次々に襲ってくる刺客と戦いながらここまできた。日本を出てからすでに1ヶ月が経とうとしている。
当初の予定通りならすでにDIOのいるエジプトに着いていて、決着がついていても可笑しくはなかった。
だがDIOから放たれる数々のスタンド使いたちに襲われ、空路は使用できず、一行は陸路と海路を駆使しながら漸くサウジアラビアの砂漠まで到着した。
『死神13』という夢の中に現れるスタンド使いと対峙したときには、仲間たちからあらぬ誤解を受けてしまい流石の花京院も精神的に応えたが、彼の機転でなんとか危機を脱出することができたのだ。
そして『太陽』という新たなスタンド使い。
これも一時は危機的状況まで追い込まれてしまったが、敵が思ったよりもマヌケだったため、早期に決着をつけることができた。
あと少し遅かったら危なかったかもしれない。
そんな砂漠でのある夜の話____、
「なぁ、なんで花京院のピアスって片っぽだけしかないの?穴空けてるよな?」
始まりは一行のムードメーカーであるポルナレフの言葉だった。
そんな彼の質問に、全員の視線が花京院へと集まる。
炎を見たまま物憂げな顔をしていた花京院に対し、ポルナレフは茶化すように再び口を開く。
「好きな子に渡したとかそんなベタな展開はねぇよな〜」
「……………。」
「……え?マジ?マジなの?」
ポルナレフは周りの承太郎やジョセフに説明を求めるように顔を見回すが、承太郎は帽子の鍔を下げて視線を遮り、ジョセフはニヤニヤといやらしい笑みを浮かべるだけだった。
そして何よりも、花京院本人の何かを思い出すかのような熱っぽい瞳がそれが事実であることを物語っていた。
「え〜〜?!マジかよ花京院?!
お前絶対童貞だと思ってたのによぉ____ブッ!!」
花京院の見事なまでの肘鉄がポルナレフの顔面に直撃した。
「デリカシーのかけらもないやつだな。僕と名前は清い関係のままだ。」
撃沈したポルナレフに変わりジョセフが口を開く。
「出発前にいたあの子か?」
「ジョースターさんまで……!」
「まぁまぁ、いいじゃないか花京院。ここではテレビもトランプもなんの娯楽もないんだ。それに砂漠のど真ん中とはいえこんなに静かな夜は珍しい。たまにはこんな話に花を咲かせるのもありだろう。」
この中で一番の年長者で、リーダー的存在であるジョセフにそう言われてしまえば流石の花京院とて口を噤むしかないのであった。
最後の砦である承太郎の方へと目をやる。
するとそれに気がついた承太郎がニッとニヒルに笑って口を開く。
「名前……、って言ってたな。俺の周りにはいないタイプの女だったな。」
彼はこのような浮ついた話には興味がないだろうと思っていたがどうやら違ったらしい。
砂漠での夜はそれほど暇だということだろうか。
ニヤニヤと笑うポルナレフに少しイラッとしながらも、花京院は渋々口を開く。
「………彼女とは幼馴染だ。スタンド使いではないが僕のハイエロファントのことを知っていて、それでも一緒にいてくれている。付き合ってはいないが、お互い同じ想いだと思っているよ。」
「付き合っている訳じゃなかったのか?」
「あぁ。ここ最近エジプト関係で色々とあってね。正直それどころではなかったんだ。」
「付き合ってないのになんで両思いだって分かるんだよ。」
「何年の付き合いだと思っているんだ。彼女のことは僕が一番理解しているし、僕のことを一番理解してくれているのも彼女だ。」
「でもよー、言葉にしなきゃ伝わらないことってあると思うぜ。男と女ならなおさらよぉ。」
ポルナレフの最もな意見に花京院は口を閉ざす。
「……それは、よく分かっている。
だから僕は、この旅から帰ったら彼女に自分の思いを伝える。」
「花京院!よく言った!
やはりいいものだのう!若者の恋っていうのは!」
まぁ飲め飲めと言ってジョセフが手渡してきたのはただのホットミルクだ。
「なぁ〜んだ。せっかくお兄さんが女のコが泣いて喜ぶようなテクを伝授してやろうと思ったのによぉ〜。」
「結構だ。」
「つれないとこ言うなって!いずれは必要になるんだからよ!いざその時になってその子に痛い思いをさせたくないだろ?」
「…………それは、」
「決まりだな!おい承太郎!お前もよーく聞いておけよ!コーコーセイ!」
「アホか。くだらねぇこと言ってる暇あるならテメェの心配でもしてな。
花京院、てめーもそんな話聞いたってなんの意味もねぇぞ。女なんてそれぞれ違うんだからな。マニュアル通りにいく訳がねぇんだ。」
同い年にも関わらず、何故か妙な説得力のある承太郎に疑問をもった花京院は尋ねる。
「えっと、承太郎。君ってもしかしてすでに……」
「………俺のことはどうだっていいんだよ。」
言い淀んだ承太郎にポルナレフの興味は今度はそちらへ移ったらしい。
今まで付き合った女の数は?経験人数は?初めては何歳のとき?とかディープすぎる質問を繰り返していたポルナレフに苛立った承太郎がキレて、ついにスタープラチナを出現させたことでその話はおひらきとなった。