Day'seyeをあなたへ | ナノ

 3.受け入れがたい現実

亡くなったおじさんを見つめながらジョルノが語った大きな決意。
「ギャングスターになる」なんて普段聞いたらきっと私だって馬鹿にして笑っていただろう。
しかし目の前の彼が冗談で言っているのではなく、本気でおじさんのような犠牲者を出さないためにと願っているのだと、その強い瞳の奥の光を垣間見た。
本気のその瞳に思わず引き付けられた。

そしてヒロセ君から聞いた話。
私が刺された矢というものは本来なら弓と一つのセットになっていて存在していると。
刺された人間は死ぬか、矢に選ばれて不思議なスタンドという能力を手に入れるかのどちらからしい。
矢に選ばれてスタンド使いになれるのは極まれなことで、そう聞かされれば私はあんなことに巻き込まれてしまったが、それでもまだ運が良いほうだったのだと思わざるを得なかった。

お互い自己紹介をした直後、ジョルノは地面に落ちていたすべての元凶であるライターをひろい、そのままあっさりと私たちへ別れを告げて去っていった。
あんなことがあった直後だというのにすごい神経というか、こういう場面になれているのだろうか。
ヒロセ君も無事にパスポートを取り戻せたということで、これで日本へと帰国するようだ。
もう少しこのスタンドという力について知りたかったが仕方ない。
日本とイタリア。
再び会えるなんて保証はどこにもないが、また会えたらいいね、なんて握手を交わしてヒロセ君と別れた。


その日の夜。
悪夢と寝苦しさで私は目覚めた。
無理もない。昼間は驚きのあまり感覚が麻痺してしまっていたが、目の前で人が死んでいるところなど見たのは初めてなのだ。
目を閉じるとおじいさんの光の無い瞳が目の前に浮かぶ。
傷はとっくにないはずなのに矢で刺された胸が痛む。

なぜか思い出したのはブチャラティの顔だった。

___翌日、
どうしようもなくなって私は翌日ブチャラティになんとか会えないだろうかと、町をぶらぶらとしていた。
だかそう都合よく会えるわけもなく時間だけが過ぎていった。
(やっぱり、会える訳ないか…。)
諦めて家に帰ろうかと、いつものカフェの前を通りかかったときだった。

「んだよ、フーゴの奴もナランチャも。アバッキオが遅れるのは珍しーが。」

ぶつぶつと独り言を言いながら一人の男が私の前を横切る。
(あれは確か…!)
ミスタと呼ばれていた帽子の男だ。
始めて会ったときに怖い印象だったので、少し気おくれしたがこの機会を逃したらもう二度と会えないかもしれない。
決心して道に飛び出し彼を呼び止める。

「あ、あの…!」

「ん?なんだ?おめー……、あっ!?おまえ、あのときの女!?」

「あ、あの、ミスタさん、ですよね?私はナマエ・ミョウジといいます。」

「何の用だよ?ブチャラティなら今日はいねーぞ。」

偶然なのか鋭いのか、彼は私が質問する前に私が一番聞きたかったことに答えた。
偶然にも出会ったのが私とブチャラティが顔見知りだということを知る彼でよかったのかもしれない。
他の全く面識がない人たちだったらこうもすんなりと話は進まなかっただろう。

「ど、どうにかして連絡を取ることはできませんか…?」

「あ?なんでだよ?オメーはブチャラティのなんなんだ?アイツのファンか?
たまーにいるんだよな。アイツ女にモテるから。」

「ち、違います。ファンとかじゃなくて、私は彼の幼馴染なんです。同郷の出身で家が隣同士で…。
昨日数年ぶりに偶然出会ったので…。」

するとミスタさんは物珍しそうにこちらをジロジロと見る。
私が本当のことを言っているのか疑っているのだろう。

「…で?その幼馴染さんが何の用だよ?
どーもブチャラティはお前に会いたくないカンジだったがなぁ。」

彼の言葉に涙が出そうになる。確かにあのときのブチャラティは私と偶然出会って驚いていたものの、閥の悪い顔を浮かべて冷たい言葉で私を拒絶した。
彼にはもう彼の世界があるのだ。昔のままではない。
私が一方的に不安だからと言って会いにいくなど、彼にとってはこの上なく迷惑だろう。

「わかったらよぉ、もうブチャラティや俺たちにはかかわらないほうがいいぜ。」

冷たくそう言った彼は気だるそうにもと来た道をもどっていき、完全に私の視界から消えた。
私はどうすることもできず、ただそこにしばらく佇んでいた。

私は今まで極々普通に生活をしてきた。
それが突然わけのわからないことに巻き込まれて、スタンドとかいうよくわからない力が使えるようになって、唯一頼れるかもしれないと思った幼馴染にさえ会うことは叶わない。

昨日あの学生証を拾っていなければ、いや、その前にあの時ブチャラティと偶然にも出会わなければ、今こんな目にあっていなかったというのに。

行き場のない怒りと不安で押しつぶされてしまいそうだ。

「……ブチャラティっ」

膝を抱えるようにして地面に座り込む。
立ち上がる気力はなく、ただただそこで呆然としていた。

「ねぇ、アンタさ、さっきの男と知り合い?」

どれくらいたっただろう。突然声をかけられて声のした方を見上げる。
そこには奇妙な髪形をした男が一人立っていた。
突然話しかけてきた男を不審に思い、私は慌ててその場で立ち上がる。

「だ、だれ…?」

「ブチャラティの昔馴染みとか言ってたよね。それってマジ?」

コツリ、
どう見ても堅気には見えない男に問い詰められ、男から逃げるように一歩下がる。
しかしその分男は距離を詰めてくる。

「アンタを人質にすりゃ、ブチャラティも6億の場所、吐くかな?」

男のセリフを聞いた瞬間、私は身を翻して走り出した。
しかし次の瞬間、首筋に衝撃を感じたかと思うと目の前がグワングワンと揺れた。

「人質ゲット〜ォ」

ご機嫌な男の声を遠くに感じながら私の意識は遠のく。

「……ブチャ……ラティ…、」

それ以降の記憶はない。