承太郎に手を引かれて連れて来られたのはジョセフさんがとった、先ほどの部屋の調度隣に位置するもう一つの部屋だった。
「じょ、じょう…ムグッ」
「今さっき言っただろーが。早速忘れてんじゃあねぇ。どこで聞いているか分からねーんだからよ。」
承太郎の手に口を塞がれてようやく思い出す。
そうだった。
名前を呼んじゃあいけないんだった。
慌てて出しかけた声を引っこめる。
「座りな。」
そう言って承太郎が指したのは部屋に備え付けてあるソファだった。
言われた通りにソファに座る。
「わぁっ!フカフカぁ〜!」
座ったときの身体を包み込まれる感覚に嬉しくて思わず声に出してしまう。
「……ガキか。」
呆れたような口調の承太郎に少しカチンと来た。
「ガキじゃないもん。」
「分かった分かった。いいからさっさと足を出しな。」
ため息をつきながらソファの前の床へ片膝をつく承太郎。
言われた言葉の意味が分からずキョトンとしてしまう。
「あし…?」
「さっきので血が染みてきたんだろう。包帯を代えるぞ。」
(包帯、代える…?)
言われた言葉の意味が分からず考え込むが徐々に事態が飲み込めてきた。
「な、なんで!?じ、自分でやるからいいよっ!」
太ももなんて際どい部分の処置を任せるなど恥ずかしくできる訳がない。
承太郎の申し出を全力で拒否する。
その後数分間「さっさとしろ。」「いやだ。」の押し問答を続けているとついに承太郎がキレた。
「いいからさっさとしなっ!抵抗するんじゃあねぇ!」
「ひぎゃあああっ!!」
承太郎は私のスカートを下着の見えないギリギリまで捲り上げたかと思うと、左足の包帯を確認する。
「……血がでているな。」
「出てるよ!」
足を掴んで確認してくる承太郎の手を外そうとバタバタと暴れる。
「オイ…。あんまり抵抗すると力づくで抑えるぜ…。」
「…………はい。」
帽子の隙間から見上げた彼の鋭い眼光に、私は小さく返事をするしかないのであった。
血液が染みてしまった包帯を承太郎はスルリと外していく。
包帯を一巻、二巻とする際に彼の温かく、大きい手が太ももに軽く触れてしまう。
「じょ…じょう「オイ…。」
低い声で制されてしまって慌てて口を噤む。
漸く解かれた包帯は床へと無造作に捨てられた。
「左足、ここに乗せろ。やりにくい。」
承太郎が指さしたのは己の太ももだ。
その逞しい足に私の足を乗せろと言うのか。
まごまごしているとやはりあまり気の長くない承太郎は私の左足を掴んで無理やりそこへ乗せてしまった。
(か、固い…。)
言わずもがなだが承太郎の太ももはとても固くて、私のプニプニの贅肉だらけの太ももとは比べ物にならない程鍛え上げられていた。
自分とはあまりにも違うその感触に、思わず乗せた足でその固さを確かめてしまう。
「……おい。何勝手に遊んでやがる。」
「あっ!ご、ごめん…!」
完全に無意識のうちにした行動だったが、今のは私の方が変態っぽかった。
意図的ではないとは言え己のした行動に恥ずかしくなり目線を下へ向ける。
「ひゃあっ!な、なに…!」
突然傷口を避けるようにしてガシリと左足の太ももを掴んできた手に驚きそれを制そうとする。
だがそれも次の彼の行動によって封じられてしまう。
なんと今度は指先で膝から大腿、更にはスカートで隠された内腿の方まで侵入してきてなぞる様に足に触れてきたのだ。
「ぁ…っ、ンッ」
突然のくすぐったいような何とも言えない刺激に驚き、変な声を上げてしまう。
自分で自分の出した声に驚き両手で口を塞ぐ。
その声を聞いた承太郎はニヤリと口角を上げたかと思うと、今度はもう右足の内腿も同じようにして手のひらで撫でるようにして触れてきた。
明らかに意図したような動きに、嫌でも快感を拾ってしまう。
「ン…っ!じょ、じょうたろ…っ、やめて!」
「コラ…。名前を呼ぶなって言っただろーが。」
今度は傷を避けるようにして両手で内腿を撫でるようにして手のひらで触れてくる。
必然的に少しだけ開いてしまった足。
下着が見えないように慌ててスカートを抑える。
「ほ、包帯っ、代えるんじゃあ、なかったのっ」
「代えているところじゃねぇか。」
悪びれる様子もなく変わらず内腿を触り続ける承太郎。
意図した行為か分からないがその大きい手は、下着のすぐ下の際どいラインを時々掠めるようになぞった。
本来の目的から逸脱した行為であるにも関わらず、名前には承太郎を強く止めることができなかった。
それどころか彼の触れた箇所から徐々に熱が全身に回っていくような感覚を覚える。
(ぁ…っやだ…、)
その時だった。
___クチュ
静かな部屋に響いた水音に恥ずかしさのあまり顔に熱が集まる。
彼にも聞こえてしまっただろうか。
恐る恐る彼の顔を見上げる。
____ゾクリ
その顔を見た瞬間背筋に何かが走り抜ける。
承太郎はその美しい顔をニヤリと歪めて厭らしい笑みを浮かべていた。
その目は爛々と輝いておりまるで肉食獣のようだ。
「ぁ…、じょ、承太郎………」
「…3度目だぜ。言うこと聞かねぇ悪い口は塞がなくちゃなあ。」
(あ………、)
その瞬間私の視界は承太郎で埋め尽くされる。
彼はソファに座る私に覆いかぶさるように唇を合わせた。
それは唇と唇が触れあうだけのものだったが、長く、長く続いた。
夢のような時間は唐突に終わりを告げる。
「お前はいずれ____」
(え…?)
承太郎は唇を離したかと思うと小さな声でボソッと呟く。
一瞬見えた彼の表情は酷く弱弱しく、普段の意志の強さを持つ鋭い瞳はどこにもなかった。
まるで置いて行かれるのを怖がる子供のように見えた。
だがそれも一瞬で承太郎は何もなかったかのように帽子の鍔を下げたかと思うと、手早く私の傷口に包帯を巻き処置をした。
「…………ポルナレフの様子を見てくる。」
そう言って部屋から出て行った承太郎。
「…………………………え?」
何が起こったのかすぐに理解できなかった私はソファに埋もれたままの格好で暫くいたのだった。