この恋の行方は? | ナノ


「アーン!痛いよぉ!うあーん!」

「名前ー……またケガしたの?」

「じょうすけくん、ヒック、転んだのぉ」

「仕方ないなぁ…….痛いの痛いの、飛んでけー!ほら、もう痛くないでしょ」

「ヒック!あれ……?ホントだぁ!じょうすけくんスゴイ!魔法使いみたいだねっ!」

「みんなには内緒だからね!」




「うん!だってじょうすけくんは名前だけの_____」





「もしもーし。そろそろ起きてくださーい。寝ぼすけ名前さーん。学校遅れるぜぇ。」
揺さぶられて私は無理やり眠りから覚醒させられる。


「…………あれぇ?じょうすけくんが大っきくなった。」

「なぁーに寝ぼけてんだよ。さっさと支度しろって。俺リビングにいるから着替えろよなぁ」
そう言って私の幼なじみは私の部屋を後にした。




「…………夢か」




それにしても小さい頃の仗助君は可愛かった。
ハーフ故に当時からかれの可愛らしさは群を抜いていたように思う。
だがいまやそれは見る影もない。

「あんたねぇ、毎朝仗助君に起こしてもらって。恥ずかしいと思わないの?」

「いやいや、いいんすよ。もう慣れちゃいましたから」

わたしの家のリビングの椅子に普通に座り、母に出されたコーヒーを飲む。
まるで自分の家のように寛ぐ仗助君を見て私ははぁとため息をつく。
たったこれだけの行為で格好良く見えてしまうのだから、彼が多くの女の子を虜にしてしまうのも納得がいく。


(いつからこんなにカッコよくなってしまったんだろう)


「やぁっと起きたのかよ。飯食ったらさっさと行くぜぇ。」

「うん……」



そう。


私は幼なじみである彼、東方仗助に恋をしている。
この気持ちを恋心と自覚したのはいつだっただろう。
それこそいつの間にか好きになっていた。

お人形のように可愛かった彼が、日に日に成長し、バリバリの不良となるまでの間、私はずっとそばにいたのだ。
無論不良のようになってからも彼の優しさは変わらなかった。


仗助君は今も昔も私のヒーローなのだ。






「行ってきまーす」

「行ってらっしゃい。仗助君、名前のことよろしくね」

「うぃっす」

「ちょっとお母さん、余計なこと言わないでよ!もう子供じゃないんだから!」

「いいから。行くぞ。ホントに遅刻しちまうって。」

仗助君の手に腕を引かれて家を後にする。
私は毎日仗助君と一緒に登校している。
と言うのも家族ぐるみで仲のいい私と仗助君の家は、兎に角お互いの家が近い。というか、隣同士だった。



話は変わる。

皆さんは杜王町で起こった殺人事件や行方不明者たちの話を知っているだろうか?
もう1年くらい前になるだろうか。
丁度私が高校に入学した頃、杜王町では物騒な事件が頻発していた。
その頃から仗助君は怪我をすることが増えた。
仗助君は普段は温厚でとても優しい人だが、その髪型を貶されると別人のように怒る。
そのため割と喧嘩は絶えず、常日頃からよく怪我を負っていた。
それでも尋常ではない怪我の回数に何度か彼を問い詰めたりもしたものだが、聞いてもはぐらかされるし、彼の不思議な力は自分には使えないと言うしでよく心配したものだ。


そして遂にとどめの一撃のような大怪我を彼は負って、あわや入院、そして大手術と大変な騒ぎになったものだ。
仗助君が入院したと聞いて病院まですっ飛んで行った私がそこに辿りついた時には、すでに手術は終わり彼はけろっとした様子でベッドに横になっていた。


何ともなさそうな顔をしていたが、それでも普段とはかけ離れた彼の顔色に、彼が死んでしまうのではないかと恐ろしくなり、恥も外聞もなく彼に縋り付いてワンワン泣いてしまった。
仗助君は縋り付く私の頭をポンポンと撫でたかと思うと、

「相変わらず名前は泣き虫だな」

と少し気だるそうな、やはり体調が悪いのだろうなと感じさせる声色で返答した。
だが私を安心させるように僅かに微笑んだ彼の表情が今でも忘れられない。



後で彼に聞いた話だと、億泰君とふざけていたら階段の手すりが壊れて、それが落下した衝撃で脇と太ももに刺さったということだが、本当の話かどうかは怪しい。




それからというもの杜王町の物騒な事件はすっかりなりを潜めた。



しかしその事件をえらく心配したうちの母親が仗助君のお母さんの朋子さんに相談し、それから仗助君と登下校するのか日常になった。
それこそ中学の中頃までは一緒に登下校していた私たちだが、いわゆるお年頃という時期を迎えて男女が一緒にいるということになんとなく気恥ずかしさを感じるようになった時期があった。
それまで仲良くしていたのが急に気恥ずかしくなり、ここ最近まで彼とは少し疎遠になっていたのだ。
そういう点では再び仗助君と話せるきっかけになったあの事件には感謝しなければならないのかもしれない。




「仗助君、今なんじ?」
チラリと彼は自分の時計を見る。

「えーっと、8時20分………」
その瞬間カッと目を見開いた彼はガッシリと私の手を掴む。


「やべぇ!!遅刻する!!名前、走るぞ!」

「えっ…、ちょっ!!」
仗助君に腕を引かれて必然的に走ることになる。


遅刻しそうだというのに、繋がれた彼の大きな手に笑みを隠さずにはいられなかった。