▼ 9.だから迷惑なんだ
私はブチャラティと二人で現在二階にある部屋の一室にいた。
本来であれば気になる人と二人で一つの部屋にいるというドキドキしてしまうシュチュエーションなのだが、話している内容は全く色気のある話ではない。
「まずお前のスタンドについて確認なのだが。」
「うん。」
「触れている部分を中心に何十メートルかが発動範囲。そしてその中にいる物や人の未来の姿が脳内に映像のようになって現れる、ということでいいか?」
「そう。その映像を見ている間、私は実際に今現実で起こっていることは認識していないんだと思う。」
「そのようだったな。船でお前が能力を使ったときまさにそんな感じだった。心ここに在らずといったようにな。
俺が知りたいのは二つ。一つ、他の人間もお前が見ている映像を見ることができるのか?二つ、どれくらい先の未来まで見ることができるのか?」
「……ごめん、両方分からない。初めて力を使った時もほんの数十秒先の未来を見ただけだったし、船のときも数十分程度の時間だったから…。」
「その辺は能力を使いながら知っていくしかない、か…。
ナマエ、すまないが一度能力を使ってみてはもらえないか?」
「う、うん!勿論だよ…。」
ブチャラティに頼まれるとうれしくなって舞い上がりたい気持ちになってしまう。
勿論その頼みを断る理由は私にはなかった。
私はスタンドを出現させる。
「この家の少し外まで、そうだな、10分後くらい先の未来を見ることはできるか?」
「やってみる。」
私は壁に手をついて小さく呟いた。
「プレシエンツァ・フューチャー。」
途端、脳内に早送りの映像のように情報が流れ込んでくる。
10分間の未来の映像を見終わった私は目を見開いてブチャラティを見つめた。
「10分で10秒といったところか。
……どうした?そんなに目を見開いて。」
「ナランチャがケガをして帰ってくる!追手に襲われたのかも!」
「なに!?」
私は慌てて綺麗な布と救急箱を探し出し家の外まで飛び出した。
事情をしらないブチャラティ以外の男たちは何事かと思いその様子を見ている。
数分もしないうちにブドウ畑の向こうのほうにふらふらとした人影が現れた。
私はその人影に急いで走り寄った。
「ナランチャ!」
驚いたことにナランチャはここを出て行ったときとはえらい様変わりして帰ってきた。
ボロボロで血だらけなだけでも驚きなのに、なぜか行くときに乗っていったはずの車はそこにはない。
「あ?お、おぉ…。ナマエじゃあねぇか……。ちょ、ちょっと悪りぃ……。肩かして、」
ナランチャはそう言ったかと思うとフラァと私のほうへ向かって倒れてきた。
慌ててそれを受け止めようとするが、ナランチャがいくら小柄とはいえ自分より十センチも大きな男を支えられるはずもなく一緒にひっくり返りそうになる。
「大丈夫か?」
「……あ、ブチャラティ…。あ、ありがとう…。」
ブチャラティが一緒に来てくれていたのか後ろから私とナランチャを受け止めるように支えてくれていた。
まるで背中からブチャラティに抱きしめられているみたいで、その近すぎる距離感に一気に顔が赤くなる。
それに前には完全に気を失ったナランチャが、仕方がないとはいえ私の胸に顔を埋めるようにして寄りかかっている。
恥ずかしすぎてブチャラティになんとかしてほしいと視線で訴える。
「……ナランチャのヤツ、起きてるんじゃあねぇだろうな。」
ブチャラティはボソッと言ったかと思うと私に張り付いていたナランチャを引きはがし、自分の肩へといとも簡単に抱えた。
「戻るぞナマエ。ナランチャの手当てをして何があったのか聞かなくては。」
「う、うん!」
人一人抱えているとは思えないほどスタスタと歩くブチャラティの後を、私は慌てて追いかけた。
◇◇◇
