Day'seyeをあなたへ | ナノ

 28.決意

バタン!と扉が壊れそうな勢いで突然音開く。
苛立ちを押さえきれない様子で家の中に入ってきたのはギアッチョだった。その両手には大量の毛布や服なんかが抱えられている。

「クソがぁ!!なんで俺がこんなこと…!!オイコラァッ!!生きてるかぁ!?」

「少し落ち着けよ。ギアッチョ。自業自得だろう。」

「るせぇぞ、メローネ!!テメェは黙ってろっ!」

ギアッチョとメローネは共に家の中に上がりこんだかと思うと辺りをキョロキョロと見回す。

「ナマエはどこだ?」

「あぁん?そこの床に転がってんだろ…、」

ギアッチョはつい数分前までナマエがいたはずの場所を見て唖然として手に抱えた衣類をすべて床に落とした。慌てて大して広くもない家の中を大股で探し回るが彼女はすでにどこにもいない。

「あんのくそアマ…ッ、逃げやがったっ!!」

苛立ちのあまりギアッチョは無意識に彼女のためにと(自業自得)かき集めていた衣類を一瞬で凍らせた。

「落ち着けって、ギアッチョ。お前のホワイト・アルバムにナマエは攻撃されていたんだろう?本当に彼女は動けるような状態だったのか?」

メローネの言葉にギアッチョは再び反発心からキレそうになったが、言われてみれば、と考え込む。
あの時偶然にもメローネからの連絡がなければ自分の感情に任せて彼女を殺していたかもしれない。とにかくそれくらいまで追い詰めていたのだ。そこまでしてもトリッシュの居場所を吐かなかった彼女には驚かされたが、少なくとも動く気力や体力などはもはやない状態だったのだ。

「アバッキオの『ムーディー・ブルース』かぁ!?」

「…すっかり失念していたな。ギアッチョ。俺とタイプは違うが奴らにも追跡向けの能力者がいたことを。」

ギアッチョは体を震わせたかと思うと身体を反転させて家から出て行った。慌ててメローネも彼の後を追う。
外に出たギアッチョは再びスタンドを発動させてホワイト・アルバムをその身に纏う。

「おい、ギアッチョ。何をするつもりだ?」

「決まってんだろ!ナマエを探して再び捕える!!」

「無理だ。このヴェネツィアがどれだけ広いと思っている?奴らだってマヌケじゃあないんだ。さっさとディスクに示された場所に行くに決まっているだろう。
ここにナマエの血液があるにはあるが…、肝心の母体となる女がここにはいない。それに立派な子供に教育するには時間がかかるしな。お手上げだよ。」

ギアッチョは見に纏ったスタンドを解くと自分の拳を地面へ向かって突き立てた。

「___っ俺の、ミスだ!!!まんまと奴らにディスクを奪われちまったのも、ナマエを逃がしちまったのも…、すべて俺の責任だッ!!」

珍しく落ち込むギアッチョにメローネは震える彼の肩を叩いた。

「お前だけの責任ではないさ。俺もあと一歩のところでまんまと逃げられてしまったからな。彼女は弱そうな見た目のわりになかなかやる女だよ。あの涙で濡れた黒曜石のような美しい瞳…、そして幼い顔立ちとはアンバランスな大きな胸…!そこがまた、ベリッシモ良いんだッ!!」

ジュルリ、といつもの如く欲望を押さえきれないといった様子で涎を啜るメローネを見て、ギアッチョは怒りと自分の情けなさも思わず忘れてドン引きする。

「…いや、お前さ、本当にマジで気持ち悪りいから。はぁ…、なんでテメェみたいな気持ち悪い奴が俺の相棒なんだよ…。」

すっかりメローネのペースにはまっていることにギアッチョも気がついてはいた。それがメローネなりの気遣いなのか思惑なのかは分からないが、一度彼の発言に対して突っ込んでしまったら、もはや先ほどまで自分が本気で後悔していたのが馬鹿らしくなり苛立ちもどこかへ消え失せてしまった。

