Day'seyeをあなたへ | ナノ

 7.これが私の能力

自己紹介が済んでひと段落と思いきや、船の中は重苦しい空気で満たされていた。
みんな何かを警戒するように何もない海を見回している。
ブチャラティは船の操縦をしており話しかける雰囲気ではない。
私は比較的話しやすく、みんなに比べるとあまり警戒していない様子のナランチャに理由を尋ねる。

「ナランチャ。あの…、みんな一体何を警戒しているの…?」

「ん?俺たちカプリ島に来るときの船でスタンド使いに襲われてるからな。それに俺らあの女を護衛しなきゃいけないだろ?だから追手が来ないかさ……………、っヤベッ…!」

慌ててナランチャは口を噤んで辺りを見回すがみんな辺りを警戒しているためか特にこちらの話は聞こえていなかったらしい。
それを確認するとナランチャは安心したようにホッと息を吐く。

「い、今言ったことは忘れろ!いいな!」

ガシッと両肩を掴まれて真剣な顔でそう訴えられれば頷くしかなかった。
とは言ったものの今さっき聞いたことを、そう簡単に忘れられるはずもない。
ナランチャが言ったトリッシュの護衛、そして追手という言葉。そこから考えられることはただ一つ。その追手がトリッシュをなんらかの理由で狙っているということだ。そしてブチャラティたちの目的はトリッシュをその追手から守ること、そういうことだろう。
休む暇もなく戦闘体制の彼らを見て私はふと思いついた。
そのことを伝えるために船の操縦をしているブチャラティの元へと小走りで近づく。

「ねぇ、ブチャラティ…。」

「どうした?ナマエ、お前はトリッシュと一緒に船室へ入っているんだ。」

「ちょっと聞いてほしいんだけど、私の能力でこの船に危険が迫っているか、調べるのはどうかなって…。」

「?どういうことだ?」

ブチャラティは私の言っていることが理解できなかったようで少しこちらに視線をやり、話の先を促す。

「私のスタンド、『プレディツィ・オーネ』の力は未来予知。それで船に追手が来るかどうか見てみればいいんじゃないかなって…。」

それを聞いたブチャラティは驚いたようにこちらを見つめてきた。

「未来を見る……?それがお前の力なのか…。
たしかに、戦闘向きではなさそうだな。」

「うん。ジョルノと一緒に戦った時も私は未来に起こる出来事をジョルノに伝えただけ。実際敵を倒したのはジョルノだもの。それ以来スタンドを出す機会もなかったし…」

「……一度お前の力を見せてくれないか?」

ブチャラティの言葉に私はもとよりそのつもりだったので強く頷く。
私は心の中で自らのスタンドに呼びかけるように無言で名前を呼んだ。
するとあの時以来一度も出現させていなかった私のスタンドが姿を現した。
そのことに気がついたアバッキオが「おい!」と声を上げるがそれはブチャラティによって制されてしまった。その声に勿論同じ船に乗っている皆が気がつかないわけもなく興味深そうな視線を感じる。

「見るのはこの船が無事に追手に襲われることもなく島につくことができるか、でいい?」

「あぁ。」

ブチャラティにだけこっそりと伝えるつもりだったのにまさか全員の前で披露することになるとは思わなくて緊張する。アバッキオなど私が何かするのではないかと警戒して、射殺すような視線を向けてくる。
ドキドキしながらもプレディツィ・オーネの手で船の床に触れる。
この前は一刻の猶予もなかったため思い切り殴ったが、たぶん私の力は触れている物体を中心に何メートルかまでが発動できる範囲だ。その空間に入っている物や人、すべての未来を見ることができる。

「プレシエンツァ・フューチャー(未来予知)」

私が見たいのはこの船が無事に次の島までたどり着けるかどうか。追手が来るのならどこからどんな方法で何人か。プレディツィ・オーネは私が望む答えをしっかりと見せてくれた。

「____この船は襲われないよ。少なくとも島までは問題なく到着できる。」

私の言葉にアバッキオが鋭い目を更に吊り上げて口を開く。

「ばかばかしい。それが信じられる証拠がどこにあるというんだ。」

「…トリッシュがもうすぐ船室から出てくるよ。『船室が暑いから、なんとかならないか』って。」

「は?」

アバッキオが目を丸くした時だった。ガチャリ、と船室の扉が開いたかと思うと中からトリッシュが出てきた。

「ねぇ、船室が暑すぎるんだけど、なんとかならないのかしら?」

今度は本当に全員が息を飲んだ。アバッキオも驚きでただただジッとトリッシュのほうを見つめるだけだった。

「ちょっと、聞いているかしら?」

トリッシュの言葉に全員が意識を引き戻されたのか、ハッとしてブチャラティが口を開く。

「あ、あぁ…。悪いがボロイ船だからクーラーなんて気の効いたものはない。もうすぐ陸につくから我慢してくれ。」

それを聞いたトリッシュは特に文句もいうこともなく、返事をすることもなく船室へと戻っていった。

「…驚いたな。アバッキオ、どうやら信じるしかないみたいだな。」

ブチャラティの言葉にアバッキオはまだどこか納得していないような表情をしていたが、特にそれ以上何も言うことはなかった。

「すげぇじゃん!ナマエ!」

「あなたの力があれば、事前に起こることを知れるので危険を回避する術を考えることができますね。」

「でも戦うのは難しそうな力だな。」

「ミスタ、彼女の力は戦うための力ではなくあくまで戦いを回避するための力だと僕は思いますがね。
ブチャラティ、どうですか?」

ジョルノの言葉にブチャラティは考え込み腕を組んだまま私のほうを見やった。

「まだ不明な点が多すぎる力だな。それにさっきの数秒間、ナマエは座り込んだまま床に手をついて全く動かなかった。力を使っている間は無防備になるということだろう。
使いこなせるようになるまでは多用はしないほうがいい。」

確かに彼の言う通りまだまだ分からないことが多すぎる能力だ。
しっかりと自分で把握して制御できるようになるまでは気をつけないといけない。

みゃあみゃあとウミネコの鳴く声が辺りから聞こえ始める。
どうやら陸が近いようだ。

「どうやら無事に到着したようだな。隠れ家に急ぐぞ。」

ブチャラティの言葉に私たちは一斉に下船の準備を始める。
しかしその空気は未だ重いものに満ちていた。