Day'seyeをあなたへ | ナノ

 6.護衛チーム結成

「さて、ブチャラティ。君は晴れて幹部となった訳だが、ポルポがやり残した仕事は君が引き継ぐ。そういうことだがいいかね?」

先ほどの話から一転して、少し雰囲気が鋭くなったペリーコロさんにその場の空気が緊迫したものへと変わる。

「ポルポがやり残した仕事とは、一体…?」

「ボス直々の命令なんじゃよ。ところでそこのお嬢さんだが…、いいのかね?このままこの話を聞けば彼女は更に組織に深く足を突っ込むことになる。」

ちらりとペリーコロさんからの視線を感じる。
これ以上何を知ったところで結果は変わらないかもしれないが、それでも重要そうな話に無関係の自分がその場にいるのは憚られた。

「わ、私、あっちのベンチで待ってます…!」

その場の空気を読んで慌てて私は離れた場所へと移動した。
彼らが何かを話している声は聞こえるが、その内容までは聞こえてこない。
たまに黒髪のナランチャと呼ばれた少年が大声で叫ぶのが聞こえてくるくらいだ。

(私、これからどうなっちゃうんだろう…。)

ブチャラティはああ言ってくれてはいたが、実際彼と私とでは住む世界が全く違う。
これから一体どうなってしまうのか、一人でいると不安で押しつぶされそうになる。

「…トイレいこう。」

じっとしてられず手持ち無沙汰でとりあえず目の前にあるトイレへと向かった。
用を済ませトイレの個室から出てくると、その洗面台で一人の女の子が口紅を塗っているのにバッタリ出くわした。

(うわっ……!すごい美少女…!)

ピンク色の目立つ髪色に、ぱっちりとした大きな瞳。スラリとした体形は大抵の女の子なら憧れてしまうほどのスタイルの良さだった。
今塗ったばかりであろう真っ赤なルージュも彼女の整った顔貌にはとてもよく似合っている。

「……なにか?」

彼女の怪訝そうな表情に、自分が彼女をあまりにじっと見てしまっていたことに漸く気がついた。

「ご、ごめんなさいっ!あんまり綺麗だったから…。」

今度は少女がじっと私を見つめてくる。どこか品定めするような雰囲気を感じるのは気のせいだろうか。
そろそろ居心地が悪くなり私は声を上げた。

「あ、あの…?」

「…あなたも、アイツらの仲間なの?」

「あいつら…?」

彼女の指さす方向を見ると、その先にはブチャラティたちが輪になってなにかを相談している様子であった。

「仲間ではないです…。ただ、ブチャラティ…、あの白いスーツの男性と幼馴染なだけで…。」

答えると彼女は別段興味もなさそうに「そう」と気のない返事をしたかと思うと、そのままトイレを出ていってしまった。
私も慌てて彼女の後に続く。
外に出たとき、すでにそこにはペリーコロさんはいなかった。
全員の視線が目の前の美少女に注がれているのが分かる。
そりゃあ突然こんなにかわいい子が現れたら、男でなくても見入ってしまうのは分かる。

「あなた、フーゴさんって言ったかしら?その上着、ちょっと脱いでくださる?別にあなたの裸がみたいってわけじゃあないのよ。」

少女の突然の言葉にフーゴさんはわけがわからないといった様子で自分の上着を脱ぐ。
驚いたことに少女はその上着で先ほど洗った手を拭いたのだ。

「ハンカチないから、後で買ってきてね。」

これにはフーゴさんだけでなく私も驚きで空いた口がふさがらなかった。

「それとストッキングの変えとジバンシーの2番のほお紅、イタリアンヴォーグの今月号もお願い。ストッキングは太もものところに補強が入っていないとダメ。それとミネラルウォーター。フランス製じゃないと死んでも飲まないことにしているの、私。
その景色を見るのに飽きたら早速買ってきてね。」

突然現れた彼女が何者なのか私にも全く分からないが、先ほどのペリーコロさんの言葉から考えると、きっとポルポって人の残した仕事というのに彼女が関係しているのだろうと思った。
先ほど掃除夫のような恰好をして変装していたことも考えて、組織の偉い人の娘とかだろうか?
傍若無人なその態度に誰も文句を言う人がいないことから察するにきっとそうなのだろうと一人納得する。

「彼女、トリッシュの追手がいつまた現れるかもわからん。とりあえず早々にこの島を離れるぞ。
ナマエ、悪いがまだお前を一人ネアポリスに帰す訳にはいかない。その理由は、分かるな?」

