永遠に愛す唯一の君へ

3

あの後彼女をつれて僕はすぐに病院へと駆けこんだ。
さすがに病院についてからは突き刺さったガラスの痛みを感じ始めたらしく、その顔を泣きそうなくらいに歪めていた。

彼女は十針以上を縫う怪我を負った。
その細く白い腕にグルグルと巻かれた包帯を見たときに漸く僕は自分のしたことの罪深さに気がついた。

原因が何であれ彼女にこの傷を負わせたのは僕だ。
僕がもう少しうまく立ち回っていれば、彼女は怪我を負わなかった、その前にこのような危険に巻き込まれることはなかっただろう。
ベッドに横になる彼女の手を握り、ただただ「ごめん」と繰り返し呟いた。
ハイエロファントも彼女のことを心配そうに見ていた。
僕が原因でこんな目にあったというのに、それでも彼女の態度は変わらなかった。
怖い目にあって泣きたいのはきっと彼女の方、それなのに普段と変わらない柔らかい笑みを浮かべて彼女は言った。
「助けにきてくれて、ありがとう。」と。

あとで聞いた話だが、結局あの旧校舎はそのまま取り壊しになったらしい。
あそこで起こった出来事には、警察も首を傾げていたが、結局彼女を襲おうとした男たちが原因だろうと彼らも断定したようだ。
彼女を襲おうとしたあの男たちはやはり同じ区内にある高校の生徒だった。
僕がハイエロファントで体内から攻撃した男はそのまま入院。
見た目には何もないのに体内だけ激しく傷つけられているという、不可解な男の状態に医者も首を傾げたらしい。
もう一人の男は警察に保護されたときには錯乱状態だったようだ。
「緑色のバケモノが…!」と意味のわからない言動を繰り返ししていた男はそのまま別の高校へと転校していったようだ。


そして僕にはもう一人決着をつけなければならない人間がいた。
彼女を傷つけた一番の原因のあの女___、

「……あの、花京院、その……。」

目の前のこの女は僅かにガラス片で身体を傷つけたくらいの傷だったため、入院せずに今では普通の学校生活を送っている。
名前は未だ入院していて、10針以上も縫う怪我を負ったにも関わらず、だ。
あの事件の現場にいたということもあって、クラスメイトたちはこぞってこの女の心配をしていたが、今までのうるさい程の明るい性格は一体どこにいってしまったのか、常にビクビクとし何かを恐れているような挙動が目立つようになったらしい。
今はそれがより一層顕著に表れているような気がした。
明らかに目の前のこの女は僕に対して恐怖の目を向けているようであった。

「か、花京院が悪いんだよっ!わ、私が一生懸命書いた手紙を、あんな冷たい目をして突き返すなんて…!
なのに、なのにその後すぐにあの子にあんなに優しい顔をするから…っ」

「……僕は『君の気持ちには答えられない』と言っただけだ。
それが何故彼女、名前を傷つけていい理由になるんだ。」

泣きそうな顔をして言う彼女に向かって無感動に言い放つ。
それを正論であるとその女自身感じているからなのか、グッと言葉を詰まらせた。

「…花京院っていっつもそう!表面上は皆と仲良くしている風だけど本当は周りを見下して馬鹿にしているっ!周りの人間が馬鹿に見えて仕方ないって顔してるっ!!なのに苗字さんだけには違って…、私だって花京院のこと好きなのに。きっとあの子なんかよりも、好きなのにっ!!」

その女自身正論を言われて言葉に詰まった結果、自分を責めたくて口にした言葉だったのだろうが、それは花京院自身のことをそのものズバリと言い当てた言葉であった。

「……君にいくら好かれたって、僕にとっては意味のないことだ。」

「なんで!?そんなにあの子のことが大切!?たかが幼馴染でしょ!?私の方が、絶対…、」

興奮して声を荒げていた女は突然口を閉じた。
目の前にいる花京院からピリピリとした殺気を肌で感じたからだ。

「……っひ!!」

恐怖で女は立っていられなくなり地面に尻餅をつく。

「名前は僕の恩人だ。名前が僕の傍にいてくれたから僕はあの時可笑しくならずに済んだ。
僕の全ては彼女のために存在する。
お前なんかに、分かる訳がないだろう__。」

未だ地面に座り込み恐怖のあまり涙を流す女に対して、花京院は言い放つ。

「今度、彼女に手を出したら

君を__スから_____。」

女はビクリと反応したかと思うとそれ以上は何も言わなかった。


その数日後、その女は突然別の学校へと転校していったらしい。
彼女のクラスメイトの何人かが、僕とあの女が話している現場を見たようで『僕が彼女を脅していた』という噂が流れたようだが、そんなものを信じる人間はこの学校にはいなかった。

何故なら僕は絵に描いたような優等生。
その一方であの女はさまざまな黒いウワサもあったような人間だった。

周りの人間がどちらの言い分を信じるかなんて、明白なことだった。


◇◇◇
「本当に体はもう大丈夫なの?」

「うん!もうすっかり。明日には退院して、あさってからは学校に行っていいってさ。」

明るくそういう彼女の腕からは痛々しい包帯が見え隠れする。

「……ごめん。」

それを見る度に罪悪感に駆られて謝ってしまう。
そんな僕を叱咤するように、彼女は僕の癖の強い前髪を掴んで思い切り引っ張った。

「いたっ!なにをするんだい……。」

「気にしないでって言ってるじゃん。あのまま典明くんが来てくれなかったら、私……、
だからこんな怪我くらいどうってことないの。」

「でも…、きっと痕が残る。僕は君に、一生消えない傷をつくってしまった…。」

「………典明くんなら、いいの。」

「え……?」

「典明くんにもらったものなら、一生消えなくてもいいの。」

堪らず僕の視界は涙でぼやける。
あぁ、君の前では格好良くいたいと思うのに、どうしてこう上手くいかないんだろう。

「…名前、君は、ほんとうにっ…!」

「典明くん。ずっと私の傍にいてね。」

そんなの当たり前だ。
僕にはもはや君がいない生活なんてありえない。


もっともっと、この『ハイエロファントグリーン』を上手く制御できるようにならなければ。
これからも、彼女を守り続けるために__。