ!」

その隣の棟へと続いているであろう渡り廊下は天井まで浸水していた。

(どうする!?どうすれば…)


後ろからは大量のゾンビ。進む先は水。


___進む道は一つしかない


瞬時に判断したピアーズは、横のナマエへと問う。

「…ナマエ。泳ぐのは得意?」


決意したように問いかけてくるピアーズ。
彼の心はもうどうすべきか決まっているのだろう。
自分の決心を待っている。

ナマエは彼の意を汲み取るとできるだけ明るく話す。


「任せて下さい!こう見えて私、泳ぐのだけは得意なんですっ 
何せ高校の頃は水泳部でしたから!」

「ははっ…本当か?」

そう言う彼女の足はその声の明るさとは裏腹に震えていた。
その言葉が嘘だとは思わないが、わざとらしく明るい声で虚勢を張るナマエ。

だが今は彼女の虚勢を信じる以外に道はない。

彼女に向かって一瞬微笑むピアーズ。
前からはゾンビの群れが来ている。
もう迷っている暇はない。


「行くぞっ!」

ピアーズの声と共に大きく息を吸って水の中へ飛び込む。





(大丈夫。廊下みたいな所だしそれ程距離はないはず。)

一切の音が届かない世界。
考えることはそれだけで酸素を使用する。
できるだけ無心になろうとナマエは必死にピアーズの腰にしがみついた。

水の中まで光が届くことはなく、光源といえばピアーズが点けたライトのみ。
水中にはそこで息絶えたのであろう人が所々に浮いている。
いつ死んだのかはわからないがこの水は確実に身体に悪いものだ。
ピアーズはできるだけ急いで向こう側を目指した。



(…まだ?まだつかないの…?)

ナマエの身体の中の酸素がなくなっていくのが分かる。
それでも一向に光は見えてこない。

酸素を求めて痙攣し始める手足。
ピアーズの腰から離れる手を彼の手に掴まれる。

グイッと身体が浮上するような水圧を感じたかと思うと、その瞬間空気を求めてせき込んでいた。


「ゴホッ…!…着いた、の?」

「ハァ…ハァ…
…ああ。よく頑張ったな、ナマエ。」


もう当分水はごめんだ。
ピアーズの手に引かれて水中から上がるナマエ。


だが次の瞬間ピアーズはギョッとしたように慌てて目を逸らす。
どうしたのかと思い自分の姿を見る。


「あっ…!」

彼女の服は水分によってペッタリとその身体に沿って張り付いており、柔らかそうなラインを露わにしていた。
また下着をつけていないせいでその薄い色の服の上からは、トップの位置は愚かピンク色の乳輪がうっすらと透けて見えていた。

慌てて自分の身体を隠すように両手を前で組む。


「…俺の中に来ているTシャツの方がまだ濡れていないかもしれない。
…その辺の部屋で着替えよう。」

「すみません…」

こんな恥ずかしい姿を彼に見られていたなんて。


ナマエは耳まで真っ赤にしながらも彼の後へと続いた。


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bkm