Day'seyeをあなたへ | ナノ

 11.ドライブしよう!

ジョルノ、アバッキオ、フーゴは鍵を手に入れて戻ってきた。
しかしアバッキオが右手を切断するという大怪我を負ってしまった。
病院に行くのだろうかと思った矢先、ブチャラティは自分のスタンド、『スティッキィ・フィンガーズ』を出現させると切断されたアバッキオの手首の先をジッパーのようにしてくっつけてしまったのだ。
驚きに目を丸くする私に説明するようにブチャラティは「そのうちくっつくだろう。」と本気で言っているのかジョークで言っているのか分からない台詞を残していった。
しかしブチャラティの言った通り、アバッキオの指はわずかながら動いているようなので本当にくっつくのも時間が解決してくれるのかもしれない。ブチャラティのスタンドを初めて見た驚きよりも、その利用方法に私は驚いていた。

じゃあそろそろ行くか、そんな雰囲気になったので私は意を決して声を上げた。

「あの…!出発前に、みんなに話しておきたいことあるの。」

何故お前が、そんな視線をアバッキオから感じたが私は構わず話し続けた。
疑われることを覚悟で先ほど見た夢の話を全員にしておくことにしたのだ。
ブチャラティはあまり賛成しなかったのだが、いつどこであの場面に辿りつくのか私にもわからない。
あまり戦うことを得意としない私のスタンドは、その瞬間なにもできないかもしれないのだ。
全員に情報を共有することがブチャラティを助ける鍵になる、そんな気がした。
疑われることを覚悟で先ほどの夢のことについて私は全員に話した。
建物の外観、内部の様子、そして事切れていた彼の事。

「ま、マジかよ…!?」

「本当なのか?名前、ブチャラティがこのままだとヤベェってのは…、」

ナランチャとミスタの驚きを隠せないといった様子に、私は肯定するように頷く。
あまり私のことをよく思っていないであろうアバッキオには「信じられるか」くらいの言葉を言われることは覚悟していたが、彼の口から出てきた言葉は予想外のものだった。

「……どうすればブチャラティを救える?」

真剣な目でこちらを見つめてくるアバッキオ。思えば彼の顔を真正面からまともに見たのはこれが初めてかもしれない。彼が私を警戒しているのは分かっていたので、自分も必要以上に近づかないようにしていた。
そのアバッキオが真剣な顔で、こちらを真っ直ぐと見ているのだ。
彼にとってブチャラティの存在が如何に大きなものなのか始めて知った。
いや、彼だけじゃない。ここにいるブチャラティの仲間、全員が真剣に私の話を聞いている。
改めてブチャラティの人望がどれほど厚いか知ることができた。

「おい、お前ら。気持ちは有難いが今は娘を連れて一刻も早くこの場を立ち去るべきだ。」

「……そうだな。とりあえず話は移動しながらでもできる。」

「ですが、いいんですか?ナマエさんは。ブチャラティを救うのなら彼女の同行が今後もずっと不可欠になる。なにせ彼女以外に例の場所を見た人間はいないのだから。」

ジョルノの言いたいことは、つまり先ほどブチャラティと2人で話したことと同じ内容だった。ブチャラティを守るためにこれから先も彼と行動を共にするということは私にその気がなくともギャングの世界に片足を突っ込むということ。
私はその問いに強くうなづいた。

「私はブチャラティに助けられた。だからブチャラティのためにこの力を使いたい。」

ジョルノはチラリと隣にいるブチャラティに視線を移す。
ブチャラティは何も言うことはなかったが、その表情から彼女が自分たちについてくることを心から納得したという訳ではないのだろう。
その証拠に眉間に皺を寄せて難しい顔をしている。

「ブチャラティのためなら仕方がねぇ。俺たちがコイツをフォローしていくしかねぇだろ。」

アバッキオの言葉に反対の声を上げる者は誰もいなかった。だれもがブチャラティを失いたくない、そう思っているからだ。
こうして私たちは利害の一致ということで一緒に行動を続けることになったのだった。

◇◇◇

鍵に記された次なる目的地、フィレンツェへ向かうため、ネアポリス駅を目指して私たちはレンタカーを借りてそこへ向かっていた。
なぜか私よりも年下のはずのジョルノが車を運転しているのだが、誰もそれに対して何かを言うことはなかった。

一番前の席にはジョルノとアバッキオ。真ん中の座席にはナランチャとブチャラティ。普段は荷物を乗せるであろう一番後ろの広いスペースに、私とトリッシュ、それにミスタとフーゴが向かい合って座っていた。
騒がしい前のほうの座席とは裏腹にこの後部座席は息が詰まりそうな静けさだった。
私はチラリと横に座っているトリッシュのほうに目をやる。

(本当に表情を変えない人…。)

先ほどからトリッシュは何をするわけでもなく自分の髪を弄んだり、暇そうに爪を見たりしている。
向かい合って座っているミスタとフーゴも手持無沙汰なのか暇そうに窓の外に目をやったり、向かい合う私たちのほうをチラチラと見てコソコソ話したりと落ち着かない様子だ。

(一体なにをニヤニヤしているんだろう?)