「とは言いつつも、お前も彼女に興味津々なんだろう?あぁ、早くもう一度会いたいぜ…!俺の可愛いナマエ…ッ」

メローネは自分の世界に入ってしまったようでハァハァと息を切らしながらぶつぶつと何かを呟いている。
こうなると暫くこちらの世界に返ってこないことはギアッチョは経験上知っていたので、思い切りその頭を叩く。

「オイッ!ふざけてる場合じゃあねぇだろ!さっさとテメェのバイクに乗せてけ!!とりあえず他のメンバーと合流するぜ!!」

「なんだ、ギアッチョ。いたのか、お前。」

本気なのかふざけているのか分からないメローネの言葉にギアッチョの怒声が辺りに響いた。

◇◇◇

「ブチャラティッ!ナマエは…!?」

「大丈夫だ。眠っているだけだ。」

ブチャラティが抱えるナマエの姿が見えた途端、一番に飛び出したナランチャに続き、トリッシュを含めた全員が彼の周りに駆け寄った。

「トリッシュ!あなたは亀の中にいなくてはいけない!」

「いいえ、ブチャラティ。ナマエは私の友達よ。友達の危機に自分だけ呑気に安全な場所にいるなんて絶対にイヤよ。」

トリッシュの強い口調にフーゴが説明するように答える。

「さっきからずっとこの調子なんです。僕らがいくら説明しても『私も一緒に待つ』って聞いちゃあくれない。僕はもうあきらめました…。」

若干げっそりとした様子のフーゴに何があったのか悟ったブチャラティは彼にねぎらいの言葉を送る。

「安心しろ。ナマエは無事だ。何も、心配はない。」

ブチャラティはあえて彼女の身に起こったことを全員に伝えなかった。ありのままを話すことも考えたがそれをすれば、今は何も言わずに気にしてないようなフリをしているアバッキオがきっと心底自分を責めるだろう。きっと今は眠っているナマエもそんなことは望んでいない。
自分の腕の中でスヤスヤと眠るナマエを見つめたブチャラティは、フッと一つ微笑んだ。
そして視線を全員のほうへ向けたかと思うと、一変して鋭い表情を浮かべる。

「ディスクはもう見たのか?」

「いいえ。ブチャラテイが戻ってからのほうがいいだろうという結論になりました。」

「そうか。ならば俺は亀の中でコイツを見てくる。お前たちはトリッシュをここで護衛しろ。」

そう言い残すとブチャラティはナマエを抱えたまま亀の中へと入っていった。
後に残された全員がお互いに顔を見合わす。

「なんか、ブチャラティの様子、おかしくなかったか?」

ミスタの言葉にナランチャとトリッシュ以外の全員が頷く。

「え?え?なに?どこがおかしかったんだよ?」

「もういいです。あなたは黙っていてください。ナランチャ。」

「オイ!フーゴ!俺をのけ者にすんなよ!俺のが年上だからな!お前覚えてんだろーな!」


(何か、嫌な予感がする。)

ナランチャの一人騒ぐ声を背に、ジョルノは心の中で密かに呟いた。
彼女、ナマエの両腕、両足にあった赤く腫れたような傷跡。まるで何か冷たいものに長時間拘束されていたかのような。氷、先ほど自分とミスタが戦ったギアッチョというスタンド使いが彼女に何かしたのは明白だった。おそらくナランチャ以外の全員が気がついているだろう。しかしブチャラティはあえてそのことを自分たちに話さなかった。


何かを決断した、強い決意の顔。


「ブチャラティは、もしかして___、」

「は?なんか言ったか?ジョルノ?」

「い、いえ…。なんでもありません。僕の勘違いだと、いいんですが…。」

ジョルノの呟きは風に乗って消え、誰に聞かれることもなかった。
そしていよいよ運命の島へ上陸することになる。

『サン・ジョルジョ・マジョーレ島』へ___。