16.読めない人
(何故だ。何故こうなった。)

つい最近まではごく普通の平凡な通行人Aのような存在だった私。それがスタンド能力という訳のわからない力を得てから、あれよあれよという間に非日常に巻き込まれ、しまいには別世界に住む人間に恋してしまった。
それが今度は同世代の女の子からモテにモテ、どう見たって不良にしか見えないこれまた別世界に住んでいたと勝手に思っていた彼に告白されてしまった。



『名前、今まで避けてて悪かったよ。でもさっき言ったことはなぁ、正真正銘マジだからな。』



あの後言われた言葉と彼の真剣な眼差しに思い出すだけでドキドキしてしまう。
仗助のことは好きだ。だがそれは友達としてであり、自分が承太郎に向ける感情とは異なることも知っていた。
もしかしたらもう今までのように仗助と話せなくなるかもしれない。
そう思うととても怖かったが、そのことは彼に正直に伝えた。
だが仗助が言った言葉は私の予想を大きくはずれていた。


『おめえがよぉ、承太郎さんのこと好きなのはなんとなく分かってる…。
けどなぁ、ぜってぇ俺の方振り向かせてやっからよぉ!覚悟しとけよなっ』


そう言って仗助は晴れやかな表情で帰っていった。
その後からずっと悶々としている。
私は今確かに承太郎さんのことが好きだ。だがほとんど脈がないのは自分でも悲しいくらい良く分かっている。
その点仗助は同い年だし同じ学校に通っているからいくらでも時間の融通がきく。いつでも会える。
何よりも、何かと自分を気にかけてくれそしていつも助けてくれる仗助に、彼の宣言通りあっさりと自分が落ちてしまいそうで怖かった。


◇◇◇

気持ちを切り替えようと『カフェ・ドゥ・マゴ』でコーヒーを注文する。
近所にある比較的落ち着いた雰囲気のこの喫茶店は、今日のような休日によく一人で利用していた。日曜ということもありその日は調度込み合う日だったらしい。
混雑した店内でその中で店員さんたちも忙しなく動いている。

「あの、申し訳ありませんが相席をお願いできないでしょうか?」

店員さんが申し訳なさそうな顔をして尋ねてくるので、私も特に気にせずに了承の旨を伝える。
だがそこに現れた人物に私は含んでいたコーヒーを吹き出しそうになる。


「ゴホッ!!ゴホゴホッ!!な、なんでここに…!?」

「人の顔を見るなり噴き出すなんて失礼な奴だな。それにここは僕の行きつけなんだ。君にとやかと言われる筋合いはない。」

不遜な態度で切り返してくるのはなんと仗助にボロボロになるまで殴られていたあの岸辺露伴だった。

「いや、そうじゃなくて…!怪我は…!?」

そう確かに彼は仗助によって全治一か月のけがを負わされ入院を余儀なくされたはずだったのだ。
それがまだ一週間程しかたっていないというのにこの男はピンピンしているではないか。

「僕を誰だと思っているんだ。岸辺露伴だぞ。」

(いや答えになっていません…。)

露伴は特に遠慮する訳でもなく私の前の席にドンと腰かける。
紅茶を注文する彼はなかなかに様になっており心なしか周りの女性たちも彼の方をチラチラと見ている気がする。
彼を見て頬を赤らめている女性だって彼の本来の性格を知れば慌てて逃げていくに違いない。私も先ほどまでのゆったりとした気分はすっかり抜け、今はさっさと帰りたい気持ちでいっぱいだった。

「ところで君にずっと聞きたかったことがあるんだが。」

「なんですか?」

「その後空条承太郎とクソッたれ仗助との三角関係はどうなったんだ?」

「ゴフッ!」

再びコーヒーを噴き出しそうになる。

「是非君たちの関係を漫画にしたいんだが。間違いなく面白い漫画が出来るぞ…!」

「断ります!」

面白い漫画を描くためなら蜘蛛だって食べるような人だ。
そのために私たちをあのような目に合わせても、不遜な態度を崩さない目の前の男に今更何を言っても無駄だろう。


「協力してやろうか?」

「え…?」

「空条承太郎を落とすのに協力してやるって言っているんだよ。」

「…は?何を言って……」

「『空条承太郎。28歳。スピードワゴン財団に所属する海洋冒険家。財団の調査のため杜王町に滞在している。アメリカ在住。離婚歴あり、子供はいない。』…君を読んだ時に得た情報だがな。
いくら目をかけてもらっているとは言え、君のような色気もクソもない恋愛経験皆無のガキが落とすには難しい男じゃあないか?」

「ググ…ッ」

露伴の言うことはもっともだ。私のような10数年そこそこしか生きていない小娘が、人生経験豊富でバツイチとはいえ奥さんもいた承太郎さんを落とせるとは夢にも思っていない。

「余計なお世話ですよ…!」

「まぁそんなに意固地になるな。だから僕が協力してやるって言ってるんだよ。」

「……見返りは?」

「君たちを題材に漫画を描かせてもらいたい。」

露伴は当たり前だとでも言うように言い放つ。足を組みながら紅茶を飲む目の前の男はやはり様になっている。

「さしずめ僕は君たちの恋のキューピッドというやつか。
それに君と空条承太郎がくっつけばあのクソッタレ仗助の悔しがる顔が見られるんだぜ!こんな面白い話があるか!!」


半ば無理やりに、そして露伴の都合のいいように私の恋を応援されることになったのだった。