その日私は学校を休んで1人で出かけた。
高校が明らかになっていたため、その場所を見つけるのに苦労することはなかった。
最寄駅で下車したところで学校周辺には公暁東高校の制服を着た生徒で溢れていた。
調度登校の時間なのか道は生徒たちの波でごった返していた。
取り敢えず空条承太郎という人物を知っている人がいるか片っぱしから聞いていく必要がある。
これは非常に根気のいる作業だ。
不審そうな顔をされても、迷惑そうな顔をされても最後までやり通さなければ。
手始めにお喋りをしながらこちらへ向かってくる女子の集団に聞いてみることにする。
「あ、あの、すみません。」
きゃあきゃあ騒いでいた女の子たちは突然の見知らぬ者の来訪に少し不審そうな目を向ける。
そりゃあこんな朝っぱらから知らない人間に話しかけられるなんて何事かと思うだろう。
頭にハテナを浮かべる彼女たちを無視して言葉を続ける。
「この学校に通っているはずの『空条承太郎』さんを探しているんですが…、どなたかご存知ないですか?」
『空条承太郎』
その名前を出した瞬間、心なしか周りの空気がピリッとしたのを感じた。
その中の1人が漸く口を開く。
「あんた、この学校の生徒じゃあない人間がジョジョに一体何の用なのよ。」
確かに彼女の言い分は最もだ。
しかし、
「………?ジョジョ……?」
聞き慣れない単語に思わず聞き返してしまう。
「えっ、うそ!あなたジョジョのこと知らないの?!」
彼女の言葉を皮切りに、他の女の子たちもワッと一斉に私を取り囲んだ。
「この区内にジョジョを知らない人間がいるなんて……」
そんなにそのジョジョこと空条承太郎さんは有名人なのだろうか。
これはおもったよりも早く見つかりそうだと内心ガッツポーズをとる。
「で、ジョジョを知らない人が一体なんでジョジョを探しているのよ。」
「……実は、同じ学校の友達を探してます。空条承太郎さんに会いに行くって言ったきり連絡が取れなくなってしまったんです……。
家にも一切連絡がないので何かあったのではないかと心配で、唯一の手がかりである彼を探しているのですが……」
女の子たちは揃って顔を見合わせたかと思うと同時に同じことを聞いてきた。
「その友達って、男?まさか、女?」
「お、おとこです。」
私がそう答えると彼女たちから明らかにホッとしたような空気が漏れた。
どうやら空条承太郎さんは典明くんと同じで相当モテるようだ。
「……それは心配ね。ジョジョなら今日はまだ見ていないわ。最も、ジョジョが今日登校する保証はどこにもないけれど。」
「えと……、それはどういう…?空条さんは身体が弱いとかですか?」
私が思ったことを口にした瞬間、女の子たちの目は見開かれる。
「んなわけないでしょ!!あの強くてワイルドでカッコいいジョジョが、身体が弱い訳ないでしょ!!!」
「………ご、ゴメンナサイ」
女の子たちの物凄い剣幕でもはや謝るしかなかった。
「ジョジョはね、この辺りではかなり有名な札つきの不良なの。」
「でもその辺のただワルぶってる不良とは格が違うの。ジョジョはハーフで背が高くてちょーイケメンなの!」
「登校してくるのもその日の気分次第。
昨日は3日ぶりに朝から登校していたけれど……、
あ!そう言えば………」
突然言い淀んだ彼女に視線を向ける。
「昨日ジョジョと一緒にいたあの男子、結構イケてたよね〜!」
唐突に切り替わった話に再び私は頭を傾げるばかりだ。
「ま、ジョジョ程じゃあないけど」と口々にそう言う彼女たちはかなりミーハーなのだろう。
「あー、あの茶髪の。この辺じゃあ見ない制服だったよね。緑の。確かにカッコよかった!何組に転校してきたんだろう?」
彼女のその言葉に目を見開く。
「あ、あの!その人って、前髪がこう、長くて 、緑の長い学ランを着てました?!」
「う、うん。確か、『花京院典明』って言って……、えっ?!なに?!ど、どうしたの?!」
よかった。
典明くんが無事だった。
その安堵から意図せずポロポロと涙が溢れ出た。
不本意にも知らない人たちの前で泣いてしまったことが恥ずかしくてゴシゴシと両目を擦る。
「す、すみません…!安心したら、なんか…!」
「……ジョジョの家はここからすぐの所よ。かなり目立つ家だからすぐに分かるわ。」
そう言って女の子の一人がさらさらと地図を書いて寄こしてくれた。
「え…!?で、でも…」
「急いでるんでしょう?いつまでもここにいたってジョジョが来る保証はないわ。あなたが直接聞きに行った方が早いわよ。」
確かに彼女の言う通りだ。
典明くんと空条さんが昨日会ったということは彼女たちの言うことから確実なのだから、その後どうしたのかは空条さんに直接聞いた方が早い。
彼女から地図を受けとり深々と頭を下げる。
「あの、本当にありがとうございました。」
「いいから、早く行きなさいよ。言っとくけどジョジョに色目を使ったりしないでよね。」
彼女のその言葉に思わずクスリと笑ってしまう。
もう一度ペコリと頭を下げて私は走ってその場を後にした。