Day`s eyeをあなたへ | ナノ


  13.邂逅


ヴェネツィアを発ち『親衛隊』と接触したブチャラティたち。
ボスの親衛隊である彼らは暗殺者チームの彼らと同じか、それ以上に容赦なく場所を問わずに襲ってきた。
トリッシュの助言で彼女の生まれ故郷である『サルディニア』を目指すことを決めた彼らは、一台の飛行機を盗んで空路から目的地へと向かった。
その飛行機の中で『ノトーリアス・BIG』という死んだ後に強い念となって発動するスタンドに襲われ、ブチャラティたちは全滅の危機に陥った。それを見事に救ったのはトリッシュであった。今までブチャラティたちに対してどこか壁を作っていたトリッシュの中に、他人であるはずの自分を何度も助けてくれた彼らに対して新たな思いが芽生えつつあったのだ。
その原動力がトリッシュのスタンド能力を目覚めさせた。
彼女の機転で見事に敵を退けたブチャラティたちは、今朝無事にサルディニアへと到着したのだった。

そしてそれと時をほぼ同じくして、海路からサルディニアに到着した5人がいた。

「大丈夫か?ナマエ。」

「うっ…、す、すみません…。リゾットさん…。め、メローネ。もう大丈夫。ありがとう…。」

予想外の荒い海に見事に船酔いしたナマエは息も絶え絶えだった。
メローネはそんな彼女のことをいたわるように背を撫でてくれていた。

「そう?そんなに遠慮しなくていいんだぜ。」

そう言うとメローネはスッとナマエから離れていった。
珍しく変態行為もなくただ優しいメローネに妙な違和感を感じている自分がいた。
そして胃のムカムカした感じも落ち着いて来たころ、ヨロヨロと立ち上がると漸く自分の違和感に気がついた。

(ブ、ブラのホックが…!?)

ふわふわとどこか心もとない違和感にすぐに気がついた。慌てて自分の胸元を手で押さえる。

「どうした?」

「プ、プロシュートさん、な、なんでもないです…。」

犯人は一人しかいない。先ほどまで背中をさすってくれていたメローネをキッとにらみつける。
メローネはそんなナマエを見てイタズラの成功した子供みたいにニコリと笑った。
なんて器用な男なのか。ワンピースの上から私に全く気づかれないようにこんなことをするなんて。
と、妙なところで感心してしまった。

「なんか変だぞ。オマエ。まだ気持ち悪いのか。」

「え、えと…。違くて。」

背中を触ろうとしたギアッチョの手を慌てて避ける。

「…なんで避けるんだよ。」

「だ、だって…。」

避けられたことでギアッチョは少し傷ついたのか躍起になってナマエを捕まえようとする。
助けを求めてプロシュートさんのほうをチラチラ見上げる。
するとやはり面倒見のいい兄貴肌の彼はため息をつきながらもナマエとギアッチョの間へ入り仲裁してくれた。

「おい、もういいだろう。ギアッチョ。」

助かった。ナマエがそう思ったのも束の間だった。

「ナマエ。時間は限られているんだぞ。遊んでないでさっさと下着を直して来い。メローネ、お前も子供みたいなくだらんイタズラをするな。」

予想外のリゾットからの攻撃に、ナマエは勿論ギアッチョまでもが顔を赤くした。
ギアッチョの眼鏡越しからの視線を胸元に感じ、ナマエは慌てて胸元を隠してその辺の岩陰に引っ込んだ。

「リゾット…。言うにしたってもっと言い方ってもんがあるだろ…。」

「なぜだ?急いでいるのは事実だろう。」

「そりゃあそうなんだがな…。」

リゾットの率直すぎる物言いはいつものことだが、今回ばかりはプロシュートも顔を覆った。
さて、この顔を真っ赤にして固まってしまった後輩をどうするか。
(コイツ…、本気で好きな女にはとことん初心になるよな。)
童貞ではないのに未だに純粋さを失っていないギアッチョに、プロシュートはいけないと思いながらも少し笑ってしまった。



