▼ 19.年下の彼は
あれから一時間ほど経過しただろうか。外からの連絡もなにもないことから未だ車を見つけられずに、彼らは歩いているのだろう。
「ナマエはブチャラティのことが好きなの?」
「えっ!?と、トリッシュ、突然どうしたの…?」
「暇なんだもの。それに私、今まで年の近い友達なんていなかったから、一度こういう話をしてみたかったのよね!」
まるで人が変わったかのようにトリッシュは楽しそうに話をしていた。出会った当初の刺々しい雰囲気もなくなり笑顔を見せてくれる彼女を見て、少しは信用してくれたのかもと、嬉しい気持ちになる。
「ねぇどうなの?さっきミスタと一緒に外に戦いに行ったのもブチャラティのためなんでしょう?あの時のあなた、本当にすごかったわ!覚悟を決めた人って、本当に美しいものね…。」
「そ、そんな褒めても何もでないからね…!
……でも、私があの時頑張れたのは、確かにブチャラティのおかげだよ。」
「やっぱり!愛する人のために命をかけるなんて…、素敵だわっ!はぁ……、憧れよねぇ…。」
「あ、愛するって…。」
ほぅ、とため息をついたトリッシュは先ほどまで泣いていたのはどこへやら、不安など忘れてしまったかのように楽しそうに話し続ける。
トリッシュの不安な気持ちが少しでも少なくなるのなら私はいくらでも彼女の話に付き合うが、この話題ばかりはいささか恥ずかしい。
「そうだわ!私の洋服を貸してあげるわ。ミスタも言っていたけど、ナマエはせっかく大きな胸をしているんだからもっとそれを魅力的に見せる服を着てもいいと思うのよね。ブチャラティがあっ、と驚くくらい可愛くしちゃいましょう。さぁ、さっさとその毛布をどかしてちょうだい。」
「ぎゃあっ!ちょっとトリッシュっ!!」
先ほどまでのしおらしさはどこへやら、トリッシュは私の毛布を無理やり引っぺがし自分のバッグから洋服を取り出す。
ボロボロになってしまった制服は脱いだ後、ブチャラティがどこかへと持っていってしまったのでたぶん今頃処分されているだろう。つまり毛布の下は下着一枚の状態だ。
「あら。ナマエ、あなた本当に綺麗な胸をしているわね。おっきいし柔らかぁ〜い!」
「ちょっとトリッシュ…っ!あ、あんまり触らないで…っ、ひ、ぁ…っ」
「いいじゃないの〜!女同士でしょ!一体何人の男をこの胸で悩殺してきたのよ!」
「ん…!そ、そんなの、一人もいない、もんっ!………ぁっ!」
ふと視線を感じて私は亀の入り口のほうへ目を向ける。
それにつられてトリッシュも私の胸を両手で揉んだまま同じ方へ視線を向ける。
「あ……。」
「……アバッキオ、え、えっと、これは……。」
トリッシュと私の間抜けな声が響く。アバッキオはいつもはキリッとした鋭い目を珍しく点にしてかなり驚いているようだった。そりゃあそうだろう。誰もこの緊急事態の中亀の中で女同士戯れていることなど想像しないだろう。
だがアバッキオはさすがに冷静で、すぐにいつもの鋭い表情に戻ると一つ咳払いをして口を開いた。
「………車を見つけたんでそろそろ出てこいと言いに来たんだが……、邪魔したな。まぁ俺に気にせず続けてくれ。」
アバッキオは一瞬だけ私の露出された胸に目をやると、そのまま亀の外へと出て行ってしまった。
「ア、アバッキオッ!!待って!これは誤解で…っ」
「………今、絶対チラッと見ていったわ。」
「___トリッシュッ!!」
アバッキオにどう弁明しようか、私は頭を抱えた。
◇
「………ナマエ、どうしたんだ。その服は…。」
「…トリッシュが貸してくれた。毛布よりは、マシかと思って。」
ブチャラティの視線が痛い。
その理由は分かっていた。今さっきトリッシュが貸してくれた洋服だ。
私が着ている洋服は黒をベースとしたタートルネックのノースリーブになっており、一見して腰のくびれが目立つ作りになっている以外は普通のものだ。しかし近くでよくよく見ると、首回りから胸元の結構際どいところまでが黒いレースのシースルーになっており、ところどころ肌が見え隠れする。
全体的に身体にフィットする作りになっているためか、しっかりと胸元を強調してしまっている。
制服だと隠れていた身体のラインが見えてしまっていて、普段着として着るにはかなり難易度が高い。というか恥ずかしい。
しかしブチャラティはこういうところも紳士的で、私の胸元に視線をやることは一度もなかった。
「なんというかその……、少し、お前には派手すぎるんじゃあないか?」
「う、うん、分かってるっ!似合っていないことは分かっているけど…!とりあえず早く服がほしいです…。」
「いいや。よく似合ってはいる。だがお前にはまだそういう服は早い。早いところ服を買ってやる。今日はもう店も閉まる時間だから無理だが…。」
そう言うとブチャラティはさっさと亀の中へと入っていってしまった。こんなセクシーな服、確かに私にはまだ早いかもしれないが、やはり子供扱いされている気がして悲しくなる。
「…やっぱり、私ってあまり魅力ないのかなぁ。」
自分の胸元を見ながらボソリと呟く。
「ナマエさん。ちょっと来てもらえますか?どの車を盗むか相談なんですが……。
その服どうしたんですか?」
「あっ、ジョルノ…。トリッシュに借りたの。毛布のままじゃあ外にも出られないし…。」
なんだか車を盗むとか物騒なワードが聞こえた気もしたが、気のせいだということにしておこう。
ジョルノは私の目の前まで来るとピタリと動きを止めた。すると流れるような自然な動きで私の耳もとに口を寄せる。
「その服、とてもセクシーでよく似合っていますよ。」
耳元の息がかかるくらい近く、甘い声色で囁かれて反射的に身体がビクリと跳ねる。
そんな私の反応にジョルノはセクシーに笑ったかと思うと、ナランチャやフーゴがいる方へと戻っていった。
未だに胸がドキドキ言っている。ジョルノ・ジョバァーナ、女の子たちから騒がれていたのも納得がいく。
あんなにセクシーな表情をされては大抵の女は一瞬で落ちるだろう。
「ジョルノ・ジョバァーナ…。侮りがたし…。」
本当に彼が年下なのか私は本気で疑った。