starry heavens | ナノ

「なんて美しい景色だ。できることならレジャーで来たかったぜ。」

ポルナレフの言う通り、こんな状況でなければ本当にゆっくりと楽しみたい景色だ。
承太郎の肩に掴まって泳ぐ私は少し余裕が出てきたのでぐるりと辺りを見回す。
海底に沿って進んでいるとは言え時々穴が開いたように海底が深くなっている箇所もあり、その度に肝が冷える。
それ程陸から離れていなかったこともあり、景色を見ているうちにエジプトの大陸の壁に到着したようだ。

「深度7メートル。ここから浮上しよう。」

ゆっくりと浮上していく私たち。
やっとエジプトに到着する。
誰もがそう思ったときだった。


突然物凄い激流が発生し、堪らず承太郎の肩を離してしまう。
咥えていたレギュレーターも放してしまい、私は水を飲み込まないようにするのが精一杯だった。
海から吐きだされるかの勢いで私は陸に打ち上げられた。
ドスンッと背中から地面に落下して息が一瞬つまる。


「ぅぐっ…!いったい…?」

「あなたが噂の苗字名前?何よ。ただのガキじゃない。
DIO様は一体この女のどこが特別だって言うのよ。」

「あ、あなたは…!?」

「ふんっ!私が『女教皇』の暗示のスタンド使い、ミドラー。
あなたみたいな小娘を連れて来いだなんて、DIO様も何を考えているのかしら。」

目の前にいたのは踊り子風のなんとも挑発的な衣装を身にまとった美女だった。

「あなたが、『女教皇』のスタンド使い…!」

私は目の前の敵に対峙するために『クリスタル・ミラージュ』を出現させて臨戦態勢をとる。

「あらっ。おっかない子ねぇ…。私のスタンドは今海中なのよ。
戦う術のない私を攻撃しようってわけ?」

「スタンドを戻して!承太郎たちを開放してっ!」

「戻してほしければ攻撃してみなさいよ。」

「っ………!!」

女の挑発するような台詞に言葉を詰まらせる。


__パァンッ

突然の頬への衝撃に目を白黒させる。

「あなたみたいな甘いガキ…。見ていると虫唾が走るわ。」

目の前の美女は物凄い形相で私のことを睨みつけている。
その冷たい嫉妬に狂ったような表情に私は戸惑う。

「DIO様……っ!なんでこんな小娘を…!!」

(殴られるっ!)

再び手を振りかざした女に驚き、手で顔を覆う。
だが覚悟していた衝撃はいつまで経っても襲ってこない。
恐る恐る目を開けるとさらに驚きの光景が私の目の前に広がっていた。

「あ…あが…っ」

「ひっ……!!」

女はその美しい顔を面影もない程歪めて口からおびただしいほどの血液を滴らせていた。
あまりの光景に思わずその場に尻餅をついてしまう。
女は痛みのあまりそのまま気絶してしまったらしい。
ピクピクと時折その身体は痙攣したように動いている。


暫くすると海の方が騒がしくなる。


「ひぃ〜!えらい目にあったぜ!お〜い!名前!!どこだぁ〜!」

「ポルナレフ。そんなに騒がなくてもそこに見えているだろう。
………ん?座り込んでどうしたんでしょうか……?」

その声に少しふらつく身体を起こして立ち上がる。


「み、みんな!無事でよかったぁ〜!」

「そりゃあこっちの台詞だっての!突然いなくなりやがって!」

「あの時の承太郎の焦りよう、君にも見せてあげたかった。」

「おい花京院!てめぇ余計なこと言ってるんじゃあねぇ!」

「ん?その後ろに倒れているのが『女教皇』の本体か?」


アヴドゥルさんの言葉に私は頷く。


「はい…、でも見ない方が、「スタイルは悪くないんじゃねぇの?美人かブスか見て来よ〜。」

私の言葉を遮ってポルナレフは興味本位でか、本体へと近づいて行く。
その顔を見たポルナレフの反応は予想通りで、自分の口元を抑えてなんとも痛そうな表情をしている。
彼が特になにかコメントすることはなかった。



私たちは今まさに渡ってきた『紅海』をジッと見つめる。


「いろんなところを通りましたね…。脳の中や、夢の中…。」

「夢…?なんだそれは?」

「あ、そうか。皆知らないんでしたね。」


感慨深いものだ。
ここまでくるのに一か月もかかってしまったのだ。


敵のスタンド使いに襲われて満足に休めるときはあまりなかった。
だがそれでも、大切な仲間と共にこの地を踏むことができたことを嬉しく思いたい。


「____行くぞ。」


承太郎の声と共に『紅海』を背にし砂漠へと向き合う。


エジプトに到着したからと言って終わりではない。
これから私たちはDIOのいる場所へと向かい、奴を倒さねばならないのだ。


ある者は家族を救うため、ある者は友のため、ある者は愛おしい人を守るために。


再びDIOの刺客たちは私たちを襲ってくるだろう。
だが進まねばならない。


それぞれの信念のために____



(なんだろう。この胸騒ぎは。)

先ほどの『女教皇』のミドラーが言っていた言葉。


『あなたみたいな小娘を連れて来いだなんて、DIO様も何を考えているのかしら。』

『DIO様……っ!なんでこんな小娘を…!!』

私に殴りかかってきたミドラーの様子は普通ではなかった。
嫉妬に狂う、鬼の様だった。
エンヤ婆の時もそうだった。
あそこまで人を虜にしてしまうDIOという男は一体何者なのか?
そしてミドラーは何故か私を連れて行こうとしていた。


杞憂だ。

気にすることはない。
そもそもごく平凡な私がDIOに目をつけられるという理由がどこにも見当たらない。


「っ……?」


一瞬、ほんの一瞬だがツキンと頭に痛みを感じた気がしたが、次の瞬間には収まっていた。

(…なんだろう?)


「お〜い、名前。何してんだ。行くぜ。」

「あ、うん!ごめん!」


慌てて私は彼らの後に続く。


新たな地へと 足を踏み入れる____

To Be Continued NEXT Egypt