21.動き出した運命
仗助に言われた通り中等部に来てみた。が…
「どこに行けばいいか聞き忘れた…」
中高一貫のぶどうヶ岡学校はとにかく広い。一体どこに行けばいいのか連絡手段もなく途方に暮れていると偶然にも後ろから聞きなれた声が聞こえてくる。
「あ。仗助!億泰君!」
「よぉ、待たせたな名前。行こうぜ。」
そういう彼らについて行き辿り着いたのは
「体育準備室…?」
「ほら、手ぇかしてやるから掴まれよ。」
「あ、ありがとう。」
仗助に引っ張ってもらって窓から体育準備室に侵入する。続いて億泰君も入ってきた。だがそこには先客がいたようだ。
「仗助さんに億泰さんじゃないかど!そっちの女の人は…?オラ知らねぇ人だど…。」
「あ。高等部1年の苗字名前です。」
「高等部ってことは仗助さんと億泰さんの友達ってことだねぇ…。オイラ矢安宮重清、『重ちー』って呼んでくろ。」
重ちーさんは仗助と億泰君に言われた通りに飲み物を準備しに行った。
「ね、ねぇ…大丈夫かなぁ?こんなところで勝手にご飯食べたりして…。」
「だいじょーぶだよ!名前、おめぇ俺たちみたいなのとつるんでおきながら真面目なぁ。康一が二人いるみたいだぜぇ。」
「確かにっ!」
億泰君の言葉に仗助も同意して二人そろって笑い始めてしまった。
「ねぇ!名前さんはコーヒーでいいのか?」
「あ!ごめんね!私も手伝うよ!」
そう言って立ち上がろうとした私の手を仗助は引いて自分の隣に座らせる。
「いいから。お前はここにいろって、な?」
「あ…う、うん……。」
そう言った仗助は私の手を握ったまま離してくれない。重なった仗助の手に恥ずかしくなり真っ赤になる。
「あ〜!あ〜!この部屋なんかあっつくなぁ〜い!?」
大げさに叫び始めた億泰君は服の衿元をパタパタと仰いでいる。
咄嗟に仗助の手を振り払い重ちーが飲み物を入れるのを手伝いにいく。
「おーおー。振られちまったなぁ。仗助よぉ。」
「…うっせ」
仗助は重ちーと一緒にパタパタと動きまわる名前をジッと見つめていた。
(熱っぽい視線で見やがってよぉ〜。見ているこっちが恥ずかしくなるぜ。)
始めこそ彼女への気持ちを認めるまでは思春期らしい反応をしていた仗助であるが、その気持ちを自覚してからの彼の切り替えの早さは高校生らしからぬものだった。
仗助の連日行われる情熱的なアプローチに名前の方もタジタジのようだ。その積極的すぎるアタックはやはりかれが異国の血が入っているということを感じさせるものだった。
(男の俺から見ても、仗助は良い男だ)
だが彼女が好きなのはどうやら彼の実の甥・空条承太郎だという話だ。甥といっても承太郎さんは成人している立派な大人。
仗助同じく俺から見ても、かっこよくて強くて頼れる承太郎さんに名前が恋するのも分からなくはない。やはり人生経験が長い分仗助よりも余裕があるし、いろいろなことを知っている。
だが億泰としては友人である仗助と彼女がくっついてくれるのが一番良いと思っていた。
(名前も馬鹿だよなぁ〜)
こんなに良い男が好きで好きでたまらないって言ってんのによぉ〜。アイツはまるっきり別の方を向いているんだ。
(こればっかりは仕方がねぇのかもしれないけどよ。)
男女の気持ちなど合理的に考えられるものではない。なるようにしかならないのだと億泰は自分に言い聞かせて弁当の蓋を開けたのだった。
◇◇◇
「こらぁ〜!!誰だそこにいるのは!!」
「や、やべえ!ズラかるぜ!!」
突然の怒鳴り声に私たちは慌てて体育準備室から脱出する。
食べ損ねたお昼をとるべく私と仗助と億泰君の三人は教室でお弁当を広げていた。
「ん〜!やっぱサンジェルマンのサンドイッチはおいし〜!」
「だよなぁ。なぁ、俺にも一口くれよ。」
「いや!」
「んだよ、俺が買ってきたのによぉ…。」
がっくりとうなだれる仗助。それにしても今日は廊下が騒がしい気がする。
____その時
『_____仗助……っ!!』
かすかに聞こえてきたせっぱつまった声に私たち三人は顔を見合わせる。
