「駄目だっ…」
「お願いですっピアーズさんっ…!」
「アンタにそんなことをさせる訳にはいかないっ…」
「でもっ私もピアーズさんのために何かしたいんですっ!」
「だからって『ライフルを渡せ』って…正気か!?」
事の始まりは二人で目が覚めた後からだった。
突然ピアーズに詰め寄ったナマエは何故か自分に背中にあるライフルを貸してくれと言ってきたのだ。
ナマエは思ったのだ。
さっきの出来事だって自分がもっと慌てずに対処できていればピアーズに余計な苦労をかけることはなかった。
自分がもっと強ければピアーズばかりに苦労をかけることはない。
彼女なりに考えた末の結論だった。
それにしても安直すぎる答えだった。
ピアーズが抱えるライフル『対物ライフル』なるものは重量だけで10sを超える。
名前の通り元々の用途は戦車を破壊したりするためのライフルだ。
撃ったときの反動は大の男ですら慣れていなければふっとばされてしまう程。
なんの訓練もしていない女に扱えるような代物ではない。
だがナマエは尋常ではない位に食い下がってくる。
説明した所で納得しないだろう。
そう判断したピアーズは一度彼女にその銃を持たせてみることにする。
「…じゃあしっかりと構えられたらね。重いよ。気を付けて。」
そう言って背中からライフルを下ろしナマエへ渡すピアーズ。
それを受け取ったナマエはあまりの重さに思わずそれを落としてしまいそうになる。
すんでの所で落とすことは避けられたがとても構えられる状態ではない。
「お、おもっ…」
「重いでしょ。分かっていると思うけど撃つときの衝撃も半端じゃない。」
そう言って彼女からライフルを取り上げるピアーズ。
落として暴発でもしたらそれこそただでは済まない。
シュンとうなだれるナマエにピアーズはハァとため息をつく。
「これ」
ピアーズが彼女に渡した銃はハンドガン。
これならば彼女でも先ほどのライフルに比べたらいくらかマシだろう。
それを受け取ったナマエは新しいおもちゃでも貰ったかのように笑顔になる。
「できるだけそれを使わないで済むように善処する。
だからナマエも無闇に弾を使わないように。」
無闇に弾を使わないように、正直それはピアーズにとって建前だった。
彼女の柔らかい手が血に汚れるのを見たくない。
どちらかと言えばそれが本音だった。
だがこの状況でそれは甘い考えだろう。
もしもなんらかの理由で自分が倒れたとき彼女が身を守る術がないとあっては笑えない。
勿論自分に死ぬつもりはない。
例えハンドガンを手にしたところでナマエは素人。
動くゾンビの頭へ弾を命中させることは難しいだろう。
ピアーズが途中で倒れれば彼女の生存率も一気に低くなる。
寧ろゼロに近いと言っても過言ではない。
ピアーズの熟考を見てナマエは何を思ったのか場違いな明るい声を出す。
「大丈夫ですよ、ピアーズさんっ!ピアーズさんは私が守りますから!」
そんな彼女を見てピアーズは自分よりも随分低いところにある頭を優しく撫でる。
ナマエを無事に地上に送り届ける__
それまでは何があっても倒れるつもりはなかった。