11.間田敏和、登場
「ええ!?康一君もスタンド使いに!?」

「うん…。どうやらそうみたい…。」

そう言って見せてくれた彼のスタンドは緑色でカメレオンのようだ。

「うわっ!何か可愛い!スタンドって色々な形があるんだね!」

「へへっ。そう言われると照れるなぁ。」

その横でしきりに康一君に向かい「康一殿」とか「今日も良い男っぷりで」とかよいしょしている男の存在が気になって仕方がない。

「仗助…。なんなのアレ?」

「知らねぇよ。俺に聞くなよ。」

康一に説明を求めようとするが彼は歯切れ悪く笑っただけで答えてくれなかった。
どうやら男、小林玉美は私たちに用事があったようで校門に待ち伏せしていたらしい。

「驚けよ。この野郎だぜ。どうやら俺と同じように虹村形兆の『弓』と『矢』でスタンド使いになったらしい。名前は間田敏和。ぶどうヶ岡高校3年C組の生徒だぜぇ。」

仗助は玉美から写真を受け取る。まさか同じ学校にスタンド使いかもしれない人間がまだいたなんて。この町のスタンド使いは増え続ける一方だ。その一方でそれ以上の人間が死んでいるのだ。

「ソイツ、まだ学校に残っていると思うぜ。俺ずっとここにいたけどよ、まだ出てくるのみてねぇから。」


◇◇◇

玉美のその言葉で帰路につこうと思っていた私たちは再び学校へ戻ることになった。
玉美の話によると間田はちょっと口論になった友人の目を何らかのスタンドで操って自分で目を潰させたらしい。
最もそれが本当にスタンドの仕業なのかは分からないのだが。


まず私たち三人は彼のクラスである3年C組を訪れたがそこには写真と一致する男はいなかった。
次にまだ学校に残っているのか確認するために間田のロッカーを調べることにする。だがロッカーには鍵がかかっていたはず。一体どうするつもりなのか仗助を見ていると何のことはない。『クレイジー・ダイヤモンド』で扉ごと破壊してしまった。
いくら直せるとはいえあまりにも大胆な行動をとる仗助に見ているこちらがヒヤヒヤしてしまう。ポイポイと間田のロッカーから次々に物を取り出していく仗助。
私はと言えばその散らばったものを調べ終わったらすぐにロッカーに突っ込めるように集めていた。

完全に悪いことをしている自覚があるので、例え入り口で康一君が見張ってくれているとはいえ挙動不審になってしまう。

「うわっ!なんだこれ…。人形…?」

「何か気味が悪い…。」

ロッカーの奥の方に隠すようにして入っていたのは画材屋などでよく売っているクロッキー人形をかなり大きくしたものだった。小さいサイズのものならよく見かけるが、これ程大きいものになると流石に不気味だ。

何気なくの行動だったのだろう。仗助がその人形に触れる。
その瞬間その人形はただの木から徐々に人の形に変化していった。

「こ、これは…!」

「仗助……!?」

「…これで決まりだな。間田の野郎はスタンド使いだ!」

ただの木の人形だったそれはあっという間に仗助の形へと変化した。どこからどう見ても仗助にしか見えない人形はこれまた仗助と全く同じ声色で話しだす。

「パーマンよぉ、知ってるかぁ?」

「……パーマン?なんだそりゃあ。」

「マジかよ!パーマン知らねぇとかお前本当に日本人かぁ!?」

額にネジのようなものが付いているが、少し間延びした話し方やちょっとした仕草なんかも仗助そのままでゾッとする。
一体どんな能力を持っているのか。これでスタンドまでコピーしているとしたらかなり厄介なことになる。考えていると隣にいる仗助の様子がおかしいことに気が付く。


「どうしたの?仗助。」

「……っ、動かねぇ…っ!」

「え?」

見れば仗助は全身に力を込めているようだがその場から一歩も動くことができていない。人形が手を上げると仗助も同じ様に手を上げる。

(まさか、)

「俺のスタンドは『サーフィス』!コピーされた相手は鏡のように俺と同じ動きをしてしまうのさ!」

コピーした相手の動きを同じように動かす能力。それならば間田の友人の話の件も説明がつく。
だがそのようなすごい能力を無条件で、さらに遠距離から使えるとは思えない。スタンドには長所がある故欠点がある。絶対に間田は近くにいるはずだ。

