starry heavens | ナノ

ポルナレフが消えた。正確には単独行動を決めてアヴドゥルさんと対立し、そのまま仇の『J・ガイル』を追うために出て行ってしまった。
寄せ集めの集団にしては今まで割と仲良くやってきた方だと思う。
このように真っ向から意見が対立するなんてこと今までなかったため、焦りを感じずにはいられなかった。

もしかしたらポルナレフはこのまま戻ってこないつもりなんじゃ…。
嫌な考えが常に頭の隅から離れなかった。
一日たった今でもポルナレフは戻ってくることはなかった。
結局私たちはポルナレフを放っておくことができず、二手に別れて彼を探すことになった。

私はジョセフさんと承太郎と共にカルカッタの町を歩いていた。
通行人からは物珍しいものを見るような目で見られたが、ジョセフさんと承太郎が両脇にいてくれたおかげでそれ以上何もなかった。

「ポルナレフの奴め…。全く世話の焼ける。」
ブツブツと呟いているジョセフさんを後目に承太郎はどんどん先へと進んでいく。

「じじい。ベナレスへはバスで行くんだよな。
ポルナレフを発見でき次第すぐに出発できるように、今のうちに時刻表を確認しておこうぜ。」
承太郎の言う通り、それが良いのかもしれない。
ただ当てもなく探してもこの広い町でそう簡単に見つかるということはないだろう。

「うむ…。そうじゃな。じゃあとりあえず駅の方へ向かうとするか。」
そう言って私たちは駅の方へ向かうのだった。

◇◇
「あれがDIO様が言っていた女か…。
う〜む。俺には普通の女にしか見えねぇけどよ。しかし流石の『ホル・ホース』様でも今は無理だな。
ああもジョースターと承太郎がピッタリくっついているんじゃあなぁ…。」


物陰からじっと名前たちを伺っている男がいることに、彼女たちは気が付かなかった。

◇◇
駅の方へ向かうにつれて人の悲鳴や逃げる音などが聞こえてくる。

「なにかあったんでしょうか…?」

「行くぞ。」

私たちは人が集まっている方へと駆けだした。
人ごみをかき分けてようやくその中央へ到達する。
しかしそこに倒れていた人物に私たち三人は絶句することになる。


「ア…アヴドゥル、さ…」

「馬鹿な…!!」

「アヴドゥルっ!そんな…っ!目を開けろっ!アヴドゥルっ!!」
ジョセフさんが額から血を流して倒れているアヴドゥルさんの首筋に触れる。


「っ!!まだ、生きておる…っ!!
間に合うかもしれん!承太郎!名前!アヴドゥルを頼む!ワシはSPW財団に連絡を取ってくる!!」

そういうとジョセフさんはホテルの方へと走っていった。
私は今だに血を流し続けるアヴドゥルさんの額に手を当てて、これ以上血が流れないように結界を出現させる。
明らかに流れ出る血の量が減った様子を見た承太郎が驚いたように尋ねてくる。

「お前のスタンドは傷も治せるのか?」

「ううん。治せないよ。ただ傷のところに結界を張って止血しているだけ。」



『治す』


その力がある彼はこの世界では若干まだ4歳。
それに今まさに彼もホリィさんと同じように生死の境をさまよっているのだ。


「アヴドゥルさん…っ」
こんな所で死なせはしない。
皆でDIOを倒して、そして帰るんだ。


(…何を考えている。名前)
必死の形相で結界を張り続ける名前の表情を、承太郎はただジッと見ていた。



依然危険な状態には変わりないが、アヴドゥルさんはなんとか一命をとりとめた。
だがもうこの旅を続けることはできないだろう。
担架に乗せられて運ばれていくアヴドゥルさんを私は祈るような気持ちで見送った。


「…名前、行くぞ。」
肩に乗せられた承太郎の大きな手のひらに、私は頷いて再びポルナレフを探すために視線を上に上げた。



思ったよりもあっさりとポルナレフと花京院君は見つかった。

何故なら彼らのいた場所からは大きな銃声が何発も響いていたからだ。
カウボーイ風の男はどうやらポルナレフに追いかけられており、彼から逃げようとしているようだ。
男のその行動に敵だと気が付いた承太郎がこちらに向かってくる男の顔面に自らの拳を振るった。