ブチャラティたちはトリッシュが大切に持っていた母の写真を頼りに、例の場所をナマエたちよりも一足早く訪れていた。
この場にいるのはリプレイに必要なアバッキオ、それにブチャラティとナランチャ。
ミスタとジョルノはトリッシュの護衛のためにこの場からは少し離れた場所で亀の中で待機している。

「アバッキオ。お前は速やかに『ムーディー・B』で15年前のここでの出来事をリプレイしろ。
全てリプレイし終わるのに何分かかる?」

ブチャラティの言葉にアバッキオは迷わず答える。

「15年前のことだからな。少なくとも15分くらいはかかるだろう。」

「わかった。ナランチャ。お前は俺とこの辺りの警戒、そして無防備状態になるアバッキオの護衛だ。いいな。」

「だけどブチャラティ。『エアロ・スミス』の探知によると、この辺りには俺たち以外の人間は全くいないぜ。」

ナランチャはエアロ・スミスで探知しながらも暇そうに頭の後ろで手を組んでいる。

「気を抜くんじゃあねぇ。ナランチャ。頭の切れるボスがこの写真の存在に気づいていないはずがない。そして唯一ボスの正体を知ることができるアバッキオの存在を放っておくとは思えない。」

「わかってますよぉ〜。こっちには人っ子一人いませんよぉ〜。」

「真面目にやれ!ナランチャ!!」

「ご、ごめんってぇ!ブチャラティ!これでも俺真面目にやってるからさぁ、そんなに怒らないでくれよぉ〜!」

「チッ…。俺はリプレイを始めるぜ。ブチャラティ。」

「あぁ、頼む。アバッキオ。」

アバッキオはムーディー・Bを出現させてリプレイを開始した。
少し離れたところからはスポーツを楽しんでいるのであろう子供たちの楽しそうな声が響いていた。



「え!?やばくない!?あの金髪スーツの人マジカッコいいんだけど!!」

「なんだろう。何かの撮影とかかな?」

「いや…。どう見ても堅気じゃあねぇだろ。絶対関わらないほうがいいって…。」

(ヤバイ…。目立ってる。かなり目立ってるよ…。)

時を遡ること約30分。
ナマエはどう見ても堅気には見えないであろう4人の男の後ろから少し距離をとって、通行人たちからの視線に隠れるようにして歩いていた。
彼らの仕事は暗殺。この目立ち方からはとても信じられないが事実なのだ。
中でもやはり一際女性からの視線が熱いのはやはりプロシュートさんだろう。
先ほどの黄色い声も彼に向けて言ったであろう言葉だということが良くわかる。
その時だった。
足元に何かがコツンと当たって下を見る。

「なんだろ、これ?水晶玉…?」

しゃがんでそれを拾い上げようとした時だ。

「あっ!君!危ない!どいて!!」

「えっ、きゃあッ!!」

突然路地の奥から飛び出てきた人影にぶつかって、その衝撃で吹っ飛ばされる。

「す、すみませんッ!だ、大丈夫ですか…?」

「い、いえ…。こちらこそすみません…。」

その正体は眉がハの字に下がったどこか気弱そうな少年だった。本当に申し訳なさそうな顔をして謝ってくるので、こちらもなんだか申し訳ない気持ちになってしまう。
少年が申し訳なさそうに手を差し伸べてくれたので、その手に掴まって立ち上がろうとした。
彼の手に触れた瞬間だった。
何か、以前にも感じたことのあるとてつもなく嫌なものが身体中を駆け巡った。
思わず自分で掴んだはずの彼の手を離してしまい、再び地面に倒れ込む。

「あ、あなたは、一体……!?」

「えっ?ど、どうしたんですか?大丈夫?やっぱりどこかケガしてしまいましたか…?」

(あれ?気のせい?)