仗助は『クレイジー・ダイヤモンド』で自分に化けたスタンドを殴りつけようとするが、彼の射程距離はせいぜい1〜2メートル。5メートルは離れているそこまでは届かなかった。

「くそっ…!」

突然サーフィスは左手を上げる。必然的に仗助も左手を上げることになる。
そして思い切りその手を自分の左側にあるロッカーへと叩きつけた。仗助の左後ろにあるもの。それは、

「康一君っ!!」

仗助の鋭い拳は彼の調度左後ろにいた康一へと向かう。スタンドでの攻撃ではないとは言え、仗助から繰り出される本気の拳を受ければただではすまないだろう。
私は仗助と康一君の間に結界を出現させる。
仗助は私の結界を殴ったことによって少し顔を顰めたが、いくら仗助のスタンドで治療できるとは言え友人を殴るよりは絶対に良いだろう。

「ちっ!!苗字名前の『クリスタル・ミラージュ』か。厄介なスタンド使いつれてきやがって。」

だが目の前のサーフィスに気を取られていたせいで、後ろから近づいてくる気配に気が付くことができなかった。
ガツンッと何か硬いもので殴りつけられたような音が辺りに響く。


何事かと思い振り返るとそこには仰向けに倒れ伏している康一君と、

「間田敏和…!」

やはり奴は始めからこの部屋に隠れていたのだろう。間田が手にしていたのは分厚い辞書だった。どうやら康一君はアレで後ろから殴りつけられたようだ。

「康一っ!オイ!間田…ってめぇ!」

「康一君!!」

動けない仗助の変わりに康一君の様子を確認しようと彼の傍に寄ろうとする。が、ガシリとその動きを後ろから何者かに止められてしまう。

「っ仗助…!」

私の腕を力の限り掴んでいたのは横にいた本物の仗助だった。その手はサーフィスと同じ動きをしている。

「くっそ…!動かねぇ……!名前!俺から離れろ!!」

仗助の手を掴み彼の手から逃れようとするがその手は拘束が強く逃げられないばかりか、かなり力が込められており痛みがある。

(お、折れる…!!)

苦悶の表情を浮かべると仗助がグッと己の下唇を噛みしめる。

「クッソォ!!なんではずれねぇんだよ!」

焦る仗助を無視してサーフィスはその手を前に放る。すると私の身体は仗助の手から離れてサーフィスの方まで放り投げられてしまう。

「うあっ!!」

「っと〜。ナイスキャッチィ。」

偽仗助に受け止められてそのまま後ろ手に両手を拘束されてしまう。

「名前っ!!てめぇ…!離せよ…。ソイツに手ぇ出してみろ。ただじゃあおかねぇからな…。」

「お前さ…もうちょっと自分の状況考えて物言えよな。」

間田が話しながら仗助の正面に回ったと思うと、サーフィスが何かを床から拾う動作をする。同じように動いた仗助が手にしたものは。

「ボールペン…!?」

静かな空間にカチッという音が響いたかと思うとそれを彼の瞳の前に持ってくる。

『自分で目をつぶした』

その瞬間玉美から聞いた例の噂を思い出す。

(きっとその友達も同じように操られたんだ!)

仗助は抵抗しているようだがやはり全く身体の自由は利かないようで、徐々にボールペンの芯は仗助の瞳へと近づいてきている。


「や、やめて……!」

緊張で喉からは掠れたような声しか出てこない。仗助がいよいよボールペンを目に突き刺そうとして振りかぶったその瞬間、私は彼の瞳の前に結界を出現させる。
だが同時に何とも気味の悪い『グシャアァ』という音が辺りに響く。まるで目が潰れてしまったような。
そのままバタリと床へ倒れる仗助。

「………え?仗助…?ねぇ、仗助…っ!」

まさか失敗してしまったのか。確かに結界を出したはずなのに。

「オイ!苗字名前、お前は俺たちと来てもらうぜ。空条承太郎はどうもお前のことを気にかけているようだからな。
アイツの『スタープラチナ』はやっかいだ。いざという時の保険の為につれていくぜ。」


