永遠に愛す唯一の君へ

6

「名前、本当の所さ、花京院君ってどうしちゃったの?
…無断欠席でしょ?さすがにこれ以上続くと出席日数ヤバイんじゃない?」

朝、典明くんが学校に来なくなってから約一か月とちょっと。
有名人の典明くんが長期に渡り無断欠席をしているという噂は、瞬く間に学校中に広がった。
初めの頃こそその理由を知ろうと私の周りには多くの人だかりができた。
だが私の知らぬ存ぜぬの変わらない返答に諦めて行った。
今では典明くんのことが好きだったのであろう女子から、たまにチラホラとこのような質問があるのみだ。

「…ごめん。私からは何も言えない…。」

変わらない私の返答にその女子からはため息のような声が漏れる。
これ以上はなにも聞きだせないとその女子も感じたのか、黙ってその場を離れていった。

(…典明くん。)

ポケットの中の彼から受け取ったピアスに、そっと手を伸ばして触れる。
そうすると何となく典明くんが近くにいる気がした。

(あれからもうすぐ50日…。今どこにいるの?典明くん…
お願いだから無事でいて…!)

無力な私に唯一できることは、彼の無事を祈ることだけだった。

「おーい、席に着け。出欠とるぞー。」

担任教師の気の抜けるような声にガヤガヤと騒がしかった生徒たちは一斉に着席を始める。
私はと言えば元々自分の席に着いていたので特に慌てて席を移動したりすることもなかった。
ボーッと目の前の何も書かれていない黒板を見つめる。

その時事態の異常に気がついた。

「___え?」

静かだ。
先ほどガヤガヤと騒がしかった教室がピタリと突然音をなくした。
異常を感じ、思わず辺りを見回す。

「……え?な、なに、これ……!?」

全員の動きが止まっていた。

驚きで思わず席から立ち上がる。
だが次の瞬間には何事もなかったかのように全員が動き出していた。

「苗字―。何立っているんだ。さっさと着席しろ。」

「え…?な、なにが…?」

「なにがじゃないぞ。さっさと着席しなさい。
……花京院は今日も欠席か。」

教師に促されて着席したが正直それどころではなかった。
今のは気のせいではない。

(なにかが、なにかが起きている……)

不思議なことに今のに気がついている人は私以外にいないようだ。
皆何事もなかったかのように教師の話を聞いている。

「…連絡はい、」

その時再び教師の言葉が不自然に止まった。
辺りをキョロキョロと見回すが誰一人として動いている人間はいない。
まるで私以外全ての時間が止まってしまったみたいだ。
ものの数秒で再び教師は話しだす。

「じょうに、」

再び教師の言葉は止まる。

「な、」「るが、」「な」「にか」

まるで映画の一時停止をしたときみたいに途切れ途切れに話す教師にだんだんと気分が悪くなっていくる。
私は耐え切れなくなりその場から慌てて立ち上がる。
後ろから私を咎める声が聞こえた気がしたが、それも途切れ途切れでなにを言っているのかは分からなかった。


◇◇◇

学校の外に出てみてさらに驚いた。

「なにこれ…。雨……?」

そう言えば今日は雨降りだった。
やはり時間が止まっているのだろうか。
雨粒が空中でそのままの丸い形で停止していた。

「…きれい」

異常な事態にも関わらずあまりに非現実的な美しさに声を漏らしてしまう。
これは一体何が起きているの?
今この瞬間、この世界で私のように停止していない人間はいるのだろうか?


「____典明くん?」


嫌な予感がする。

次の瞬間止まった時間が動き出す。
それと同時に私は突然水浸しになった。
雨の中つっ立っていれば無理もない。
突然の冷たさに驚きハッと目が覚める。

「やだ…。ビショビショになっちゃった…。」

(胸騒ぎがする。典明くん……、ねぇ、早く帰ってきて…っ)

今更教室に戻る勇気もなかった私は雨の中を帰路につく。
その間再び三度、断続的に時間が止まった。


それを最後にその不思議な現象は再び起こることはなかった___