Day'seyeをあなたへ | ナノ

 30.絶対に譲れないもの

「プレシエンツァ・フューチャー!」

ブチャラティとトリッシュは大鐘楼へと向かったが、私が見た夢でブチャラティは教会側の入り口をすぐ入った場所で、事切れていた。
なんらかの理由でブチャラティはボスの命令に背き教会のほうへと向かったのだ。
今現在彼らがどこにいるのか知るために、私は教会へと入り能力を発動させる。

「いない…!もっと、もっと奥の方に行かないと…。」

荘厳な雰囲気の教会を通り抜けてカーテンの奥に隠されたドアを開く。
シンッとした廊下には人の気配は全くない。教会の裏側なんて初めて入ったが表向きとは違ってえらく閑散とした雰囲気だ。
私はそこで再び能力を発動させた。
できるだけ早く、できるだけ先の未来を見る!!

「っ……!!」

約3分後、辺りに血が四散する未来。丁度下に降りる階段のある場所、丁度壁が影になってしまっていて良く見えないがチラリと伸びている足には見覚えがある。

「ブチャラティ……っ」

胃の奥から何かがこみ上げてきて思わずその場に吐いてしまう。
このままいけば約3分後、いや、実際にはもっと時間がないかもしれない。ブチャラティは……。

能力を解いてとにかく急いでその階段の下へと向かう。ブチャラティはジッパーを使って下の納骨堂から現れたように見えた。
その時にはもう、大量の血液を流して致命傷を負っている。
彼の腕には気を失い手首から血を流したトリッシュの姿。彼女の手首はブチャラティのジッパーでくっつけられていた。未来を見たことで私はこの場所で何が起こったのか漸く理解した。
ボスがトリッシュの護衛をブチャラティたちにさせたのも、すべてはここまで連れてこさせるため。
その理由は血のつながった娘に会いたいからという愛情溢れるものではない。
ボスはトリッシュから万が一にも自分の正体がバレないように、自らの手で始末しようとしていたのだ。
そこに彼女の対する愛など一切ありはしない。すべては自分自身のための行動。

「酷い…っ、酷すぎる……っ!」

トリッシュの気持ちを考えると涙が出そうになる。彼女は顔も知らない自分の父に会うことを、心底不安に思っていた。見たこともない父親とこれから一緒に暮らしていけるのか、父親を愛することができるのか、思い悩みながらも前に進もうとしていた。
ブチャラティをはじめとしたチームのメンバーも、そう思ってここまで彼女を護衛してきたのだ。
___その気持ちを、全員の気持ちをボスは裏切った。

これほど人を許せないと思ったのははじめてかもしれない。

彼らのいるはずの地下の納骨堂へ、私は急いで向かった。



本当に彼らは戦っているのだろうか。
気味の悪いほどの静寂がこの教会全体を包んでいる。
自分の階段を下りる音がやけに響いている気がした。

階段を降りたすぐのところで私は信じられないものを目にした。

「トリッシュ!!」

駆け寄って彼女の脈を確認しようとその手をとる。
その手は能力で見たとおり、ブチャラティのジッパーで接続されている状態だった。
ポタリ、とそこから血が一滴滴り落ちる。

「…っ、トリッシュ……!」

その血液がまるでトリッシュの涙のように思えて、思わず私は気を失った彼女を抱きしめた。
許せない。私はパッショーネのボスを許せないかもしれない。
言い知れぬ怒りの感情が湧き上がる。

「___ナマエさん。」

突如後ろからかかった声に驚きのあまりスタンドを出して振り返った。

「…ジョルノ。」

トリッシュに気をとられていたせいで全然気がつかなかった。見慣れたその姿に心底ホッとする。

「すみません。驚かせてしまったみたいで。あなたを追ってここまできたんですが…。これは一体?ブチャラティは?急に通信が途切れてしまって…。」

そういうジョルノの手の中には携帯電話が握られている。

「わからない…。でもここにいるのは確かなの。もう一回見てみる。」

私は再び能力を発動させた。
10メートル先の納骨堂へと入るための分厚い扉。
その先にブチャラティと、知らない男が向かい合っている。

「__いたっ!ジョルノ!ブチャラティは…、……ジョルノ?」

止まっている。肩を揺すってもジョルノはただ立ち尽くしていた。

「___これは、」

間違いない。先ほどと全く同じ現象。やはりこれはスタンド能力なのだ。見たこともない能力、おそらくパッショーネのボスのスタンド能力。
慌てて私は彼に背を向けて、納骨堂の入り口に向かって走る。

「ダメ___、ダメ!!ブチャラティッ!!」

理由は分からないが、私以外の人間はこの時間のことをまるで記憶が吹っ飛んだように覚えていない。その間に起こった事柄がなかったように結果だけが残る。それがボスの能力。なぜかその時間を自由に動ける私には、すぐにそれが分かった。
つまりこの時間に攻撃を受けたら、身を守る術は何もないのだ。

ドン、と納骨堂の扉を大きく開け放つ。
そこにはブチャラティの姿だけがあった。
ブチャラティは突然現れたナマエに驚愕したように目を奪われる。

「ナマエ!?どうしてここにいる…!?ここは危険だッ!!今すぐここから逃げるんだぁー!!」

私はブチャラティの言葉を無視して彼に向かって走り始めた。

「私は逃げない!ブチャラティ!!絶対に、あなたを死なせたりはしない___っ」

勢いを殺さないまま思いきりブチャラティに向かって衝突する。そして彼を守るようにその背に手をまわして抱きしめた。

「プレシエンツァ・フューチャー・インスィエーメ!!」

あなたを守る。
それだけが今の私を突き動かしている。