「や、ヤダッ!仗助っ!ねぇ仗助!!起きて!起きてよ!!」

仗助がちっとも起き上がらない。本当に目を____

反乱狂になって叫んでいた名前だが突然力を失くしたかのように地面に崩れ落ちる。

「おい立て!さっさと行くぞ。」

サーフィスは私の腕を掴んで無理やり立たせて歩かせ始めた。



◇◇◇

仗助に完璧化けたサーフィスは公衆電話から承太郎さんに電話しているらしい。電話越しで叫ばれると面倒だと言われた私は外に出されて間田に両手を拘束されている。

(私のスタンドに『スタープラチナ』や『クレイジー・ダイヤモンド』くらいのパワーがあれば…っ)

目の前のこの男をぶっ飛ばすことができるのに。私が今騒げはもしかしたら逃げることはできるかもしれない。
だがそうしたらこの男はさっきの康一君のように周りの人間に害を加えるだろう。その場合実行するのは仗助の姿をしたサーフィスであり、最終的に罪に問われるのは間田ではなく仗助自身なのだ。

聞こえてきたサーフィスの声からすると承太郎さんとはどうやら駅前で待ち合わせるようだ。何とかしてこいつは敵だということを知らせなければ。
間田は私の考えていることが何となく分かったのかサーフィスの手で先ほど仗助に強く掴まれた場所をさらに掴んでくる。

「いった…!!」

「苗字名前……。余計な真似したらその腕二度と使い物にならないようにしてやるからなぁ…!」

グググッと掴まれてもうほとんど痛みもない。
(絶対承太郎さんに伝えなきゃ…!)


◇◇◇

「仗助く〜ん。バイバ〜イ!」「また明日ねぇ〜」
次々に仗助の姿をしたサーフィスは女の子たちに声をかけられる。その様子を悔しそうに見ている間田。

「くっそぉ〜!俺と仗助のどこが違うんってんだよぉ〜!俺なんて『バイバイ』なんて言われたことねぇぞ!」

何が違うと言われても全てが違うとしか言いようがない。だって仗助はイケメンだしとても優しい。どうあがいたって間田に勝てる要素がない。口に出すことは簡単だったが今はコイツを刺激すべきではない。そこはグッとこらえた。

「んなこたぁどうでもいいだろうがよぉ〜。オメエチンタラやってる場合じゃないっしょ。」

「お前に言われなくても分かってるんだよ!誰に口聞いてんだ!」

仗助の姿をしたサーフィスに彼の口調で正論を言われたのが頭にきたのか間田はいきなりその顔を殴りつけた。だがサーフィスは元はただの木の人形。傷ついたのは殴った方の間田だった。
その血の付いた手をその辺に止めてあったバイクに擦り付ける。当たり前の如く黙っていないのはそのバイクの持ち主だ。

「おいおいおい。兄ちゃんよぉ。人のバイクに何汚いもの擦りつけてくれてんのさ!」

厳つい男二人相手にも間田はスタンドの力があるからか、対して興味もなさそうにそれを聞いていた。
その表情に何かヤバイものを感じた私は男たちに声をかけようとするがそれはすでに遅かった。
唐突に一人の男がサーフィスによって殴り飛ばされる。

「『サーフィス』そいつを抑えていろ。俺がやる。」

もう一人の男をサーフィスは後ろから拘束し、間田の手にはどこから取り出したのかカッターが握られている。
男に向かいカッターを振りかざそうとするが、間田のカッターが男に届くことはなかった。

「……余計なことはするなって言ったよなぁ!苗字名前…!少し痛い目見ないとわからないようだな!」

興奮した間田は名前の頬を殴り飛ばす。名前はそのまま成すすべもなく地面に倒れ伏した。

(あ…頭が……目がチカチカして見えない…)

完全に打ち所が悪かったらしい。だんだんと意識が白みかかってきてなにも考えられない。


「〜〜〜〜!!」

遠くから聞こえる聞き覚えのある声に少し意識が引き戻される。見覚えのあるシルエットに酷く安心感を覚える。

「…じょ、たろう…さん」
私はそのまま完全に意識を失った。