ミスタのだらしないにやけ顔が気になり私は彼らの視線の先を追う。

「あ。」

そこで漸く気がついた。トリッシュが靴の紐を治すために前かがみになっているものだから、彼女の胸の谷間が向こうからだと丸見えなのだ。
私は慌てて声を上げた。

「ト、トリッシュさん。喉乾きませんか?よかったらミネラルウォーター飲みますか?」

「あっ、オイ、ナマエ!」

私が話しかけたことによってトリッシュは靴を治すのを止めたため、ミスタは残念そうな声を出していたが無視した。フーゴから若干ホッとしたようなため息が聞こえたのは聞き間違いではないだろう。

「悪いけど私、フランス製のものしか飲まないことにしているの。」

「そう言ってたので買っておいたんですよ。えーっと確か後ろのカバンの中に…。」

座席から少し離れたカバンに手が届かなかったので、揺れる車の中慎重に立ち上がる。
その時だった。車は急カーブに差し掛かったようで激しく横揺れしたのだ。

「あっ!!」

立ち上がっていた私はその重心に逆らうことができず思い切りミスタとフーゴの座っている座席のほうへ転がる。
しかし感じたのは痛みではなく違和感だった。
何かが胸に当たっているような……。

「おいおい、お前見かけによらず大胆じゃねーか。」

ミスタの声に恐る恐る目を開けるとそこにはもっと恐ろしい光景が広がっていた。
私はミスタの膝をまたぐようにして膝立ちで彼の上に乗っかっていたのだ。しかもご丁寧に自分の胸を思い切り彼の顔に押し付けていた。

「___ひゃっ!!」

慌てて飛びのいて元の座席に戻ろうとするとなぜかそこにはフーゴがいた。
彼も彼でなぜか顔を真っ赤にしており、仕切りにトリッシュに向かって謝っている。

「ナマエー、お前よぉ、何カップだ?」

「へっ!?な、なに言ってるの!?」

ミスタのセクハラ発言に私は思わず自分の胸を隠す。

「お前も制服じゃあなくてよぉ、トリッシュみたいな服着たらいいんじゃないの?思ったよりオッパイでけぇからよぉ、きっとイイと思うんだよなぁ。」

ニヤニヤと笑うミスタの顔は誰がどう見てもスケベおやじの顔で、この手のジョークに慣れていない私は恥ずかしくて顔を真っ赤にしてうつむかせるしかなかった。

「オイ、ミスタ。ナマエに手を出したらただじゃあおかねぇぞ。」

前方から聞こえたブチャラティの救いの声に思わずそちらを見上げる。

「じょ、冗談だってぇ〜!なぁ、ナマエ!俺はこけそうになったお前を支えてやっただけだもんな!」

ハハハ、と乾いた笑いを漏らすミスタに私もフーゴも、心なしかあのトリッシュも冷たい視線を送っているように見える。
ブチャラティの介入で、さすがにこの話題は終わりだろうと息をついたところで、天然なのかわざとなのか分からないが前に座るナランチャが後ろを振り向き口を挟んできた。

「ナマエのおっぱい、ちょー柔らかいもんなぁ!オレ、ミスタの気持ち、すこし分かるわ。」

「ナ、ナランチャ!?なに言ってるの…っ」

何故ナランチャまでそんなことを、と一瞬思ったが、そういえばナランチャは私に倒れかかってきたことがあったのだと思い出した。
しかしそのことを覚えているということはあの時ナランチャは意識を失ったはいなかったのか…。
恥ずかしくて再び顔を俯かせる。

「ナマエ、あなたのそういった恥ずかしがる顔や仕草がアイツらを調子に乗せるんですよ。ほら、見てください。あのだらし無い顔を。」

フーゴの言葉にナランチャとミスタの方を見ると、たしかにニヤニヤとしたようなだらしがない顔をしていた。
次私がなにをいうのか、楽しくて仕方がないといった顔だ。

「じゃ、じゃぁ、どうすればいいの…?」

「そうですね。男なら急所をつけば一発で対処できます。特にあなたのような人に警戒心を抱かせない雰囲気の女性がやれば効果は抜群です。」

「急所…?」

「オ、オイ!フーゴ!それってまさか…!」

ミスタはゴクリと喉を鳴らして何故か下腹部辺りを守るようにして押さえている。

「ははっ!それってもしかして、キン_____、」

ナランチャの言葉はゴツッという痛そうな音とともに消えた。
どうやら隣に座るブチャラティがナランチャの頭をゲンコツで殴ったようで、ナランチャは頭を抱えて悶絶している。

「………俺がお前らの急所を殴ってやろうか?『スティッキィ・フィンガーズ』で。」

振り返ったブチャラティの顔は、それはそれは恐ろしくて騒いでいたミスタもフーゴも、ついでに私も固まった。
そしてトリッシュに水を漸く渡せたのは、車がネアポリス駅に到着した時だった。