33.暗転する世界
私は会ったことはないのだが吉良吉影の親父という人物が、別の『矢』を持っておりそれで今現在も新たなスタンド使いを増やし続けているらしい。それも吉良に味方するようなスタンド使いをだ。

露伴先生はスタンド使いになりかけていたジャンケンばかり挑んでくる不可解な少年に会ったというし、仗助と億泰君は奇妙な宇宙人(?)や鉄塔に住む男と出会ったと言っていた。
中でも仗助が一番ゾッとしたと言っていたのがどんなに逃げても決して追跡を止めない『ハイウェイ・スター』というスタンドだった。

私と言えば、現在承太郎さんの庇護の元にあるので、最近はそのような悪意のあるスタンド使いに出会う確率はガクッと減った。
そのため承太郎さんにも前程一人ででかけるなとは言われなくなったし、私自身あの吉良の事件から日が経ち危機感が薄れてきていた。


その日学校の帰り道、仗助と億泰君と別れた私は自分の家に寄っていた。
さすがに何日も無人のまま家を開けておくのは気が引けるし少し立ち寄ろうとしたのだ。やはり一週間も開けているとどうしても埃とかがたまってしまう。それに冷蔵庫の中身とかも腐ってしまうものがあるかもしれない。少なくとも両親はあと半月ほどは海外から帰って来ない。半月後両親がこの家に帰ってきた時に仰天しない程度には掃除しておかねばならない。


「ふぅ〜やっと終わったぁ」

掃除が終わったのはだいぶ時間が経ってからだった。外に出てみて驚いた。
「げっ!暗くなってきてる…」

時計を見れば夜の7時を回ったころだった。幾ら陽が長くなってきたとは言えこの時間になれば暗くはなるだろう。
承太郎さんに電話して迎えにきてもらおうかとも思ったが流石に申し訳ないと思い急いでホテルに向かうことにした。


ここからホテルまでは結構離れている。これ以上暗くなる前に帰らなければ。




杜王グランドホテルも近づき人通りの少ない道を歩いているところ。

______コツコツ

(……?)
後ろから聞こえてくる足音を疑問に思い振り返る。
だがそこには誰もいない。
なんだか気持ち悪くて自然と早足になる。


_______コツコツコツ

それに合わせて後ろからついて来る足音も早くなる。

「だ…だれっ!?」
振り返るがやはりそこには誰もいない。そのことに恐怖を感じて自分を守るように無意識のうちに胸の前で手を握り込む。

(…っ!スタンド使い…!?)
暗闇から聞こえてくる謎の足音に恐ろしくなり、ホテルに向かって駆けだす。


________コツコツコツコツコツ

それに合わせて後ろの足音も一緒に走り出す。
(あと少し…っあと…!)
ホテルの光が見えてきた。入り口まで行けばタクシーもいるしホテルの従業員もいる。

「…ひっ!!」
だがそこに辿り着く前に一人の男が突然暗闇の中から現れた。


「苗字名前。写真の親父が言っていた空条承太郎の唯一の弱点……。僕と一緒に来てもらうぞ。」

突然何もない空間から現れた男に驚き名前は、自分の能力を使うという選択肢を見失ってしまっていた。
震える足で立っているのがやっとだった。

「ハァ…ハァ…、や、やだ…っ!承太郎さんっ!」
自分の身を守るように胸の前で手を握る。

「ハハッ!見せたな!お前の恐怖のサインは、『胸の前で手を握る』だっ!」



「承太郎さん………っ!!」

次の瞬間には私の意識は暗転した。





「…?じじい。今名前の声が聞こえなかったか?」

「ン〜?いやぁ、わしには聞こえんかったがのぉ。」


(……気のせいか)

その日、彼女が帰ってくることはなかった。