Day`s eyeをあなたへ | ナノ


  12.さよなら、暗殺チーム


あの後、暗殺チームのアジトに戻ってからは疲れもあったせいか、あっという間に眠ってしまった。
色々なことが頭の中をグルグルと回っていたが、不思議とすっきりとした朝を迎えることができた気がする。
さぁ、今日は忙しくなる。
早いところ起きて準備をしなければと思い起き上がろうとするが、何かが身体を押さえつけており起き上がることができない。
なんとなく嫌な予感がしつつも見ないわけにもいかず自分が寝ている横に目をやる。
そこには私の胸に顔を埋めるようにしてスヤスヤと眠っている金髪の男がいた。
私が動いたのに気がついたのか金髪の男、メローネは「うぅん…?」と眠そうな声を上げて上目遣いにこちらを見上げる。
元々中性的な顔立ちなのもあってか、バサバサの睫毛に縁どられたトロンとした大きな目はなんというか、女の私でも何かいけないものを感じてしまうほどエロい。というかフェロモンがすごい。
プロシュートさんがミケランジェロの彫刻のような男性的な美しさを持っているとするならば、メローネはどちらかと言えば女性的な美しさを併せ持っているようなイメージだ。
そんな私の仰天した視線に漸くしっかりと目が覚めたらしいメローネは、今度は私の胸に手を当てて寄せたかと思うと再びその谷間へと顔を埋めた。

「うーん。最高の目覚めだ。」

谷間にベロリと舌をはわした感触で漸く我に返った私は、早朝にも関わらず悲鳴を上げた。



「ったく、てめぇも本当に懲りないよなぁ。メローネ。」

「ギアッチョに殴られてさすがに死ぬかと思ったよ…。」

自業自得だがメローネの頬は痛々しいくらい腫れ上がってしまっている。
私の絶叫を聞いて一番に乗りこんできたギアッチョは、ベッドの中で私の胸に顔を埋めるメローネを見た途端よくわからない寄声を上げたかと思うと、メローネを力任せにベッドから引きずり出しその顔面を思い切り殴ったのだ。
メローネの美しい顔は見る影もない。

「でさぁ、昨日二人はどこまでいったの?キスは?ちゃんとお別れのセックスはしてきた?」

あれ?先ほど起こった出来事をもう忘れてしまったの?と言いたくなるくらいあっけらかんとして言うメローネはちっとも懲りてない。
黙っていれば王子様のようで本当に格好いいのに残念すぎる男だ。
チラリとギアッチョを見ると、彼もこちらを見ていたようで視線が合う。
お互い慌てて視線を逸らした。
昨日のことが整理できずに、朝ごはんの間もギアッチョのほうを一度も見ることができなかった。
たぶんプロシュートさんやメローネは私たちの間に何かあったのであろうことに気がついていると思う。それに気がついていながらあえて突っ込んでくるメローネの性格のねじ曲がり方には、驚きを通り越してなんだかもう慣れた。



「準備は整ったか?」

リゾットさんの言葉にコクリと頷く。

「はい。」

ズラリと大柄な男たちがリビングに立っている姿はなんだか壮観だ。
わずかの間しかいなかった暗殺チームのアジトだが、連れてこられたときとは違い今では恐怖はちっともなく、寧ろこれで彼らとお別れなのかという寂しい気持ちがあった。

「メローネ、プロシュート。お前ら今日は非番だったはずだな?俺と一緒に来い。あとのメンバーはアジトで待機だ。」

プロシュートさんは特に顔色も変えず「あぁ。」と頷き、メローネは飛び上がりそうな勢いで喜んでいる。
「ナマエとドライブできてうれしいな」と猫なで声で言うメローネに何か危険なものを感じた私は、なんとなく彼から距離をとった。
そんなリゾットの命令に反抗したのはギアッチョだった。

「待てよ。リーダー。プロシュートは百歩譲って分かる。なんでメローネなんだよ!」

ギアッチョの言葉にリゾットは予想していたと言わんばかりにサラッと答える。

「これはボスと接触できるかもしれないまたとないチャンスだ。追跡ができるメローネは必須だ。分かるだろう。」

「コイツのベイビィは作るのに手間がかかる!ナマエの話だとボスは近距離パワー型だろ?もしものとき俺が戦う!だからリーダー。俺も連れていってくれ!」

「いいんじゃあねぇか?リゾット。ギアッチョの言う通りだ。テメェもメローネも近距離からの攻撃に弱いだろ。もしもの時俺だけで対応できない状況になるかもしれない。その時のためにボスと同じ近距離パワー型のギアッチョがいた方がいいだろうぜ。」

プロシュートの言葉にリゾットは一瞬考えた後、「そうだな。」と肯定を示した。

「ただしギアッチョ。これは歴とした任務だ。それも超重要のな。
決して私情を挟むんじゃあない。わかっているな?」

リゾットの威圧する視線にギアッチョの額から汗が流れ落ちる。
これが暗殺チームのメンバーを束ね男の迫力なのか。言葉はそれほどキツくはないが、圧倒的な雰囲気に他のメンバーたちも何も口を出せないようだった。

