37.あなたのためにできること、それは
外へ出た私の目に飛び込んできたのは驚くべき光景だった。
決して広くはない道にパトカーや救急車、消防車が集まっていた。
そしてその中心に血だらけで立つのがやっとの学生服の男を認める。それは今まで何度も自分を助けてくれた彼だった。
「____っ仗助!」
「名前っ!?」
私の姿を視界にとらえた瞬間、仗助は肩の力が抜けたかのようにそのまま座り込む。
慌てて承太郎さんの腕の中から飛び出て彼の元に駆け寄る。
「やだ…っ!どうしたの!?その怪我…!大丈夫!?」
「ハハッ!やっぱ名前だ…。よかった…、無事でよぉ…!
億泰といいお前といい、心配かけさせやがってよぉ…っ!」
仗助は木片が刺さッていない側の腕でそっと私を抱きしめる。
「あ…、仗助…っ、」
私はチラッと承太郎さんの顔を見上げると、彼はムッと眉を寄せてはいるもののそれ以上何も言わなかった。
涙を流す仗助を私はそっと抱きしめる。
きっと承太郎さんだって今だけは許してくれる。
「俺が言える立場じゃあないけどよぉ〜、心配させやがって、コノヤロォ!」
「億泰君…。」
「名前さん。無事でよかったよ…!心配したんだからねっ」
「康一君…。」
「ったくお前は本当に人のことを引っ掻き回すよなぁ。…まぁだけど、なんだ、……無事で安心したよ。名前」
「露伴先生…!」
三人の言葉に私の涙腺は崩壊しそうになる。そして私はその場にいたもう一人の少年に声をかける。
「早人君…。ありがとう。君のお陰だよね…。今私たちが生きているのは。」
「ぼ、僕なんて…!全然っ!遅くなってごめんなさい…名前さん……。」
その言葉に私は首を横に振ってこたえた。
「オイ仗助。そろそろコイツから離れやがれ。」
そう言って承太郎さんは私の手を掴んで自分の方へ引き寄せる。その身体はスッポリと彼の腕に包まれてしまった。
「……っちぇ。もうちこっと位いいじゃあねぇかよ。なぁ、名前。」
「え、ぇえっと……。」
いつものように睨み合う二人に安心したような、まだ慣れないような…。
「と、とりあえず仗助は病院に行こう!調度救急車も……、わっ!」
救急車の方へ目を向けた途端承太郎さんの腹に顔を押し付けられる。
「どうしたんですか…?!承太郎さん」
「……吉良は死んだ。救急車に轢かれてな。」
仗助の謎の負傷と、皆の柔らかい雰囲気からして吉良は倒されたのだろうとは思っていた。
だが、まさかそんなにあっさりと…?
「…あっけないものよなぁ。
あれだけ人の魂を踏みにじって殺人を繰り返していた吉良吉影がなぁ……。」
億泰君の言葉は風に乗って消えていった。
私たちは吉良が轢かれた救急車の横に止めてあった、もう一台の救急車に仗助を乗せて病院へ向かうこととなった。
救急車には付き添いは一人しか乗れないということで、一番事情を良く知っていてしかもしっかりとしている早人が同乗することになった。確かに億泰君よりはしっかりと説明ができそうだ。
「仗助、俺たちもすぐに病院に向かう。あんまり騒いで彼らを困らせるんじゃあないぜ。」
「騒ぎませんよ!承太郎さん俺のことなんだと思ってるんすか!?」
「僕は帰らせてもらいますよ。仗助の付き添いなんて真っ平ゴメンだね。
それにこんな貴重な体験をさせてもらったんだ。アイデアが次々と溢れてきてしょうがない…!」
「駄目ですよ。露伴先生。早人君の言葉によれば僕たちも吉良の『バイツァ・ダスト』で攻撃されていたんですから。とりあえず病院に行きましょう。」
「俺タクシー捕まえてくるぜ。ヘイ!タクシー!!」
仗助が乗る救急車を覗き込みながら騒ぎまくる面子に私の口からはため息が漏れる。
(終わったんだ。全て。)
吉良吉影は死んだ。
私たちの非日常の戦い、奇妙な冒険は終わったのだ。
そしてそれは同時に承太郎さんとの別れの時でもあるのだ。
もうこのように皆で騒ぐ光景も見られなくなるのかと思うと少し寂しくもある。
だが不思議と悲しくはなかった。
何故なら承太郎さんは、約束を破らない男だと知っているから。
その時再びあの頭痛と目まいが起こる。
グラグラと揺れる脳に叫び声を上げたくなるが唇を噛みしめてグッと堪える。
ここで自分が不調を訴えれば仗助は救急車を私に譲ろうとするだろう。一見元気そうに見えるが彼の怪我はかなり重症だ。
あの腹に突き刺さった木片を取り除くのは十中八九、大手術となるだろう。早く彼を病院に行かせなければ。そんな思いが私の中にあった。
「な…!な、に……ここは……」
目の前にあった杜王町の風景が消えて広い海が映し出される。
どうやら私は船に乗っているらしかった。
肌に感じる潮風と、聞こえてくる波の音はとても幻覚という言葉では片付けられない程にリアルなものだ。
「_____名前」
声のした方へ振り返る。そこにいたのは____
「じょ、承太郎…さ、」
次の瞬間私は右手を何者かに引っ張られる。
その瞬間目の前にあった海は掻き消えて、辺りは住宅街へと変化した。
私の意識はまだボーッとしており視界も霞みがかっている。耳鳴りもしていて遠くの方から皆の叫ぶ声が聞こえてくるようだ。
「名前……。君は、君だけは永遠に私のものだ。私が死ぬ運命だというのなら、一層のこと君と」
その気味の悪い声に自分が今どういう状況であるのか一瞬で理解する。
何故か死んだはずの吉良は起き上がり私を後ろから羽交い絞めにしている。そして奴の言葉から察するに最後の力を振り絞り私を道連れにしようとしているのだ。
「キラー・クイーン!最後の爆発だ!派手にいこうじゃあないかっ」
____逃げられない
そう悟った私は私と承太郎さんたちの間に結界を出現させる。
私が何をするのか悟ったのか承太郎さんはその結界を『スター・プラチナ』で叩き壊そうとしている。
無駄ですよ、承太郎さん。知っているでしょう。
私の結界は本体を攻撃されない限り、並大抵のことでは壊れない____
以前ジョセフさんに言われたことがあったっけ。
承太郎さんの昔の仲間たち、彼らに私は似ていると。
彼らも大切な人を守るために自分を犠牲にして死んでいった、と。
(自分で言うのもアレだけど、似ているのかもな……。)
だけど今なら名も知らぬ彼らの気持ちが良く分かる。
死ぬと言うのに感じているのは恐怖ではない。
大切な人を守ることができるという安堵と、一抹の切なさ。
「名前……。やめろ、やめてくれ……」
「承太郎さん。私はあなたを______」
けたたましい爆発音と共に私の意識はプツリと途絶えた。
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「どうしたの?承太郎。」
「……………いや、なんでもねぇ。行ってくる。」
そう言って豪邸を後にする背の高い、黒い学ランと学帽を被った男。
(誰かに呼ばれた気がしたんだがな。)
まぁ今はそんなことを気にしている場合ではない。
この自分にとり憑いた悪霊を何とかすることを考えなくては_______
To Be Contined Stardust Crusaders