「うん…、でも、ブチャラティ。私、迷惑じゃ…。」

「よくわかっているじゃあねーか。だけど仕方ねーだろ。今ネアポリスに一人で帰ったらお前はあっという間にお陀仏なんだからな。」

「アバッキオッ!!」

ブチャラティの怒声にアバッキオと呼ばれた男は一つ舌打ちをしたかと思うと、一人輪の中から外れて行ってしまった。
分かってはいたがああもあからさまな態度を取られると私だって人間だ。結構傷つく。
だけど自分が足手まといで、これから守ってもらわなければならない立場だということは理解していたので何も言えなかった。


「すまないな…。根は悪いやつじゃあないんだが。」

「ううん、いいの。……仕方ないよ。」

アバッキオの気持ちもよく分かる。
そういえば、私はまだここにいる人たちに名乗ってもいない。
それはマズイと思い声を上げる。
アバッキオはいなくなってしまったが仕方ない。

「あ、あの、今更ですけどナマエ・ミョウジと言います。さっきも言った通り、昨日スタンド能力に目覚めたばかりで自分でも何が何だか分かってないのですが…。皆さんの足手まといにならないように頑張ります。」

皆んなが黙ったままジーっと私を見てくるので恥ずかしくて思わず顔を下げる。

「年はいくつなの?」

突然の質問に驚き声のした方へ顔を見て向ける。
どうやら話しかけてきたのは黒髪の短髪の少年だった。

「えっと、16です。」

すると彼は興奮したように声を上げる。

「俺より年下じゃん!俺はナランチャ・ギルガ。俺のが年上だけどナランチャでいいぜ。」

ニカッと笑ったその顔は太陽のように明るく、彼の方が年上だと信じられないくらい子供っぽい悪意のないものだった。
その笑顔に少し安心し、差し出された手を握り返す。

「僕はパンナコッタ・フーゴ。16なら僕と同い年ですね。」

「えっ!?同い年…!?」

物腰が柔らかく、とても落ち着いた雰囲気だったのでまさか同い年と聞いて思わず驚きの声を上げてしまう。
ニコリと紳士的に微笑んだ彼はやはり同い年には見えない。
イケメンすぎるフーゴを前に思わず赤面した時だった。ズンと肩が重くなり誰かの腕が乗せられている。見上げるとそこには帽子の彼がいた。

「えっと…、ミスタさん、ですよね?」

「気をつけろー。ソイツは猫の皮を被った猛獣だからな。それにしても俺の名前よく覚えてたな。だけどミスタさんはやめろ。気持ち悪ぃ…。」

「は、はい…。」

「ミスタ、人聞きの悪いことを言わないでください。」

「いでででで!おい!引っ張るな!」

肩の重みがふとなくなったと思ったら、ミスタがフーゴに引きずられて何処かへと消えていった。ナランチャも楽しそうな顔をして彼らと一緒に歩いて行ってしまった。

その場に残ったのはブチャラティとジョルノの2人だけだった。

「まさかあなたのとこんな形で再開するなんて思いもしませんでした。改めてよろしくお願いします。」

「ジョルノ、こちらこそよろしく。学校の知り合いがいて少し心強いよ。」

「あなたの能力、とても興味深いものがあります。アバッキオはああ言ってましたが、極めれば寧ろ無くてはならない力になると思います。」

ジョルノの言葉に首を傾げる。
たぶん私のスタンドはあまり戦うのには特化していない。その見た目からもそれはなんとなく思っていた。
それがなんで無くてはならない力になるのかわからなかった。

「ジョルノはナマエの能力を知っているのか?」

ブチャラティが驚いたように声を上げる。

「はい。一緒にポルポのスタンドと戦いました。ブチャラティ、ナマエさんの能力はなかなか興味深いですよ。」

「…ナマエ、後で俺にお前の力を見せてくれ。できるか?」

「う、うん。勿論いいよ。」

「僕も出来ればもう一度見せてもらいたいです。」

ジョルノの言葉に私は同じように頷く。
それを見たブチャラティは一つため息をつき真剣な顔をして口を開いた。

「ナマエ、俺やジョルノはいい。俺のチームの奴らもな。だが他の奴らに聞かれたからって素直に能力について教えることは絶対にするなよ。」

「は、はい…!」

ブチャラティの真剣な言葉に思わずこちらも改まって敬語で返答する。

「よし。
そうとなればもうこの島に止まる理由はない。急いで追手の心配がない町へ移動する。」

ブチャラティの言葉に私とジョルノは頷き返答した。
しかし、話している間にトリッシュがいつのまにか居なくなっており、私たちはミスタたちと慌てて港へと向かった。
だがそこにはあっけらかんとした様子ですでに船に乗ったトリッシュがおり、私以外の全員が重い溜息を吐くのを後ろからまるで他人事のように見ていた。