Day'seyeをあなたへ | ナノ

 14.覚悟はいいか?

「いやぁあああぁあっ!ミスタっ!ミスタぁー!」

「黙れ!ペッシ!この女をしっかりと捕えていろ!能力を決して使わせるな!お前もいつまでもマンモーニのペッシなんて呼ばれるのは嫌だろう。俺が今言った言葉の意味、理解して行動できるよな?」

「わ、わかったぜ!プロシュート兄貴!オレはこの女を絶対に逃がさない!」

そういうとペッシはナマエを逃がさないようにビーチ・ボーイの紐で身体を拘束した。
釣り糸は誰がどう見たって細くてちぎれてしまいそうなのに、いくら力を入れてもこの糸はビクともしない。

「プロシュート兄貴。この女は老いさせなくていいんですかい?」

「ペッシよぉ、お前なら老いてシワシワになったババアを命をかけて助けたい、なんて思うのか?あぁ?」

「そ、そりゃあ思わねぇけどよぉ…。この女もスタンド使いなんだろ…?どうせ連れていくなら老いさせたほうが楽っていうか…、」

「おいおいおいおい…。俺は今さっきお前に言ったよなぁ。こんな小娘一人にビビッていてどうするんだ。だからお前はいつまでも赤ちゃんなんだよ。女1人服従させることができなくてギャングなんてやってられると思うのか?」

プロシュートはギラギラとした目をこちらに向けたかと思うとコツコツと靴の踵を鳴らして近づいてくる。
するとなにを思ったか私の制服の胸倉を両手で掴み、胸元のネクタイもろともワイシャツのボタンを引き千切った。

「や……っ!!」

「フッ……、良い様だな。」

破られて肌蹴た胸元から下着が覗いているのに気がつきそこから逃れようと何とか身を捩るが、ペッシと呼ばれた男が後ろから私の両手を拘束しているためその努力は無駄に終わった。
プロシュートはテーブルの上の割れたグラスの中から氷を幾つか掴んだかと思うと、あろうことかそれを私の胸の間へと押し込んだ。それだけならいざ知らず、氷を押し込んだ方の手で去り際に思い切り私の胸を掴んで揉み上げたのだ。

「ひゃぁっ!!」

氷の冷たさと、突然胸を触られたことに驚きのあまり悲鳴を上げてしまう。
後ろにいるもう一人の男がゴクリと喉を鳴らしたのが分かり、恐怖に身を竦ませた。
プロシュートは私の胸から首にかけて、指で肌をなぞったかと思うと私の後ろにいるペッシのほうへ目線だけ向けた。

「わかっただろ?男ってのは若い女のほうがヤル気がでるんだよ。ブチャラティたちだってそうだろうさ。もしかしたら労せずトリッシュを手に入れられる可能性もある。
さぁペッシ、行くぜ。お前が違和感を感じたという運転席へとな。」

(…っミスタ……!)

ミスタは生きている。私は先ほどミスタの銃を取りに行くときに自分が一かけら持っていた氷を老化してしまったピストルズの一人の近くにそっと置いたのだ。冷えて復活したNO.6は拘束されて動けない私のほうを一瞬見て理解したのか、私の与えた氷を手に持ち迷わず先頭車両のほうへと飛んでいった。
ピストルズはきっとブチャラティの元にいち早く戻り彼に伝えてくれるはずだ。
今の私にはミスタのピストルズとブチャラティを信じることしかできなかった。

◇◇◇

私は拘束されたまま再び元の運転席まで戻ってきた。
NO.6は間に合ったのだろうか。彼らがすでにここから逃げていることを願って目を閉じる。

「おい女。ブチャラティたちはどこにいる?」

プロシュートが再び鋭い視線をこちらに向けてきたことで、私は驚きと恐怖で肩を跳ねさせた。
もちろんどこにいるかなんて質問には答えるわけにはいかない。
その意図を向こうも私の無言の返答で感じたのか、今度は大きな手で顎を思い切り掴まれて無理やり上を向かされる。

