永遠に愛す唯一の君へ

5

典明くんが消えてしまった。
おばさんの話によると、私と話しをしたあの日を最後に家にも帰宅することがなくなったらしい。
警察にも届け出たと話していた。

警察にも最後に典明くんが残した言葉を伝えた。
だがまともには取り合ってもらえなかった。


『ディオ様』に『空条承太郎』

典明くんの言葉の中にあった唯一の彼へと繋がるであろう人物のキーワード。

私には彼らが典明くんに何らかの関係を及ぼしているとしか思えなかった。

典明くんの不思議な力『ハイエロファント・グリーン』
今までその能力を、彼が持つ意味なんて考えたことがなかった。
典明くんが、典明くんであればそれでいい。そう思っていたからだ。

だが典明くんが何か良くないことに巻き込まれ始めているのは間違いない。
それがあの不思議な能力が関係しているのかは分からないが、少なくとも無関係ではないだろう、そう思う。

そして典明くんの言葉の中に出てきた『ディオ様』と『空条承太郎』、彼らもそのような力を持っているのではないか?
まず私は恐らく日本人であろう『空条承太郎』という人物を探そうと心に決めた。




「こんなときにすみません…。典明くんの部屋に入らせてもらいたいなんて…。」

「いいのよ。他ならないあなたの頼みだもの。
…それに、私たちよりずっと典明と一緒にいた名前ちゃんなら、私たちも気がつかない何かに気がつけるかもしれないもの。」

そう言っておばさんは部屋から出て行った。
元々細身だったが今はそれを通り越してげっそりとやせ細ってしまったように感じる。

(典明くん…、おばさん、あんなに典明くんのことを心配しているんだよ…!
なのに、どこに行っちゃったの…!)

綺麗に整頓された彼の部屋をぐるりと見渡す。
彼の部屋の中でも一番目立つのは多くの本をしまってある本棚だった。
その下の少し大きめのスペースに彼が昔から好きな数々のゲーム機が置いてある。
彼が家族とエジプト旅行に行ってからすでにどれくらいの時が経ったか。
使われていなかったゲーム機には僅かに埃が被ってしまっていた。
それが典明くんがここにいないという現実を嫌でも私に突きつける。

「……典明くん。」

ポソリと呟いた言葉は宙へと消えていく。
あの日、何故彼と喧嘩してしまったのだろう。
いなくなって気がついた。

私は典明くんのことが好きだったんだ。
友達としてではなく、異性として。

今まで近くにいすぎたせいで気がつくことができなかった。
なんでいままでこんな簡単なことに気づかなかったのだろう。
分かっていれば、あの日あんな言葉を言ったりなんてしなかった。

「ぅ…っ、う…っ」

涙が溢れて止まらなかった。


__バサッ
突如部屋に響いた音にビクリと反応する。
どうやら先ほどの本棚から何か雑誌のようなものが落ちたらしい。
それを元の位置へ戻そうと屈んで手を伸ばそうとして気がついた。

(ベッドの下に、何か落ちてる。)

何かメモらしいものがベッドの下に落ちているのだ。
落ちた雑誌も無視して引き寄せられるようにその紙に手を伸ばす。

グシャグシャに握りつぶされているそれを破かないように慎重に開く。

「……!?」

『空条承太郎 東京都○○区 公暁東高等学校』

思わず目を見開く。
それは確かに典明くんの手で書かれた文字であった。

間違いない。
典明くんは空条承太郎という人物に会うためにここへ向かったのだ。
私は慌ててそのメモを持って彼の母親に見せようと立ち上がる。
だが部屋を出る前にふと思った。
彼が可笑しくなった原因は十中八九、彼と同じような力を持つ者が原因だろう。
そして典明くんを操る人間が邪魔だと思っているであろう空条承太郎。
彼もまた、典明くんと同じ力を持つ人間なのではないか?

だとしたら彼の両親や警察に話したところでどうしようもないのではないか。
何故ならあの力は普通の人間には見ることができない。
典明くんは空条承太郎を、『殺す』と口にしていた。
私がこの話をすることによって典明くんの両親はこの場所に向かうだろう。
その先に彼らが巻き込まれる可能性。
それは典明くんが望まない結果を招くことになるだろう。

なによりも、今までその力をひた隠しにしてきた典明くんが、今回のことでそれが公になり傷つく可能性。

彼のハイエロファントを知らない人間にこの居場所を伝えるのは、非常にリスクが高いように思えた。


「………行こう。この場所に。」

そのメモ用紙を握りしめて、私は決意した。
大好きな彼の元へ行くために。