24.空条承太郎の気持ち
(承太郎独白)   


我ながらあり得ないことだと自覚している。

俺は一体どうしてしまったと言うのだ。
杜王グランドホテルのプライベートビーチで新聞を広げながら、承太郎は昨日の己の行動について考えていた。



____彼女と出会って早数か月

始めはスタンドのことを何も知らない彼女が、万が一にも己を制御できなくてスタンドを暴走させてしまったらという恐れを考えて軽く話をするだけのつもりだった。
そして出会って間もない頃に片桐安十郎に襲われていた彼女を助けた。思えば全てはそこから始まっていたのだ。


偶然か必然か、決して狭くはないこの町で自分と彼女が関わる機会は多かったように感じる。
出会うたび友人を守ろうと傷つく彼女を見て、自分の中で懐かしい、そして忘れたはずの気持ちが湧き上がるのを感じた。
気がつくと彼女のことを目で追うようになっていた。もしかしたら自ら危険に突っ込んで怪我をしているのではないか、辛い目にあって泣いているのではないか。そんなふうに彼女のことを考える時間が増えた。
姿が見えなければ気になってしまい、街中でバッタリと出会えば変わらない笑顔に安心するのを感じた。



____いつの間にか空条承太郎にとって苗字名前という女は放っておけない存在になっていたのだ。


十以上も年の離れた小娘相手に何を考えているのかと思った。だが彼女に積極的にアプローチする仗助を見て何かどす黒いものが自分の中で生まれるのを感じた。そして気がついたのだ。自分が十以上年の離れた叔父に対して嫉妬していることに。

無条件で彼女と過ごす時間が作れる彼の立場が羨ましかった。素直に自分があと十年若ければ、17歳のあの頃に戻れたらという気持ちになった。


あの時、あの交差点で仗助が彼女の手を引いてその場を後にしようとしたとき。ここで二人を行かせたら二度と自分にチャンスはなくなる。そんな気がした。
気がつけばしなくてもいい挑発をして仗助を怒らせて、上手く煙に巻き彼女をその手から奪い取ったのだ。

そして彼女からの告白を聞いた時、自分には「ああ、やはりな」という確信めいたものがあった。自分の宙ぶらりんの気持ちがようやく着地したことに気がついた。



___自分も彼女を好きだったのだと

そこまでは百歩譲って構わないとしよう。自分がロリコンだと罵られても仕方がない。
だが問題はここからだ。


名前が唐突に服を脱ぎ始めたときはさすがに狼藉した。自分が思っていた以上に彼女も切羽詰まっていたらしい。
ここで優しくたしなめるのが年上である自分の役目なのだが、そういう経験がないですって感じの純情ぶった顔をしておきながら彼女はなかなかに積極的だった。
はっきり言って前妻と離婚してから仕事詰めでご無沙汰だった俺は、その意地らしく可愛らしい誘惑に完全に負けてしまった。


繋がることこそ叶わなかったが、時間はいくらでもある。そこは自分がゆっくりと慣らしていけばいいのだ。自分の欲望は彼女の中にすぐにでも押し入りたいと痛いくらいに張りつめていたが、彼女が痛みに泣くのを見るのに比べたらそんなものはどうってことはなかった。


惚れた女には笑っていてもらいたい。それが男ってもんだろう。
自分でも思っていた以上に彼女に惚れこんでしまっていたらしい。



だがそれと同時に懸念事項もあった。それは自分はスピードワゴン財団に属しておりいずれはアメリカに戻らなければならないということだ。学生である彼女をアメリカに連れて行くのはさすがにどうかと思う。

自分はあと二年くらい気長に待つつもりだが彼女はそうもいかないだろう。離れている間にもっと価値観の合う、年の近い男に出会うかもしれない。
それこそ今彼女に猛烈アピールをしている仗助に掻っ攫われてしまうかもしれない。それを考えると正直気が気でない。





(やはり今のうちに既成事実を作っちまうか…)

頭では駄目だと理解していながらも、心のどこかでは彼女が自分から離れないように攫ってしまいたいという気持ちが確かにあったのだった。