18.男の名は
「本当に幽霊に会ったんだよ!」
「わかった!わかったよ康一…。」
「仗助、私も露伴先生も会っているんだよ!そしてその子の言っていた事件は15年前に実際にあった出来事だった。」
後で調べたが15年前確かに杉本鈴美という少女とその家族が惨殺されたという新聞は確かに存在した。写真も載っており私たちが出会った鈴美さんだということは確実だ。
「名前まで…!つーかよ。なんでおめぇが露伴の野郎と一緒にいたんだ?そこんところ詳しく教えてもらわないとなぁ。」
億泰君は億泰君で鈴美さんの写真を見てボーッとしているし、話が全く前に進まない。
「わたしっ!」
急に大声を上げた私に三人共こちらを見る。
「私…、このこと承太郎さんに話してみようと思う。
15年間なんの痕跡も残さず殺人を繰り返しているってのは、普通の人間には難しいんじゃないかな…?」
その言葉に仗助はムッと眉を顰める。
「…それはわからねぇぜ。ただ手慣れているだけで普通の人間かもしれない。
承太郎さんやスピードワゴン財団はスタンド使いでもない普通の殺人犯は追わねぇってこと知っているだろ。
今焦っても仕方ねぇだろ。タクシー捕まえるみたいにバッタリ会える訳じゃねぇんだからよぉ。」
「でも…!」
チラッと横の康一君を見るが彼も下を向いて口を噤んでしまった。仗助の言う通りだ。私たちが何かしたいと思っても実際問題手がかりもない状態では難しい。
「名前。承太郎さんは確かに頼りになる男だぜ。だがなぁ、所詮この町の人間じゃあねぇんだよ。」
突き放すような言い方の仗助にカッと頭に血が上る。
「なんでそんな言い方するの!?仗助の馬鹿っ!」
「あっ!名前!!」
後ろから何かを叫ぶ仗助の声が聞こえたが私はそれを無視してその場から走り去った。
「……仗助君、今の言い方は良くないよ。名前さん、きっと傷ついたと思う。」
「こ、康一……、」
「仗助ぇ、相手があの承太郎さんじゃあよぉ、焦る気持ちも分かるけどよ。男の嫉妬は見苦しいぜぇ〜」
「お、億泰……!」
友人二人の批判を受けて仗助はさらにガクッとうなだれた。
(あんなこと言う気はなかったのによぉ…)
◇◇◇
(アホっ!仗助のアホッ!)
承太郎さんがこの町の人間じゃあないのは私だってよく知っている。
だが、それでも承太郎さんはこの町のために一生懸命になってくれている。それなのにあんな言い方は酷いのではないか。
横断歩道を渡ろうとした私はようやくその信号が赤だということに気がつく。気がついた時にはすでに遅く車は私のすぐ横まで迫ってきていた。
(スタンド…っ間に合わないっ!)
目を瞑って痛みを覚悟するがいつまでもそれはやってこない。それどころか「大丈夫かね!?君!」なんて声も聞こえてくる。ゆっくり目を開けるとそこには一人の男が。
「君、大丈夫かね?!どこか怪我はしていないか!?」
目の前にいたのは金髪のスーツを着た男。恐らく私とぶつかりそうになった車の運転手だろう。
私は驚きのあまり震える右手を左手で抑えるようにして胸の前で押さえつけていた。
それを男性は怪我をしていると勘違いしたのだろう。「怪我をしたのか!?」と焦ったように言い私の右手をとった。
「……………………。」
「…あの?」
ジィッと右手を見つめる男に声をかけると男は「怪我はないようだな。」と言ってスッと手を離した。
「あ、あの。すみませんでした。ボーっとしていて……。私は大丈夫なので。」
「いや、後から鞭打ちとかになったりするケースも少なくない。私の名刺を渡しておこう。何かあったらそこに連絡してくれ。」
男性の流れるような対応にあっという間に名刺を渡されてしまう。
「君の家はどこかな。送っていこう。」
「い、いえ!すぐそこなので、おかまいなく!」
明らかに信号無視していたこちらが悪いので流石にそこまでしてもらうのは気が引ける。
「そうか…。念のため君の名前を聞かせてくれないかな?」
「えっと、苗字名前です。」
「そうか、名前さん。君の可愛らしい手に怪我がなくてよかったよ。何かあったら遠慮なく電話してくれ。」
そう言って男性は車に乗って去っていった。たぶん仕事帰りだったのだろう。なんだか悪いことをしてしまった。手渡された名刺をチラリと見る。
(吉良吉影……。)
スマートでとても紳士的な人だったが、どこか印象深い男性だった。
◇◇
「……おい、買ってやったオブレイの腕時計はどうした?ああ、サイズが合わないんだったな。」
男、吉良吉影は一人で話していた。
いや、正確には『手』に向かって話しかけていた。元は女性のものであったのだろう手は腕から先がなく、その切断面からは血が滴っていた。
「……苗字名前。」
男、吉良吉影はボソリと呟いたかと思うとその口元をニヤリと歪めた。