「今なにか聞こえなかった?」
「ああ、『仗助』って聞こえたぜぇ…」
「んな!?あ、あれは……」
血だらけで私たちの教室に入ってきた小さい生物。
一つのボタンを持ったその生物は『ミツ…ケタゾ』と最後の力を振り絞った台詞と共に跡形もなく消えてしまった。
「な…っ!なにぃっ!重ちーの『ハーヴェスト』!!」
「異常だぜ!仗助!普通の消え方じゃあねぇ!」
私は足元に転がってきた一つのボタンを拾い上げる。
「ねぇ、これ…。さっきのスタンドが持っていたボタンだよ…。」
「一体、どうなってやがんだ…。重ちーは…」
あんな風にスタンドが消えたのだ。本体である重ちーに何かあったのは確実だ。
嫌な予感が次から次へと思い浮かび私たちは冷や汗を浮かべる。
「……探すんだ。重ちーを。」
◇◇◇
結果をいうと重ちーは見つからなかった。
そして私たち現在杜王町に住むスタンド使いは鈴美さんの元へ彼女の話を聞くために一度集まることになった。
中には私があったことのない人たちもいて、現在わかっているだけでもこれだけの数のスタンド使いがいるのだと正直驚いた。
「間違いない…。この子は死んでいるわ…。」
鈴美さんは重ちーの写真を見ながら悲痛な表情を浮かべる。その言葉に分かっていたとは言えショックを拭いきれない。
私より付き合いが長そうだった仗助と億泰君のショックはそれ以上だろう。
「…俺と名前と億泰は重ちーがいなくなるほんの五分前まで一緒にいたんだ。それがこの『ボタン』だけ残して跡形もなく消えちまった。」
「その犯人は重ちーを5分の間に殺してその身体をどこかに隠しったってことでしょ…?」
「人間業じゃあねえよ…。」
「つ、つまり…犯人はスタンド使いってこと…!?」
康一君の言葉に承太郎さんとジョセフさんは顔を見合わせる。
「どうやら相手がスタンド使いだと分かった今ワシらも動かねばならんようじゃの…。」
「………。」
その後は重ちーの遺言である犯人のものであろうボタンを承太郎さんに渡して私たちは解散となった。
億泰君は重ちーを殺されたことにかなりのショックを受けたようで、背中を震わせながら先にお父さんと一緒に帰っていった。
なにやら難しい顔をして考え込んでいる承太郎さん。思わず声をかけようとするがそれを仗助に阻まれる。
「帰ろうぜ。名前。」
「じょ、仗助…、でも…。」
仗助に腕を掴まれてしまい承太郎さんとの距離はどんどん離れていく。
(承太郎さん……。)
じっと彼の方を見つめていると承太郎さんの方も私を見ていることがわかる。「もっと一緒にいたい」その気持ちを込めて彼に視線を送れば、彼はフゥとため息をついていつもの様に帽子の鍔をグイッと下ろした。
「名前。」
呼ばれた声にさすがに仗助も無視する訳にはいかなかったようで立ち止まる。
「承太郎さん…。」
「オイ仗助。こいつに話がある。てめぇは外してくれ。」
「なんで俺がはずさなきゃあいけないんすか。こいつを連れて行くなら俺もついていくぜ。」
仗助の言葉に承太郎さんはため息をついたかと思うと言葉を放つ。
「仗助。てめぇはコイツの何なんだ?彼氏か?そうじゃねぇならてめえが名前の行動を制限する理由はねぇはずだ。
少なくとも今、こいつは俺に話したいことがあるみたいだぜ。」
承太郎の挑発ともとれる言い方に周りの空気が固まる。
「んだとぉ……!!」
拳を振りかぶろうとする仗助の手を必死に抑える。
「仗助っ!やめてよ!!」
「っ…!名前……。」
「承太郎さんに話したいことがあるの。先に帰ってて、ね?」
「っわかったよ……。」
そのただならぬ雰囲気にヒヤヒヤしながら事の次第を見ていた康一。
一触即発といったところだったが何事も起こらなくてよかったと思った。
それにしても承太郎さんがあんな風に仗助君を挑発するなんて。
しまいには仗助君と一緒に帰ろうとしていた名前さんを彼の手からまんまと奪ってしまったのだ。
(……まさかね。)
全てが繋がる一つの浮かんだ答えを康一はなかったことにして由香子と一緒に帰路へついたのであった。