36.結末と兆し
______花京院、アヴドゥル、イギー 終わったよ
それは酷く悲しい、だけど酷く優しい夢だった。
「また会おう_______。」
涙を流した彼の言葉を私は一生忘れないだろう。
「承太郎さんっ!!」
今の夢は?
今より随分と若い、学生服を着た承太郎さんが、見たこともないような広大な砂漠の真ん中に立つ夢。
まるで自分がそこにいるような錯覚さえ覚えるほどのリアルな夢だった。
「ここは…、」
本当に私が今いるのは杜王町なのか。先ほどの夢の感覚が抜けきっていないのか変な気分だ。
また気を失ってしまったのか。どうにも最近意識が飛ぶことが多い気がする。
「っ…私、吉良と…」
どうしようもなかったとは言え吉良と口づけをしてしまった。ゴシゴシと唇を擦るが残った気持ちの悪い感覚は消えない。
泣きたくなる気持ちを必死に抑えて自分を奮い立たせる。
ここは無人の民家のようだ。家具やものはなにも置いていないがあまり埃などは溜まっておらず、割と綺麗な印象を受ける。恐らく今でも不動産屋か誰かが出入りをしているのだろう。
そして自分を拘束するものは柱に繋がる鉄製の太い鎖のみ。
「クリスタル・ミラージュ…結界を……。」
その瞬間自分と鎖を繋いでいた太い鎖はいとも容易く切り離される。
「……行かなきゃ。承太郎さんの所に。」
何かに誘われるようにしてフラフラと立ち上がる。
その瞬間ここは室内にも関わらず、辺りが一瞬広大な砂漠を映しだした。激しい頭痛と耳鳴りに襲われて私は溜まらずその場に倒れ込む。
「うあっ!!」
あまりにひどい耳鳴りに思わず両手で耳を塞ぐ。
いたい
いたいいたいいたいいたいいたいいたいたいいたいいたい
「あぁああああああああぁっ!!」
先ほどまでの夢がフラッシュバックする。
今よりずっと若い承太郎さんとジョセフさん。知らない三人の男に、犬が一匹。
砂漠のど真ん中で火を囲み楽しそうに話している。
次の瞬間には場面が変わる。
先ほどまでの楽しそうな雰囲気は一変して血なまぐさい光景へと変わる。
一人、また一人と先ほどまで笑い合っていた彼らが金髪の男によって次々に殺されていく。
怒りに染まった承太郎さんの表情、そして彼は金髪の男と対峙した。
再び場面が切り替わった光景、それは承太郎さんが無数のナイフに貫かれているものだった。
その場面が映されたと思ったら、まるでブラウン管のテレビがブツンと切れるように映像は消えてしまった。
真っ暗____
承太郎さん 承太郎さん 承太郎さん____!
「___!!イ…、だい…か……、名前っ!!」
「____っあ……、」
誰かに揺り起こされる感覚でぼんやりとだが、真っ暗だった目の前が明るくなっていく。
それは会いたくて会いたくて仕方がない人だった。
白い帽子に白いロングコート間違いなく私の大好きな___
「ぅ……、じょ、たろ…さん……。会いたかった……。」
「っすまねぇ…、名前……。遅くなった…っ」
力の入らない名前の身体を承太郎はゆっくりと抱き寄せてその唇に口づけた。
どのくらいそうしていただろう。
外からけたたましいサイレンの音が聞こえてくる。
「……終わったんだ。全てな。」
承太郎さんは一言そう言ったかと思うと私を抱き上げて玄関から外へとむかった。