「グピィー!」
間抜けな悲鳴を上げて吹っ飛んだ男は恐怖したようにさらに情けない声を上げている。

「アヴドゥルのことはすでに知っている。彼の遺体はすでに簡素ではあるが埋葬してきたよ。」

「え…モガッ」
ジョセフさんの言葉に驚いた私は思わず声を出そうとするが、承太郎の大きな手に口を塞がれて声に出すことはできなかった。

「卑怯にもアヴドゥルさんを後ろから刺したのは両右手の男だが、直接の死因はこのホル・ホースの弾丸だ。この男をどうする?」

簡単にどういう状況だったかを説明する花京院君だが、それに答えたのは怒り心頭っている感じの表情をしたポルナレフだった。
『銀の戦車』を出して男に向けてレイピアを振り上げる。


「死刑!!」


そんなポルナレフの前に突然飛び出してきたのは一人の女性だった。
彼女はポルナレフの足にしがみつき必死に彼の邪魔をする。

「お逃げください!ホル・ホース様っ!!事情はよく分かりませぬが私はあなた様の身をいつも案じておりまする!
それがわたくしの生きがい、さあ!お逃げください!」

女性の必死の姿に私たちの判断も一瞬遅れた。
気がついたときにはホル・ホースはすでに馬に乗り、この場から逃げ去ろうとしている所だった。


「逃げるのはおめーを愛しているからだぜ!
___それとそこのミニスカートのレディ!君はいずれこの俺が迎えに行く!それまで待っててくれよ!ベイビー!」
高らかにそう言ったかと思うと馬に乗った彼は猛スピードでそこから駆けていってしまった。
突然話題に上がった自分の名前に訳が分からずポカンと口を開ける。


「なんだってんだ、一体…。」

「名前、あの男と会ったことがあるのかい…?」
承太郎と花京院君の言葉に困惑する。

「し、知らないよ。今初めて会った人だよ。」
うーんと考え込んだジョセフさんが言葉を発する。

「ただ単に女好きなだけじゃろう。あまり気にする必要はない。」

「はい…。」
確かに今はそんなどうでもいいことを気にしているときではない。
先ほどの様子からしてポルナレフと花京院君は彼が一命をとりとめたということを知らないのだ。
そしてわざわざジョセフさんが『埋葬してきた』などと嘘をついたのは目の前に敵がいたからなのだろう。
早く暗い顔をしている二人にアヴドゥルさんの無事を伝えなければと口を開く。

「アヴドゥ…、ムグッ」
再び承太郎が私の口をを大きな手で覆ってきたことで、何も言うことができなくなってしまう。
そのまま私は承太郎にズルズルと少し皆から離れたところまで引きずられていった。
流石に苦しくなってきたため彼の腕を軽く叩く。
するとあっさりとその手は口元から離れていった。

「承太郎…!さっきからどうしたの…。?…、承太郎?」

「いいから静かにしな。ポルナレフの奴に聞かれる。」

「?ポルナレフがどうしたの…?早く二人にアヴドゥルさんが生きていること、教えてあげないと。」

「そのことだがな。じじいと話したんだがポルナレフには何も言うな。奴は口が軽いし何より顔にでやすい。
敵にアブドゥルが生きていることを知られたら、重症のアヴドゥルが狙われる可能性がある。」

承太郎の言うことはもっともだった。
今は敵の中でアヴドゥルさんは死んだということになっているが、万が一にも彼が一命をとりとめたことを知れば今度こそとどめを刺しに来るかもしれない。

「じゃあ花京院君は…?」

「この後話す。別に黙っていてもいいんだが奴は勘がいいからな。先ほどのお前の様子からすでに何か気がついているかもしれん。」

ふいに花京院君の方に目を向けると、視線が合った瞬間目を逸らされてしまった。
本当に気がついているのかもしれない。

例のポルナレフはと言えば先ほど自分にしがみついてきたせいで怪我をしてしまった女性に向かい、何か甲斐甲斐しく話しかけているようだった。
言うなれば自分の邪魔をしてきた女にも関わらず、邪険にせずにその心配をしている彼はとても優しいのなど改めて思った。
そんな彼を騙しているということに罪悪感を覚える。


「さあ!エジプトへの旅を再会しようぜ!」
そんな迷いを消すようなポルナレフの真面目な声が響く。


「いいか!DIOを倒すにはよ、皆の心を一つにするんだぜ。一人でも勝手なことをするとよ、やつらはそこにつけこんでくるからよ!」
私たちは次の町『ベナレス』を目指すのだった。