この恋の行方は? | ナノ


無事に学校に到着した私たちはお互いの教室の前で別れた。
そう、悲しいことに私と仗助君のクラスは違うのだ。
自分のクラスの扉を開けて私は自分の席へと鞄を置く。

「よぉ。名前。今日も仗助と登校かぁ?」

「億泰君…。今日は早いね。珍しい。」

隣から話しかけてきたのは同じクラスの虹村億泰君だった。
去年突然転校してきた彼のことを始めはその見た目から怖い人なのだと思い距離を置いていた。
だがある時に仗助君と彼が仲が良いということを知り、仗助君つながりで私たちもあっという間に仲良くなったのだ。
怖い顔で誤解していたが実際に話してみると億泰君はとっても優しくていい人だ。
彼が仗助君の親友だというのも納得がいく。

「なぁ、頼むっ!昨日の課題見せてくれねぇか?」

「もうっ!億泰君が早く来てるなんて、そんなことだろうとは思ったよ。」
そう言いながらも頼みを断れず課題のノートを彼に渡す。

「マジで助かったぜぇ…。あの先公ウルセーからよぉ。昼にジュース奢るからなぁ!」

「ホントッ!?やったぁ〜。」


意外なところで出費を抑えられた。

実は私は現在ある理由からお金を貯めている。
それは何かというと、実は私の大好きな幼馴染である仗助君の誕生日が間近に迫っているからだ。


「また宿題見せているの?いい加減にしないとソイツの為にならないわよ。」
鈴の鳴るような声に私はパァアと顔を輝かせる。

「由花子っ!おはよう!」

「おはよう。名前。」
そう言って私の前の席に座る由花子は今日も美しい。

「おいおい由花子〜。俺には挨拶なしかよぉ。」

若干不服そうにしている億泰君を無視して由花子は一限の準備を始めている。
そんな彼女を見た億泰君は「んだよぉ。康一と名前以外にはホント愛想のない奴。」とブツブツと言っているが彼は課題を写すのに必死なのかそれ以上は何も言わなかった。

億泰君が課題を写し終わった直後に先生が入ってきて眠い授業が始まった。


◇◇◇


昼食の時間。私は由花子と一緒に教室でご飯を食べていた。
隣の席の億泰君は課題のお礼の飲み物を私に買ってきてくれた後、そのまま財布を持ってどこかに行ってしまった。
きっと隣のクラスの仗助君と一緒に学食にでも行ったのだろう。

「由花子はいいよね〜。相変わらず康一君とラブラブでさぁ。」

「当たり前よ。私と康一君の間に入れる人間なんていないんだから。」

「…さいですか。」
普段は全てにおいて冷めているような印象の彼女だが、相変わらず康一君のこととなるとその熱すぎる情熱は爆発する。

「そういうあなたはどうなのよ。アイツとは。」

「アイツって、もしかして仗助君のこと?」

「他に誰がいるのよ。」

どうと言われても彼とは登下校を共にしているだけで他には何もない。
どう返答しようかと迷っていると由花子は呆れたような目をこちらに向けてくる。

「あなたね…。あの男のことが好きなんじゃないの?」

「え、えっと…。」

「好きなら行動しないと何も変わらないわよ。
私にはよく分からないけどあの男、女子に人気があるみたいだし。
そのうち誰かに取られちゃうわよ。」


由花子の言う通りだ。

仗助君はモテる。
それこそそのモテ具合は学校の女子生徒だけでは飽き足らず、通学路ですれ違ったお姉さんや、バスで一緒になる他校の女の子。
多くの女性を虜にしている。
ハーフである彼はただでさえ甘いマスクをしているというのに、それに加えて意思の強そうなブルーの瞳に日本人離れした逞しい体格、威圧感さえ感じる長身。
だが、その見た目とは裏腹の優しい性格。彼の全てが世の女性を虜にして止まない。

とにかくモテる仗助君は今の所誰かと付き合っている様子はないが、いつ誰に掻っ攫われるかなんてわからない話だ。


「彼の誕生日に勝負を仕掛けるんじゃあなかったの?」

「そうなんだけど…。」

何をプレゼントすればいいのか分からない。
昔からオシャレには人一倍こだわる質の仗助君が身に着けているものは、センスが良い。
そして結構なお値段がするのだ。
以前彼が欲しいと言っていたブランド物のバングルを見たときは、その値段に目玉が飛び出しそうになったくらいだ。

「なかなかいいバイト見つからなくてさぁ〜。仗助君が欲しがるもの、高すぎっ!
まぁでも仗助君はそれを使いこなしちゃうから格好いいんだけどね!」

仗助君の格好いい所談義を始めようと思ったが、由花子は興味なさそうに視線を落としたので途中でやめる。


「これはどう?」

由花子が見せてきたのはよく駅前なんかに置いてある薄い広告雑誌のようなものだった。

「なになに…?時給…。結構いいじゃんっ!でもこれ…。高校生禁止じゃん…。」

「化粧をすれば誤魔化せるわよ。だいだい高校生でもできるバイトなんて時給がたいしたことないんだから。」

「う〜ん。」


一応保留。
間に合わなさそうだったら要検討。


「そういえば、今日康一君は?」

いつもお昼は康一君と食べていたはずなのに今日は何故か教室にいる由花子に疑問を持つ。
するとその瞬間、何故か彼女の髪の毛がザワリと蠢いたような気がした。


「…あいつらと一緒にたべるからって、今日は断られたのよ…!」


そう言う由花子の表情が恐ろしすぎて私は弁当を喉に詰まらせかけた。