「俺は目的のためなら女でも容赦はしない。さっさと答えたほうが身のためだと思うがな。」

「…………。」

言葉を発さない私の態度が気に障ったのか、顎を掴んでいた手に力が籠るのが分かる。

「ローマに着くまでまだ時間はある。その身体に直接聞いてやろうか?」

見下ろす男の視線に背筋が凍る。この人は私から情報を聞き出すためならそれこそどんなことだってするだろう。
恐怖で身体が震えた。
私が震えているのに気がついた男はハンッと鼻で笑う。

「今すぐ吐けばアジトに行ったときに俺からメンバーに口添えしてやる。『優しく』扱うようにってな。
わかるだろう?俺だってできれば女相手に乱暴なことはしたくはねぇ。だが逆らったりすれば容赦はしないぜ。」

驚いたことに目の前の男は思った以上に理知的で理性的だった。だけど自分たちの邪魔をする者に対しては手段を選ばない冷酷さを持ち合わせている。
だからこそ恐ろしかった。私が従わなかったときは何をされるか分からない。
だけど私の答えは決まっていた。

「……居場所は、知りません。」

その瞬間世界が揺れた。目がグルグルと回って何も考えられない。後になって頬が燃えるように熱くなる。
どうやら私は目の前の男に頬を打たれたようだ。口の中に血の味が広がる。
立っていることができなくて倒れこみそうになるが、後ろの男に糸で拘束されているため座り込むことさえできない。
再び顎を掴まれて上を向かされる。男は何かを言っているが殴られた衝撃で耳が遠くなっているのか、何を言っているのか分からない。目の前が揺れて気持ちが悪い。
再び男が手を振りかざすのが分かったが避ける気力もない。
もうダメだ。そう思った時だった。


___ジ、ジ、ジジジ、
天井からジッパーを開く音が聞こえてきくるのと同時に、外の新鮮な風が入り込み蒸し暑い車内に広がる。
ブチャラティがプロシュートに殴りかかるのは一瞬のうちの出来事だった。

(間に合った…!)

ブチャラティと共に氷を持ったNO.6の姿もある。どうやらすべての状況をブチャラティに伝えることに成功したらしい。
だがしかし、ブチャラティのスティッキィ・フィンガーズにいち早く気がついたプロシュートは、私を殴ろうとする手を止めて自身のスタンドで応戦する。

「…何故ミスタのスタンドがここにいる?奴は脳天に確実に弾を打ち込んでやったはず…。
まさか、貴様…っ!」

天井から降りてきたブチャラティと一瞬目が合う。彼は私の姿を見ると一瞬目を見開いて、更にその目つきを鋭くした。

「ブチャラティ…っ!その黒いスーツの男が皆を老化させるスタンドだよ!絶対に触られちゃダメ…!一瞬のうちに老化が進んでしまうから…っ」

「オ、オイ!兄貴のスタンドについて余計なことを言うんじゃねぇっ!このアマっ!」

「うっ…!」

ペッシが更に糸の拘束を強くして手で私の口を塞ぐ。
それを見たブチャラティは冷たく、だが燃えるようなギラギラとした瞳をこちらに向ける。

「テメェら…。彼女に何をした……っ!!」

ブチャラティのスティッキィ・フィンガーズが物凄いスピードでプロシュートを追い詰めていく。
(ブチャラティのほうが強い…!)