「…もちろん、わかっているぜ。」

「よし。ならばいいだろう。
では行くぞ。
目的地は『サルディニア』。ここから約3時間余り。ホルマジオ。アジトのことは頼んだぞ。」

「へいへい。分かってますよ。」

ホルマジオはこちらを見てニカッと笑う。
その明るい笑顔もこれで見納めになるのかと思うと少し寂しい。

「ナマエ…。寂しいけどよぉ…、俺たちきっとまた会えるよな。」

「ペッシ…。勿論だよ。ボスを倒せばきっとまた会える時がくるよ。」

別れが寂しいのかシクシクと涙を流すペッシに感化され、つい私の涙腺も緩みそうになる。

「イルーゾォさんは…?」

「イルーゾォは明け方から任務に出かけていったんだ。ナマエによろしく、って言っていたよ。」

「そっか…。でもイルーゾォさんとは手を治すって約束があるからね!ありがとうございました、って伝えておいてくれる?ペッシ。」

「分かったよ。俺、しっかりと伝えておくよ!」

グシッと腕で涙を拭ったペッシは太陽のような笑顔を見せてくれた。
つられて私も笑顔になる。
そして暗殺チームのアジトを私はリゾットさんたちと共に後にした。
ここで過ごした時間は極々短いものだった。
だけどここで得たものは時間なんかでは到底図れない、大切なものだったと断言できる自分がいた。



5人が乗ってもまだ余裕のありそうなバンは、お世辞にも乗り心地が良いとは言えない。
改めて昨日のギアッチョの車の性能の良さが分かる。
運転しているのはギアッチョ。彼もこの車が不満なようで、「ンだよ、このボロ車…、クソッ」などとぶつぶつと文句を言いながら運転している。
ちなみにこれはレンタカーらしい。
助手席にリゾットさん。その後ろの席にプロシュートさんと私。
一番後ろの広いスペースにメローネが一人で乗っている。

「なんで俺だけここなんだよ。俺もナマエの隣がいい。そっち行っていいだろ?プロシュート。」

メローネは背もたれを無理やり跨いで私とプロシュートさんの座る前の座席へ移動しようとする。
プロシュートさんは後ろから顔を出してきたメローネの頭を無理やり元の場所へと押しやる。

「おいやめろ!狭くなるだろーがッ!てめぇはそこで十分だッ!」

「プロシュート兄貴…。ディ・モールト酷い…。」

シクシクと泣き真似をしだしたメローネをプロシュートさんは完全に無視している。


___午前9時過ぎ

徐々に太陽は昇ってきており「あの瞬間」が近づいていることがなんとなくわかった。
(アバッキオ…。)
早く、早くみんなの元に行かなければ。気ばかり急いてしまい、何度も何度も運転しているギアッチョに目を向けてしまう。
そんな私の落ち着かない様子を知ってか知らずか、後ろのメローネは気の抜けたような口調で話す。

「あーあ。ディ・モールト残念だぜ。今日でナマエとお別れなんてな。ナマエ、このままここに残ればいいじゃあないか。その方が皆喜ぶぜ。な?リーダー。」

「…ナマエはパッショーネの人間じゃあない。できるわけないだろう。」

「まぁそうなんだけどさ。いいじゃん?女の一人や二人くらい。ギアッチョだってナマエがいた方が嬉しいだろ?」

あぁ、また喧嘩になる。全員が次に聞こえてくるであろうギアッチョの怒声に耳を塞ごうとしたときだ。

「…そうだな。」

バックミラー越しにギアッチョと視線が合い、ドクンと心臓が跳ねる。
ギアッチョの予想外の返答に、からかったはずのメローネが一番驚いた。
再び座席の間から身を乗り出して大声を上げる。

「オイオイ!どうした!?ギアッチョ!?具合でも悪いんじゃあないのか!?」

「メローネ!!うるせぇ!!黙ってろ!」

「そんな場合じゃあないだろうプロシュート!!ギアッチョの頭がおかしくなった!!」

「おかしくなってねぇよッ!!このボケがッ!!
…俺はただ、自分の思ったことを言っただけだ。」

「ギアッチョ……。お前…。」

メローネが驚愕したように両手で口元を押さえる。
その目は見開いており瞳は左右にフルフルと揺れていた。

「ヤバイ。惚れそ「やめろ。」

間髪入れずにメローネの言葉を遮ったギアッチョに私は思わず笑ってしまった。
コントみたいな二人のやりとりに、肩の力が一気に抜けた。

「やっと笑ったな。」

「…え?」

突然声を上げたプロシュートさんに向かって首を傾げる。
すると彼はその大きな両手で私の頭を両側からガシリと掴み、額をコツンと合わせてきた。
プロシュートさんの息が顔にかかる位近くまで接近し、すべての抵抗を忘れてしまう。

「ずっとひでぇ顔してたぞ。こういうときはな、力んでると失敗するんだよ。
肩の力を抜け。……ナマエ?」

反応しないナマエを疑問に思いプロシュートは顔を少し離す。

「あーあ。プロシュート兄貴のお説教はナマエにはまだ刺激が強かったみたいだぜ。放心しちゃってるじゃん。」

メローネは一点を見つめたまま反応しないナマエの頬を人差し指でプニプニとつっつく。

「だけどベネだぜ!プロシュート!これでナマエのおっぱいが揉み放題だ!!」

座席の後ろから手をワキワキさせながらナマエの胸の前に出すメローネ。
しかしそれは勿論のことながら未遂に終わった。

「メローネぇぇぇぇえ……。てめぇ……。」

「ギ、ギアッチョ…!?お、おま、前見ろ前ッ!!殺す気か!?俺たちを!!」

「うるせぇ!!てめぇが死ねッ!!メローネッ!!」

「だからなんで俺だけ!?」

結局メローネもギアッチョもリゾットのメタリカを食らい、二人そろって一番後ろの荷物置き場へと放りこまれた。
運転は結局プロシュートがすることになったのだった。



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