この恋の行方は? | ナノ
自宅に帰ってから冷静になって考えてみた。
「やっぱりやるしかない…!」
自分の通帳を見て驚愕した。
あまりの残金の少なさに。
これではうまい棒100本買えるかどうかも怪しい。
由香子に勧められたのは『メイド喫茶』の求人だった。
『18歳以上〜土日平日夜働ける人募集中。』
(大丈夫!私は17歳!たった一歳なんて大した差じゃあない!)
そう言い聞かせ書いてある電話番号へ意を決して電話をかけ始めた。
◇◇◇
後日行った面接であっさりと受かってしまった。
「じゃあ早速明日から来てね」と言われて本日はいよいよ仕事初日。
渡された制服を初めて広げた私は息を飲む。
「こ、これを着るの…!?」
人生初のメイド服だ。ご丁寧に猫耳までついている。殺す気か。
「えぇい!女は度胸!」
自分に言い聞かせて私は更衣室を後にした。
◇◇◇
バイトを初めて一週間くらいになるだろうか。
放課後は学校が終わったらすぐにバイトなので必然的に仗助君と帰る時間は減った。
だがこれも仗助君に喜んでもらうことに繋がるかと思うと頑張れる。
「名前よぉ〜。今日も用事なのかぁ?」
「うん…。ごめんね、仗助君。急いでるから先に帰るね!」
そう言ってパタパタと走り去る名前の背中を仗助はジィっと見つめる。
「名前の奴今日も用事かぁ?」
「…らしいな。」
後ろから話しかけてきた億泰に仗助は彼女が走り去った方向を見つめながら返事をする。
「もしかしてアイツ、男でもできたんじゃあねぇかぁ〜?」
「はぁ!?」
億泰の言葉に仗助は目を見開いてそちらを見る。
「億泰!おめぇ見たのか!?名前が男と一緒にいるところをよぉ!」
慌てたように億泰に掴みかかる仗助に、今度は億泰の方が焦る。
「お、おい!落ち着けって仗助!『かも』しれないって話だよ!
俺はしらねぇよ!
第一仗助、幼馴染のおめぇが知らないことを俺が知ってる訳ねぇだろ!」
「た、確かに…。悪い、億泰。」
申し訳なさそうに仗助はその手を離す。
「いや、いいけどよぉ…。おめぇ名前のことが好きならよぉ、さっさとモノにしちまえってんだ!俺は寂しいけど…。」
「…そう簡単にできたら誰も苦労しねぇっつうの。」
いつになく弱気な友人の仗助を見て億泰は思う。
この男は大抵の世の女を虜にできる顔を持っていながら、恋愛事になると途端に弱気になる。
最も億泰が親友の仗助が彼の幼馴染の名前のことが好きだと知ったのもつい最近の話だった。
可愛いセンパイや後輩、そして美人な年上のお姉ちゃんまで寄りどりみどりだったにも関わらず、仗助が一切誰とも付き合ったりしなかったのにはそういう訳があったのだ。
正直はじめにそれを知ったときには何故名前なのかとも思ったりした。
仗助ほどの男ならもっと良い女が何もせずとも寄ってくるだろうに。
だが億泰自身彼女と同じクラスで隣の席になり関わるうちに、何故仗助が彼女に惚れたのかなんとなく理解することができた。
彼女はなんというか、男の庇護欲をそそるのだ。
その小さい身体で頑張っているのを見るとなんだか守ってあげたくなってしまう。
約一年前の多くのスタンド使いが現れた騒ぎの時に、仗助が彼女を意図的に自分から遠ざけていたのは彼女を巻き込みたくないが故の行動だったのだと最近になって知った。
騒ぎが終息したあとは、二人で登下校ができるようになったのだと仗助が喜んでいたのをよく覚えている。
そんな彼を一年近く見守ってきた億泰にとっては、ぜひともこの恋を成就させてやりたい気持ちがあった。
「…付けてみるか。」
「は?つけるって…。まさか。」
「どこ行くか気になるんだろ?
俺も付き合ってやるから、こうなったらとことん調べるぜぇ。」
いつになく乗り気な億泰に珍しく仗助の方がタジタジになるのだった。