「チィ…ッ!早い!」

スティッキィ・フィンガーズの拳がプロシュートの顎をギリギリ掠める。攻撃が掠ったところがジッパーに変化し、傷口が開いたかのようにパカリと口を開いた。
ブチャラティのスピードについていくのがやっとのプロシュートはペッシに向かって叫ぶ。

「ペッシ!!その女を連れていけッ!早くしろーッ!!」

ペッシがその言葉に反応し、ナマエを連れてこの場を後にしようとする。だが部屋を出る前にペッシはブチャラティの回し蹴りによって声を上げる暇もなく扉へとめり込んだ。
ペッシは気絶したのかスタンドのビーチ・ボーイは消えてナマエの拘束も解けた。
支えを失ったことによってナマエはその場に膝をつく。
しかしナマエを助けたことによってブチャラティに隙が生まれて、プロシュートに攻撃の機会を与えてしまったのだ。

「甘いんじゃあねぇのか?ブチャラティ。仲間を切り捨ててでも俺を倒す!それが任務なんじゃあねぇのか?幹部失格だな。」

「ブチャラティッ!!その拳に触れちゃだめッ!!」

「くらえ!!グレイトフル・デッドッ!!」

避けられない!この場にいる誰もがそう思った。だがしかし、驚いたことにブチャラティは自らの顔にジッパーをつけるとそれを開いた。ジッパーによってブチャラティの顔は真っ二つに割れる。プロシュートの拳はその間を通って空振りした。
予想もしていなかったブチャラティの回避の仕方に動揺したプロシュートの隙をつき今度は腹部に強烈なボディブローをお見舞いする。プロシュートは呻き声を上げて壁まで吹き飛ばされた。
自分の顔につけたジッパーを閉じながらブチャラティは言った。

「任務は遂行する。仲間も守る。お前ごときに両方やるというのは、そう難しいことじゃあないな。」

プロシュートは腹を殴られたため腹が半分程ジッパーになってしまっており、満足に立つこともできないようだ。

「早い、な…、ハァ、ハァ…。確かに、お前のスタンドは、早い……。」

男を追い詰めているのはブチャラティのほうだ。それなのにプロシュートはブチャラティを見て不敵に笑った。

「……確かにお前のスタンドのほうがパワーもスピードも上だ。俺のグレイトフル・デッドは老化のほうにエネルギーを使っているからな…。
だがな、車だってそうだろう。馬力のあるほうが早く温まる。
……お前、ずいぶんと息が上がっているんじゃあないか?賢明なお前なら、俺の言っている意味が分かるよなぁ?」

『コ、氷が聞カナクナッテキテイル!』

一気にブチャラティの老化が進む。それと同時に疲労が現れ始めたのか、スティッキィ・フィンガーズに先ほどまでの素早さは失われた。

「どうするんだよ……え?お前にくらったこのジッパー…、だんだん閉じてきている…。顎のジッパーはもう消えた。どうした?肩こりで疲労でも出てきたか…?」

「ブチャラティ…ッ!」

「心配ない。ナマエ。承知の上だ…。身体があったまってくるのは……。掴まえられるのも覚悟の上だ…。」

プロシュートはグレイトフル・デッドでブチャラティの腕をつかむ。
立ち上がってそれを阻止したいのに、情けないことに先ほどのプロシュートのパンチがよっぽど効いているのか立ち上がることすらできない。

「何言ってやがる?負け惜しみか?見苦しいぜ、ブチャラティ。
これでお前らは皆殺しだ。他の奴らの居場所はお前が死んだあと、そこの娘の身体にじっくりと聞いてやる。そしてオレたちはボスの娘を手に入れる!」

ブチャラティはそんなピンチにも関わらず、私のほうをチラリと見て優しい微笑みを向けた。
その笑顔に背中が凍り付きそうな嫌な感覚を覚える。

「任務は遂行する。部下も守る。両方やらなくちゃあならないってのが、幹部の辛いところだな…。
____覚悟はいいか?俺はできている。」

「や、やめて…ッ!ブチャラティ……ッ!!」

ふらつく足を無理やり立たせて彼の元へと行こうとする。
しかし間に合うわけもなく、ブチャラティはプロシュートと自分の足元にジッパーを出現させた。

「ば、ばかな!?外は時速150qだぞっ!?馬鹿な真似はやめろーっ!!」

「ブチャラティーーーーーッ!!」

手を伸ばすこともできない私はただ、ブチャラティがプロシュートを道連れに列車の外へと引きずり出すのを見ていることしかできなかった。