15.視線のぶつかり合い
「どこ蹴とばしてるんだよ、へたくそ!」
「誰だよ!あんなところにボールを蹴ったやつは。」
浜辺でボール遊びをしている子供たちを後目にアバッキオはムーディー・Bのリプレイを続けていた。
漸く15年前の6月までさかのぼることに成功したのだ。
見逃さないようにアバッキオはただじっとそれだけに集中していた。
「もっと上だよ。上狙え!」
「よじ登って揺すれよ」
騒がしい子供たちのほうへアバッキオは顔を向ける。どうやらボールが木の枝に引っかかってしまいどうにかして取ろうと四苦八苦しているようだ。
集中したいのにそうもいかずアバッキオはついに声を上げる。
「おい!やかましいぞ!もっと向こうの浜辺の広いところでやりな!」
「ンなこたぁ分かってるよぉ…。」
「お兄さん。このボールとってくれよ。」
アバッキオはチラリとリプレイを続けているムーディー・Bに目をやる。
特に問題はなさそうだな、と思った彼は引っかかったボールをとるために子供たちのほうへと近づいていった。
「あ、あれ?なんだこれ?おっかしいなぁ…。」
「どうした、ナランチャ?」
「いや…、なんかすげぇスピードでこっちに向かってくるヤツがいるんだけどよぉ…。」
「何ッ!?」
「いや!でもおかしいんだよ!この呼吸は二人だ。二人いる。一人すげぇスピードで走ってるヤツがもう一人を担いでんだよ!
ヤバイ!コイツ、車と同じくらい早い!!『エアロ・スミス』!!」
「待て!!ナランチャ!!」
ブチャラティが止める前にナランチャはエアロ・スミスでこちらに向かってくる何者かを狙撃した。
辺りに銃声が響き渡る。
だがナランチャの様子が可笑しいことに気がついたブチャラティは大声を上げた。
「ナランチャ!何があった!?」
「__当たってねぇ!!確かに打ち込んでやったのに、一発も弾が当たってねぇんだ!!」
動揺するナランチャ。しかしそんな暇はない。敵はすぐそこまで迫ってきているのだ。
ブチャラティは自らのスタンドを出して戦闘態勢を取る。
「落ち着けナランチャ!!来るぞ____!!」
辺りの気温が一気に下がり風が冷たくなった。
凍るまではいかない。しかしこの能力にブチャラティは覚えがあった。
この能力は確か、暗殺チームの___、
「どけッ!!ブチャラティッ!!!」
「てめぇは確か、暗殺チームのギアッチョッ!!」
こんな場所まで追ってくるとは。ブチャラティは冷静にスティッキィ・フィンガーズを構える。
しかし彼が平静を保っていられたのもそこまでだった。
「___ブチャラティッ!!」
「な……ッ!!」
聞き覚えのある高い声にブチャラティは一瞬全身を固まらせた。
岩場をジャンプ台のようにしてブチャラティたちの横を駆け抜けていった彼ら。
「___ナマエ!!??」
何故暗殺チームの奴とナマエが一緒にいるのか。
さまざまな疑問がブチャラティの頭の中を駆け巡ったが、それよりも先に身体が動いていた。
「ブチャラティ!?一体なにが起こってるんだよっ!?どうしてナマエがここに!?あれって暗殺チームのヤツだろ!?」
それは自分が聞きたい。
とにもかくにも緊急事態であることは良くわかる。
慌てて二人は駆け抜けていったギアッチョの後を追う。
「いいのか?てめぇの愛しのブチャラティを無視してよ。」
「今はそんな場合じゃないよ!!お願い!ギアッチョ!!」
もうすぐ目の前にはアバッキオの姿がある。
彼の姿を認めた瞬間、ナマエは声を上げた。
「___アバッキオッ!!その子供に近づいちゃ、ダメッ!!!!」
しかしアバッキオは気がついていないのか木の枝の間に挟まったボールを取ろうとしている。
周りでそれを見守る子供たちの中に、見覚えのある服を着ている少年がいた。
「チッ…!!間に合わねぇ!!このまま突っ込むぜ!!ナマエ!!」
「お願いッ!!」
スピードを緩めない、それどころか加速したギアッチョに漸くアバッキオは気がついた。
そして勿論、アバッキオを始末しようとしていたであろうディアボロも。
しかし彼らが構えを取るよりも早くギアッチョが突っ込んだ。
「キング・クリムゾンッ!!」
「プレシエンツァ・フューチャー・インスィエーメ!!」
ギアッチョに抱えられたまま、アバッキオの腕をとり能力を発動させる。
ディアボロの能力によりこの場のすべてのものがスローになる。
その中をギアッチョは走り抜けた。
ナマエに腕を掴まれていたアバッキオも必然、引きずられるようにディアボロから引き離される。
時間にしてたったの数秒間、ディアボロの能力が解除された後ギアッチョは漸く氷の装甲を解いた。
「はぁ、はぁ…、てめぇ、重いんだよ…。アバッキオ。」
さすがのギアッチョもスタンドを使ってずっと全力疾走を続けていたためか酷く息を切らしている。
それでもギアッチョはナマエを自分の手から離そうとしなかった。
「な、なんのつもりだ…。てめぇ…!?それにナマエ…!?何故ここに!?コイツと一緒にいやがる!?」
「それよりもアバッキオ!!そこの子供から離れて……、
___あれ?」
いない。
少年の姿をしたディアボロはすでにこの場のどこにもいなかった。
ギアッチョも警戒するように辺りを見回すが、この場にいるのは彼らと、ボールを取ってもらってここから離れていく子供たちだけだった。その中にあの少年の姿はない。
「消えた……。」
「なにわけのわからねぇこと言ってやがる!ナマエ!!何故暗殺チームの奴と一緒にいるんだ!!」
「アバッキオ……。これには理由が…。」
アバッキオが無事でよかった。
しかし彼の怒り様を見ているとそれでめでたしめでたし、という訳ではないだろうことが良くわかった。
どこから説明したものかと頭を悩ませていると、突然後ろに引っ張られて抱きすくめられた。
「ギ、ギアッチョッ!?」
「テメェらがいらねぇって言うからよぉ、この女は俺たちが拾ったんだ。
___なぁ?ブチャラティ。」
「……え?」
ギアッチョの言葉に、慌ててアバッキオの少し後ろへと視線を向ける。
そこには私が会いたくて会いたくて仕方なかった彼がいた。
アバッキオを助けたくてただただ一心不乱にここまで来た。
しかしその目的も達成した今、ブチャラティに会うことは嬉しさよりも気まずさのほうが勝っていた。
「……ナマエ。どういうことか、説明してくれるか……?」
「…ブチャラティ……。」
彼に名前を呼ばれただけで切なくなり思わず目を逸らす。
後ろから私を抱きしめているギアッチョの腕に力が籠るのが分かった。
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