starry heavens | ナノ

「思ったよりも早く車が調達できてよかったよ。なぁ、承太郎。」

「…あぁ。そうだな。」

パキスタンへ向かうための車を調達しに出ていた承太郎と花京院は、予定よりも早くそれを終えて今はホテルへと戻っているところだった。
辿り着いたホテル、一応名前に自分たちが帰ってきたことを伝えた方がいいだろうと思い、彼女の部屋の前に二人は向かった。

承太郎が彼女の部屋をノックしようとしたとき、何か部屋の中から彼女のものではない声が聞こえた気がした。


「?承太郎、どうしたんだい?」

なかなか扉をノックしようとしない承太郎を花京院は怪訝に思い訪ねる。


____聞き間違いかもしれない

だが次の瞬間の悲鳴は完全に二人の耳に届いた。




『や、ヤダ…っ!!来ないでっ_____!!』


その悲鳴を聞いた二人は顔を見合わせたかと思うとドアノブに手をかける。


「くっ…!鍵がかかっている…!」

「花京院!どけっ!!」

すると承太郎は自らの足で思い切り扉を蹴り開けた。


「名前っ!!」
探さなくても彼女はすぐに見つかった。ベッドの上に倒れている彼女。
慌てて彼女の元へ駆け寄った二人は困惑した。
その呼吸は尋常ではない程に早い。
全身には冷や汗をかいておりその目はどこを映しているか分からない、虚ろだ。


「過呼吸、か…。」

「何故…!?何があった!?スタンド使いの仕業か…!?」

「わからねぇが、このままにしておくのはマズイぜ。」

「承太郎!?一体なに、を……」


花京院は目を見張った。


承太郎は躊躇いもせずに名前の唇へと口づけたのだ。
ゆっくりと彼女の呼吸を落ち着けるように啄むように優しく口づけを繰り返す承太郎。
ベッドに倒れ込んだ彼女に覆いかぶさるように口づける承太郎の姿に花京院は驚きを隠せない。
徐々に彼女の呼吸が落ち着いてきたのを確認した承太郎はゆっくりとその唇を離した。


「……戻ったな。」

「…いや、『戻ったな』じゃあないよ。いきなりなにしてるんだい!君は!」

「あぁ?別に構わねぇだろ。こうするのが一番早かったんだからよ。」

「だからって…!あぁ〜!もういいよ!まったく…。」



その時砂嵐だったテレビの画面が突然切り替わる。
途端、静寂が訪れた部屋の異様な雰囲気を感じた二人はそのテレビへと注目する。
そこには見覚えのある金髪の男の後ろ姿が映っていた。

「…こいつは、DIO…!?」
花京院の言葉に承太郎もその画面を見る。
その瞬間彼女の身に一体何があったのか理解した承太郎は怒りを抑えきれない声色で口を開いた。


「……てめぇが、名前に何かしやがったのか…?」

怒りに震える承太郎の声色に画面の中のDIOはニヤリと笑ったかと思うと口を開く。


『承太郎、貴様らジョースターの血統とこのDIOは浅からぬ因縁を持つがな。
このDIO、100年以上生きてきたがそのような不思議な雰囲気を持つ女に出会ったことはない。

___その女に少し興味がある』


DIOの言葉に承太郎は己の目を見開く。


『なぁに、今日は挨拶替わりさ。まだ何もしちゃあいない。まだ、な…。』

「てめぇっ!こいつに手を出してみろっ!!今すぐぶっ殺してやるぜ…っ!」

「承太郎…っ!落ち着け!」

怒りのあまり『スタープラチナ』を出現させる承太郎。
今にもテレビに向かって殴りかかりそうな彼を花京院は慌てて止める。
だがそんな承太郎を見てDIOは高らかに笑った。


『ハハハッ!承太郎!やはり貴様にとってその女、名前は特別な存在のようだなぁ…!
つくづく嫌気がさすよ、我々の因縁の深さにはなぁ!』

「…それ以上その汚ねぇ口でこいつの名前を呼ぶんじゃねぇ。」

怒りのあまり承太郎の低い声は震えている。
それを聞いたDIOは勝ち誇ったように笑い、再び口を開く。


『いずれその女は私のものになる。いずれ、な____』


___ガッシャアアアアン!!

DIOが最後の言葉を言う前に承太郎はそのテレビを『スタープラチナ』で叩き壊した。
そんな彼を見て花京院はゴクリと唾を飲み込んだ。

(こんな承太郎を見るのは、初めてだ。)

承太郎は今までどんな敵と遭遇しても持ち前の精神力の強さとその冷静さで、決して己の感情を表に出すことなどなかった。
その承太郎が今、震えるくらいに憤っている。
握りしめられた拳からは手のひらに爪が食い込み血が滴っていた。


「…承太郎、少し落ち着け。名前が目を覚ます。」

その言葉に背を向けていた承太郎はこちらを振り返る。
彼女がムクリと起き上がるのと同時に承太郎は傷ついた己の拳を隠すようにポケットへと手をつっこむ。


「…ん、あ、れ…?じょ、たろ…?かきょ、いんくん…?私、一体…?」

「…名前、何があったのか、覚えていないのかい?」

「……え?なにが…?」


キョトンと首を傾げた名前に花京院は慌てて状況を説明しようとする。



「なにって、DIOが…「やめろ、花京院。」

話し始めようとした花京院を声で制したのは承太郎だった。


「承太郎、だが…。」

「覚えてねぇなら思い出す必要はねぇ。」


そう言って承太郎は名前の髪の毛をグシャグシャとかき乱し始めた。


「うわあっ!ちょ、ちょっと、承太郎…っ!何すんの…!」

「やかましい。あまり心配かけさすんじゃあねぇ。」



承太郎に頭を固定されてしまい後ろを振り向くことができない彼女には見ることができなかったであろう。
だが彼の前にいた花京院からは全て見えていた。



(承太郎…。君は、そんなに名前のことを___)



承太郎本人も恐らく気がついていないのだろう。

絶対に他人には見せたことがないような表情で名前を見つめる承太郎。
心底愛おしそうなものを見るその顔からしばらく目が離せなかった花京院なのであった。