Day'seyeをあなたへ | ナノ

 8.生きるための選択

私の能力で見た未来の通り、特に敵に襲われることもなく無事に上陸することができた。
たどり着いたのはブドウ畑の中心にポツンと建つ、おとぎ話に出てきそうな可愛らしい家だった。
ここは元々は目の前のブドウ畑の農家の人たちが住んでいた家だったらしいが、今は誰も住んでおらずそれをブチャラティがチームの隠れ家として買い取ったとのことだ。

ブチャラティはトリッシュに、「家から出なければ自由にしていてもらってかまわない」と言うと、トリッシュは何も言うこともなくさっさと二階へと上がっていってしまった。
何故トリッシュが追われているのかは分からない。しかしそれに対して特に取り乱すこともなく、表情もほとんど返ることのない彼女がとても強く感じるのと同時に、彼女もまた私とは住む世界が違う、そう思わずにはいられなかった。

「ナマエ、ちょっといいか。」

ナランチャがフーゴに何かを怒鳴られているところを見て、あっけにとられている私を後目にブチャラティが突然声をかけてきた。
私は二つ返事で彼の言葉に頷き、その後へと続いた。それと入れ替わりでナランチャは一人で車を運転してブドウ畑から出て行ったのだった。
ナランチャとトリッシュ以外の面々でリビングのソファに腰かける。

「ナマエ。当初はお前をネアポリスに送っていき、しばらくの期間お前の身に危険が及ばないように影ながら援助していくつもりだったが、少々予定が変わった。俺たちはこのまま新たな任務に就かなければならない。」

「あの人…、トリッシュの護衛だよね?」

「そうだ。これも悩んだのだが俺たちと行動していれば嫌でも知ることだ。それに知らないよりも知っているほうが身を守る術を考えることができる。すべて話そう。」

「ブチャラティ!?本気か!?」

「ああ。俺は本気だ。アバッキオ。こいつはジョルノの入団試験中に巻き込まれてこんなことになっちまったんだ。ジョルノは俺たちのチームのメンバー。その責任は同じチームである俺たちのものだ。」

「俺たちはすでに新しい任務中なんだぞ。それもボス直々の命令だ!ただでさえ護衛という難易度の高い任務なのに更に足手まといが一人増えたとなっちゃぁたまったもんじゃねぇぜ!」

「ナマエはスタンド使いだ。さっきの力、見ただろう。俺がコイツに力の使い方を教える。せめて自分の身は自分で守れるようになるくらいにはな。」

「それこそ何か月とかかる!今俺たちが集中しなければならないのはトリッシュの護衛だ!
ブチャラティ、ここでしくじったらお前がこれまで目的のために積み上げてきたものはすべてパァになるんだぞ!私情を捨てて冷静になれ!」

アバッキオの言うことは最もだった。
このギャングの世界で成功してのし上がっていきたいなら、ブチャラティは私を今ここで切り捨てるべきなのだ。いくら私がスタンド使いだとはいえ身に着けたばかりのその力はたかがしれている。未来が見れると言ったって、中にはそれが通用しない相手だっているだろう。
だが優しいブチャラティはきっと私を切り捨てるなんてことはできない。
だからここは私から言うべきなんだ。「置いていっていいよ。私は大丈夫。」って。
だけど今ここでこの人たちから離れたら私はあっという間に殺されるかもしれない。殺されると分かっているのにそんなことを言うことはできなかった。
アバッキオ以外口にはださないが、きっとここにいる全員が私のことをお荷物だと思っているだろう。
皆の顔が怖くて見れず、じっとうつむく。
すると突然頭に大きな手が乗せられた。

「アバッキオ。俺はこの腐った組織を変えたい、そう思いボスに意見できる立場までのし上がりたかった。だがな、その根本的な理由は違う。何故組織を変えたいか。それは家族を守りたかったからだ。だから俺は故郷を離れた。巻き込みたくなかったからな。それがこんなことになっちまって…。
分かったろ?アバッキオ。俺は家族同然のナマエをこのまま放っておくなんてことはできねぇんだ。
確かにお前たちには負担をかけちまうだろう。それを承知の上でついてきてもらいたい。」

『家族』、その言葉にチクリと胸の奥を針で刺されたような痛みを感じた。
その痛みには覚えがあったが私は無理やり気づかないふりをした。

「僕は構いません。ナマエさんを巻き込んでしまったのは僕の責任ですからね。彼女に再会した瞬間からそのつもりでした。」

「そうですね。すでに行動を共にしているのにここで放り出すってのは後味が悪すぎる。」

ジョルノとフーゴは当然だとでもいうようにブチャラティの言葉に同意した。
彼らのほうを見上げるとパチリと二人と目があった。向こうもそれに気がつくと二人してニコリと微笑んだ。
なんとなく気恥ずかしくなり視線を慌ててそらす。

「オレも別にいいぜ。ブチャラティの女をよぉ、むざむざ殺させるわけにはいかねぇだろ。」

「ミスタ、ナマエは俺の女ではない。大切な人間であることには変わりはないが。」

ブチャラティの言葉に自分が彼にとって全く女として見られていないことを思い知り、再び胸の奥がチクチクと痛む。
ともなれば最後全員の視線はアバッキオへと集中する。その視線に負けたのか彼は「チッ」と一つ舌打ちをしたかと思うと口を開いた。

「わかったよ。勝手にしろ。」

ぶっきら棒に一つ言った。

「あ、あの、みなさんありがとうございます。アバッキオさんも…。」

「別にてめぇのためじゃあねぇ。ブチャラティの言うことだから仕方なくだ。」

「はい、それでもありがとうございます。私、まだ自信はありませんが必ずスタンドを使いこなせるようになって、せめて足手まといにはならないように頑張ります!」

「だからよろしくお願いします。」そういうとアバッキオは特に返事を返すこともなくこちらを一瞥した後外へと出て行ってしまった。
やはり迷惑だと思われているのだろうか。やがてドアの向こうに消えていった彼の後姿をじっと見つめる。
するとズシリと肩に腕を乗せられたような重みを感じる。これは間違いなくミスタの腕だろう。見上げるとやはりそこには私の肩を杖の変わりにして寄りかかっているミスタの姿があった。

「気にすんな。もともと愛想の無い奴なんだよ。アバッキオは。
それとおまえ、敬語はやめろ。幹部のブチャラティにはタメ口で下っ端の俺たちに敬語はおかしいだろ。」

「え、で、でも…。ブチャラティは昔から知ってるから…。」

「そうだな。しばらくは一緒に過ごすんだ。早く馴染むためにもそれがいいかもしれない。」

ブチャラティにそう言われてしまえば納得するしかない。

「う、うん…。じゃあ、改めてよろしくね。ミスタ、フーゴ、ジョルノ。……ブチャラティ。」

先行きは不安だ。彼らと一緒にいるからといって命の保証などどこにもない。
むしろギャングの彼らとともに行動することによって更に危険な目にあうこともあるかもしれない。
それでも私がこれから生きていくためには、ここでスタンドの力をマスターして最低限自己防衛ができるようになる必要があるのだ。

自分のためにこの能力を使いこなせるようにならなくてはいけない。
なぜならそれが唯一私の生き残る道だからだ。