「俺はもうこの隠れ家はヤバイと思う。今すぐここを出るべきたぜ!」
幸いにもナランチャの傷はそれほど深くはなく、彼はすぐに目を覚ました。
しかし腕や顔に細かい刺し傷や切り傷が多く痛々しい。
腕に包帯を巻きながらその傷に顔を顰めた。
だがそれ以上に痛々しいのはナランチャの様子だ。
罰の悪そうな、なんとも悔しそうな顔をしていて、この場所がもしバレてしまったら自分の責任だと考えているに違いない。
「ナランチャを襲ったヤツの話によればヤツの仲間は暗殺の訓練を受けているヤツららしいじゃあねぇか…!危険は、娘をつれて移動すればするほど大きくなるんだ…!」
暗殺者、そんなものに狙われているトリッシュは一体どんな気持ちなのだろうか。今も二階の窓からわれ関せずといった様子で遠くの方を見つめている彼女を見上げる。
「僕はそんなことを言っている余裕はないと思います。僕があれだけ注意したのにこいつったら尾行されちまって…。しかも道路中の車に火をつけまくったんですよ。これじゃあのろしを上げて敵に居場所を押しているようなものだ。」
フーゴの言葉にナランチャは頭を抱え込んでしまう。
そんな彼を目の前にしても私にはかける言葉がなかった。下手な慰めの言葉なんてナランチャのプライドを傷つけるだけだ。私は無言で傷の処置をした。
「ナランチャはすべてにおいて的確な判断をしたと僕は思います。そして娘を匿っているのはブチャラティだと敵に感づかれた今、賢明なボスならなにか連絡をしてくると思います。」
「チッ!だれも新人のお前の意見なんか聞いちゃあいないぜ!ジョルノ!」
一体これからどうするのがいいのか、一刻も早くこの隠れ家を離れるべきなのか、それともここにとどまって指示があるのを待つべきなのか。
私はハッとした。
「プレディツィ・オーネ!」
突然スタンドを出した私に全員がギョッとして私から一歩離れる。
その様子に信頼されていないということをまざまざと突きつけられて少し悲しい気持ちになるが、今はそんなことを言っている場合ではない。
「私のスタンドで未来を見て、どうするのが一番最善なのか考えてみるのはどう…?」
「へぇ…、お手並み拝見といこうじゃあねぇか。」
アバッキオの品定めするような笑いに少しやりにくさを感じながらも私は能力を発動した。
だがなかなか決定的な情報はない。先へ先へと未来を見て行き漸く事態が動き出しそうな場面へとたどり着いた。
「___ジョルノの言う通り、あと一時間もすると連絡が来る。……ここで待つのが、最善、」
「オイッ!」
頭がクラクラして立っていられず膝から崩れ落ちそうになる。
だがいつまでたっても地面と接触しない。
力の入らない身体を必死に持ち上げて上を見上げると、なんと私を支えてくれたのはアバッキオだった。
「チッ!なんでジョルノといい、コイツといい自分の限界も考えないで無茶しやがるんだ!少しは周りの迷惑を考えろっ」
「ナマエ!?大丈夫か!?アバッキオ、彼女は…!?」
「生きてるさ。ただの疲労じゃあねぇか?ブチャラティ、迷惑だからさっさと寝かしとけ!」
アバッキオは強引に私の身体をブチャラティのほうへと押し付ける。
一見冷たいともとれるその言葉の中に、私は何か温かいものを感じて思わず微笑んでしまう。
「なんで笑ってやがる…。力の使い過ぎで頭がおかしくなったか?」
「……アバッキオ、心配してくれてありがとう。」
「心配なんざしてねぇよ!おい、ミスタ!ボスからの連絡はまだこねぇのか!?」
「さっきナマエさんが約一時間後だって言っていたじゃあないですか。」
「るせぇぞ!ジョルノ!」
ブチャラティが言っていた悪い奴じゃあないという意味が漸く分かったような気がする。
少し照れているアバッキオを後に、私はブチャラティに抱えられて家へと向かった。