この恋の行方は? | ナノ


「そろそろ口を割ってもらうぜぇ。名前、観念しな。」

「じょ、仗助君…。」

私は現在何故あんなバイトをしていたのか仗助君の部屋で問い詰められている所だった。
だが私が何故年齢を偽ってまであんな場所でバイトをしていたのかは、全ては仗助君の誕生日の為であるのだ。真の目的をいう訳にはいかない。


「ちょ、ちょっと欲しいものがあって…」

「嘘だな。名前、おめぇが嘘つくときは絶対に俺と目を合わせねぇ。
んなこたぁ今更分かってるんだぜ。」

「うぅ…」

「さっさと言っちまった方が楽だと思うぜぇ〜。
おめぇが嘘つくのが苦手なことは俺が一番よく知っているからなぁ。」

「だ、だって…。」


大抵仗助の言うことは素直に従う名前にしては珍しく強情な様子に仗助も強硬手段に出る。


「理由を言わねぇなら今からおめぇのバイト先に電話をかけて俺から真実を話す。」

「そ、そんな勝手に…っ!!」


仗助の言葉にずっと彼の視線から逃れるように俯いていたその顔を上げる。
だが見上げた彼の顔を見た瞬間名前は言葉を詰まらせた。


仗助は穏やかな口調で話してはいるものの、その目は鋭く細められており、その表情の無さから彼が怒っているということは明白に分かった。

自分で言うのも何だが仗助君は何やかんやで自分には甘い。
それは幼馴染のよしみということもあるのだろうが、大抵のことは笑って許してくれる。
だからこそ彼にこのような視線を向けられたことがない名前は困惑していた。


「じょ、仗助、君……。怒ってる……?」


恐る恐る彼の顔色をうかがうように名前は尋ねる。
そんな彼女に仗助はワザとらしく呆れたようにため息をつく。


「俺がいたからよかったものの、名前、あのまま誰も助けにこなかったらおめぇ何されてたかわかんねぇぜ。」

「え……?なにかって…」


キョトンとして何がなんだか分からないと言った彼女の表情も、普段なら可愛いの一つで済むのだろうが今回は無知な彼女に無性に腹がたった。
まぁ彼女がこの手のことに無知なのは自分が彼女に近づこうとする下心のある輩を片っ端から牽制していたせいでもあるのだが。


だがそれとこれとは話は別だ。


名前には少し危機感というものが必要だ。


仗助はテーブルをその長い足で跨いで彼女に近づく。

「どうしたの…?仗助君、何か変だよ…。」

少し怯えた様子の彼女に罪悪感を感じながらも仗助はその場に彼女を無理矢理押し倒す。
勿論彼女が誤って頭を床にぶつけないようにしっかりと後頭部に自らの手を差し入れてだ。

「うぁっ!」


「こういうことだよ。」


突然のことに目を白黒させていた彼女だがだんだんと状況が理解できてきたのか、バタバタと自分の下で必死になって起き上がろうとしている。
だが両腕は仗助の手によって拘束されておりそれは叶わなかった。


「じょ、仗助く…んっ!離してよぉ…っ怖いよっ!」


知らなかった。
まさか仗助君の力がこんなに強いなんて。
いくら自分が手や身体を動かそうとしても、その大きな手で、身体で全ての動きをあっけなく封じられてしまう。


だが彼女が感じた恐怖は、仗助が自分に対して怒りを向けているということではなかった。


「…っぁ、仗助君…、ごめんなさい…っ!嫌いにならないでぇ…っ」


ポロポロとその大きい黒目から大粒の涙が溢れ出てくる。
本気で仗助が自分に対し怒っているのだと感じた名前は泣きじゃくりながら真実を話しだす。

「じょうすけくんのっ、誕生日に、プレゼントを買いたくて…っでも、お金が、足りなくてっ」

彼に嫌われたくない一心で言葉を紡ぐ。
涙でぼやける視界で彼の表情を伺うことができない。


どの位そうしていただろうか。
仗助の部屋は静かで辺りには、名前の静かに鳴く声しか聞こえてこない。

フッと腕の力が弱まったかと思うと突然温かい大きい何かが自分の身体を包みこんだ。




「…っとに、バカっすねぇ。

んなことしなくたって、俺は名前が傍にいてくれれば何もいらないのによぉ…。」


「じょ、すけ…くん」

彼の大きい腕の中にすっぽりと収まった私の身体。
そのいつもの自分を守ってくれる温かさに、心までも満たされていくのを感じる。



「俺の為にバイト始めたの?」

「…うん。」

「なんで年齢制限のある店で働こうと思ったんだよ。」

「…時給が、よかったから…。
仗助君に喜んでもらいたくて、買いたいものは決まってたんだけど…。」

その言葉に仗助は彼女を抱きしめながらハァとため息をつく。



「…おめぇが俺の為を思ってしてくれたってのは嬉しいけどよぉ、やっぱああいうあぶねぇ所には行くな。
おめぇに何かあったら、俺は____」

少し震えた彼の声に自分は随分と心配をかけてしまったのだとようやく理解する。



「仗助、君…。心配かけて、ごめんなさい…。私、あそこでのバイトは、止めるから…。」


仗助君の誕生日プレゼントは買えなくなってしまうが仕方がない。
こんなに彼に心配をかけてまでやる価値はないのだ。





「…名前、おめぇは見ていて危なっかしいからなぁ…。
これからは絶対に俺の傍を離れんじゃあねぇ。

____傍にいてくれねぇと、おめぇを守れねぇからよぉ。」


そう言う仗助君は抱きしめていた私の身体を離し、先ほど力の限り掴んでいた私の手首をその大きな手のひらでゆっくりと撫でる。
彼に掴まれていたそこは赤く手の形にうっ血の痕が残っていたが、仗助君がその個所を撫でた途端それは一瞬で消えてしまった。




仗助君がこの不思議な力を使うときに感じる温かいもの。

それがなんだか私にはよく分からないが、なんとなく感じる、もう一人の仗助君がそこにいる感じ。
思えば小さい頃から感じていた感覚だった。






「やっぱり仗助君は私のヒーローだね」




「ヒーローじゃあなくてよぉ、王子様の間違いじゃあねぇの?」


ニカッと笑った仗助君はやはり格好良くて、彼の言った通りいつまでも私だけの王子様でいてほしい___

ガラじゃあないけどそんなことを思った。