やはり目の前の少年はどこからどうみてもただの気弱そうな少年だ。
なんだったんだろう。今の全身を走り抜けた嫌な感じは。
未だ手を差し伸べてくれている彼の手に今度こそ掴まって立ち上がろうとする。
しかし私が掴もうとした手を逆に思い切り掴まれて、とても目の前の彼からは想像できないほどの力で無理やり引き上げられた。
すると底冷えするほどの冷たい声でたった一言少年は呟いた。

「…まさか、こんな場所で再び貴様に出会うとはな。」

「い、痛…っ」

先ほどの気弱そうな少年とは全く違う、威圧感のある低い声。
この声、この話し方。身に覚えがある。
瞬間的にマジョーレ島でのことを思い出した。


____パッショーネのボス、ディアボロ。


「プレシエンツァ・フューチャー!!」

慌てて能力を発動する。
ディアボロに能力を使わせること、それは手も足も出ない状態になるということ。
たとえ戦えなくてもそれだけは阻止しなくてはならない。
慌てて一番後ろを歩いていた彼の名前を必死に呼ぶ。

「ッ!! ギアッチョ___!!」

しかし彼らの歩いていたほうを見たとき、すでにそこに4人の姿はなかった。
その代わりにボスの後ろから見覚えのある姿が現れる。

「そんなに叫ばなくても聞こえているぜ。ナマエ。
くらいな!!『ホワイト・アルバム』!!」

「ギアッチョ!」

ホワイト・アルバムの装甲をすでに身に纏ったギアッチョは辺り一帯に一瞬のうちに氷を張った。
さすがのボスも突然のギアッチョの出現に驚いたのか、キング・クリムゾンを出現させる間もなく足がギアッチョの氷に捕らわれる。

「ったく…、やっぱりてめぇの能力は俺との相性最悪だぜ。見境ねぇしよ…。」

プロシュートは氷に捕らわれて動けなくなったボスからナマエをできるだけ遠くに引き離した。

「ハハッ!んなこたぁ俺には関係ねぇよ。
それよりもテメェだよ、そこのクソ野郎!!!この女によぉ、手ぇ出して生きて帰れっと思ってんのか!?あぁん!!??」

「……お前は確か、暗殺者チームのギアッチョだな。それにあっちはプロシュート。
どこかに他のメンバーも隠れているのか?」

「はぁ?テメェ、なんで俺たちの名前を___、」

「ギアッチョ、ダメ!!ソイツから離れてーーー!!」

「キング・クリムゾン!!」

その瞬間私と、私に触れていたプロシュートさん以外のすべての生物の動きがスローモーションになった。
キング・クリムゾンは一番近くにいたギアッチョにその拳を叩きこんだ。
その光景に全身の血の気が引いた。

「い、いやぁあああ!ギアッチョ!!」

慌ててギアッチョの元へ駆けだそうとした私を、後ろからプロシュートさんが羽交い絞めにして止める。
そして静かに耳元で囁いた。

「落ち着け、ナマエ。ギアッチョの能力を忘れたのか。」

「__え?」

(そうだ。ギアッチョの氷の装甲は確か___、)

「何!?コイツのスタンドはキング・クリムゾンのパワーでも貫けないというのか!?」

(物凄く固い!!)

その瞬間、キング・クリムゾンの能力が解除された。
ギアッチョは殴られた衝撃で「ぐっ、」という苦しそうな呻き声を上げて吹っ飛ぶ。

「ギアッチョ!!」

慌ててギアッチョの元へ駆け寄って壁に突っ込んだ彼を抱き起す。

「大丈夫…!?」

「…あぁ。全然問題ねぇ。
だけどよ、やっぱりお前もう少し警戒しろよ!俺らがいたから良かったようなものの一人だったら確実に殺されてたぜ!!テメェはよ!!」

「ご、ごめん…。」

「ったく…。
リーダー。あとは頼むぜ。」

いつの間にかディアボロの前にはリゾットの姿があった。後ろにはメローネもいる。

「会いたかったぞ。謎のボス、ディアボロ。俺たちはお前に会うためにここまで来た。」

「チッ…。やはりリゾット。貴様もこの島に必ず来ると思っていたぞ…。」

暗殺者チームのリーダーであるリゾットと、パッショーネのボスであるディアボロが対峙する。
ディアボロの周りには暗殺チームのメンバー。
圧倒的に有利な状況であるにも関わらず、言い知れぬ不安が胸の中を渦巻いていた。
リゾットはディアボロに向かって指を差し低い声で宣言する。

「ディアボロ!!貴様はここで俺たちが始末する!!」



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