26.悲痛な叫び
_____血、


おびただしい程の血。この血の中心に倒れているのは_______


『イマノバクハツハ ニンゲンジャネェ コッチヲミロ』


「い……、や…………!じょ、たろう…さ…?」


フラフラと承太郎に近づく名前。承太郎の元へと駆け寄ってった康一君は何事かを叫びながら彼の身体を揺すっているが反応がない。


おびただしい、彼の血液を目の当たりにして名前は完全に正気を失う。


「いやぁああああああああぁあああ!!!!承太郎さん!!承太郎さんっ!!」


「名前さんっ!!足元!!奴が…!!」

___ドン

重苦しい音が響いたかと思うと途端に立つことが困難になる。グラリと揺れたその身体は床にたたきつけられる。
次に感じたのは激痛だった。恐る恐る足元を見るとふくらはぎの肉がごっそりと消失していた。


「あぁあああああああっ!!!」

涙が出るほど痛い。だが今は自分の痛みなど気にしている余裕などない。


「じょう、たろうさんっ!!」


承太郎さんは目を閉じたまま開かない。全身から流れる血液の量に比例して彼の身体は徐々に冷たくなってくる。



「ああぁああ…。康一君、承太郎さんが…、承太郎さんが……っ」


どうしよう どうしようと泣き叫ぶ私を康一君はパンッと平手で打つ。
頬に感じるジンジンとした痛みに私の頭は一瞬真っ白になった。




「名前さん。落ち着いて。僕たちが冷静にならなきゃ承太郎さんを救えない。奴を撃退できない。
せっかく承太郎さんがあのスタンドの弱点を暴いてくれたんだから。」

「じゃ、くてん…?」

「君の『クリスタル・ミラージュ』は物理的攻撃だけでなく五感全ての感覚を遮断できるんだったよね?
奴に体温を感知させないよう、承太郎さんと君の周りに結界を張るんだ。」


康一君に叩かれたことによって妙に冷静になった頭で考える。
爆弾が店主を攻撃した時、店主は温かい飲み物の入ったマグカップを持っていた。そして私と承太郎さんを無視して康一君の元へ向かっていった時、あの時康一君は焦りからか酷く興奮していた。
そして今。『スタープラチナ・ザ・ワールド』で時を止めた承太郎さんは火をつけた。そして爆弾はその炎へ向かって爆発した。



「…わかった。私が承太郎さんを守る。」


頭は冷静だった



痛みも感じなかった


_____承太郎さんは、私が守る


「康一君、ありがとう。」

それを聞いた康一君は店内の奥へと入っていった。
たぶん私たちより温度の高いものを探しにいったのだ。爆弾が私たちの体温を感じられないように、承太郎さんと自分の周りに結界を張る。すると爆弾は康一君を追いかけて奥へと向かっていった。



暫くすると康一君はゆっくりとした様子で戻ってきた。

「康一君…っ!大丈夫!?」

「うん。大丈夫だよ。奴は今、僕のスタンドと追いかけっこしているから。」

「え…?」

康一君が指さす方向に見えたのは『エコーズ』の尻尾に書き込まれた『ドジュウ〜』という文字とそれを追いかける爆弾。
『エコーズ』の能力を見るのは始めてだった私は首をかしげる。


「『エコーズ』は音のスタンド。今このしっぽ文字は熱々の焼石みたいになっているのさ。コイツはもう僕たちに向かってこないよ。」

「す、すごい…。」

私がもたもたしているうちに後からスタンド使いになった康一君はこれ程までに成長していたんだ。

「名前さん、急いで仗助君に電話してくれる…?」

「う、うん…。」

感覚のない足を引きずりながらすぐ横にある電話を手に取る。何度も仗助の家には電話しているので番号は覚えているはずだ。




『はぁ〜い。東方っす〜。』
気のない仗助の応答にホッとする。それと同時に彼の声を聞いた安心感からか涙が溢れてくる。


「仗助…!た、たすけて…っ!承太郎さんが…、承太郎さんが…!!」


『名前か…?泣いてんのか…!?何があった…!?今どこだ!?』


「靴のムカデ屋、仗助っ!はやく…」

康一君に引っ張られたことにより言葉の続きは紡ぐことができなかった。


「マズイ!名前さん、エコーズのしっぽ文字が潰された!外に逃げるんだ!」


「康一君!背中から血が…!?」

「大丈夫っ!それより名前さんは承太郎さんを…!」

二人で承太郎さんを引きずりながらなんとか外に出る。
だが外に出た所で今度は康一君が悲鳴を上げた。


「え、エコーズが!エコーズが!!」

何事かと思いエコーズを見るとそれは化石になったかのように丸まって地面に転がっていた。


「えっ!?し…死んでいる…!?」
「いや!以前も同じようなことがあった。それは、」



眩い光に目を開けていられない。
漸く光が収まってきたところにいたのは明らかに以前の『エコーズ』ではなかった。



『命令シテクダサイ』


「進化した…!?」

「前のときもそうだったんだ。『ACT3!僕らの身を守れ!』」


『SHIT 了解シマシタ』


エコーズがスタンドに手をかざした瞬間、その周りの地面がボコンとへこむ。爆弾はそこから一歩も動けないようだ。



「重くなっている…!?」
「な、なんだ…?地面にめりこんだ、ぞ!?」




『靴のムカデ屋、仗助っ!はやく…』

そう言ってツーツーと切れた電話はこちらから何度かけなおしても通じることはなかった。


(名前の奴、泣いていた。一体何があったんだ…!?急がねぇと取り返しのつかないことになる気がする…!)
仗助は億泰と共に靴のムカデ屋に向かっていた。



「おい〜!仗助!靴のムカデ屋で何が起こっているんだよぉ!」

「わっかんねぇ…!でも名前の奴、尋常じゃないくらい取り乱していた…!きっと何かがあったんだ!急ぐぞっ!!」