starry heavens | ナノ

肩をゆすられて徐々に私の意識は覚醒する。

「…ん、」

「起きたか。そろそろ着くぜ。準備しな。」

辺りを見回すとポルナレフと花京院君も眠っており、それぞれジョセフさんが起こしていた。
ふと自分の膝にかかっている重たいものに気がつく。

「あ…。承太郎、これ…。貸してくれたの…?」
チラリとそちらを見た承太郎は特に返事をすることもなく、彼女に渡された学ランを受け取り羽織った。

「…ありがとう。」

「……いや。」

不器用な彼の優しさに嬉しくなる。


「ところでアヴドゥル、ワシはインドという国は初めてなのだが…。
こじきとか泥棒がいてカレーばかり食べていてすぐに熱病に罹るようなイメージがある。」
心配そうに言うジョセフさんにアヴドゥルさんは笑う。

「それは歪んだ情報ですよ。心配ないです。素朴な国民性の良い国です。さぁ、行きましょう。」

一同列車を降りようと出口に向かうが、先頭を歩くアヴドゥルさんが立ち止まったことで全員の足が止まる。

「どうした?アヴドゥル?」

不思議そうにするポルナレフを一瞥したかと思うと、アヴドゥルさんはその後ろにいる私の方へ視線をやる。


「いや……、名前。列車から降りたら我々と決して離れないように。」

「?アヴドゥルさん、どうしたんですか?突然。」
目を丸くしている一同に説明するようにアヴドゥルは話し始める。

「インドという国は、中東程ではないが女性の服に暗黙の了解のようなものがある。
体のラインがピッタリしている服装や足を出している服装はインドでは一般的ではない。」

「あ…。」
足を出すのは一般的ではないと聞いて、私はまじまじと自分の今の服装を見る。
制服なので思いっきり膝上まで足がでているではないか。

「本当ならシンガポールで足の隠れるようなズボンを買えればよかったんだがそんな時間はなかったからな…。」

「あ、足が出ているとマズイんですか…?」
心配になり前にいるポルナレフの横から身を乗り出すように尋ねる。

「マズイというか…。『性に開放的』だと思われやすいな。」

「……ポルナレフ。ズボン貸して。」

「は!?アホなこと言ってんじゃねぇよ!俺が警察に掴まるだろうが!」

「ウオッホンッ!……名前、決して一人で行動しないように。
まぁスタンド使いであるお前が普通の人間からどうこうということはあまり起こりえないとは思うが。念のために用心するように。」


アヴドゥルさんの言葉にゴクリと喉を鳴らす。
なんだか一気にインドという国が怖くなった私は、前を歩くポルナレフを盾にして列車を降りた。



___インド カルカッタ

「バクシーシ」
「歌うたうから聞いておくれ」
「女の子紹介するよ。」

列車から降りた私たちを待っていたのは人 人 人____

あっという間に人の波に飲み込まれた私たちはその中でもみくちゃにされた。
目印にしていたポルナレフの特徴的な頭は列車を降りた途端人波に呑まれてどこかに行ってしまった。
アヴドゥルさんが何処からか「良い国でしょう」と言っているのが聞こえるが正直それどころではない。
とにかくこの雑踏を抜けようとするが、その前にそれを後ろから阻止する者がいた。

「っ承太郎…!」

「やれやれ。アヴドゥルに言われたことを早速忘れてんじゃあねぇのか。俺から離れるんじゃあねぇ。」
グイッと腰を引かれて人波の中を歩き始める。
はぐれないようにするためとは言え、あまりにも近いその距離に自分の心臓が早鐘を打つ。
承太郎はその大きい身体で人波をかき分けて進み、ようやく人が疎らになる場所まで辿り着いた。
そのまま腰に回されていた手をパッと離される。

「おぉ!名前に承太郎!無事だったか!タクシーで行くより歩いて行く方が絶対に早い。このまま歩いてホテルまで行くぞ。」
ふと見たタクシーのその先にいたものに驚愕する。

「う…牛。」

「牛が動かないからタクシーは出ないようだ。全く。意味が分からん。」

◇◇◇
町を歩きフラフラの私たちは一軒の店に入った。
そこで出された『チャーイ』という飲み物は中々においしいものだった。
温かい飲み物を飲んで私たちはフゥと一息つく。

「なかなか良い国だな。気に入った。」

「マジか?マジに言ってんの?承太郎。」
ジョセフさんはそんな承太郎を信じられないものを見るかのように見ている。

「要はあれですよ。慣れればこの国の懐の深さが分かります。」
承太郎はこの国を気に入ったようだがジョセフさんは当初のイメージ通りといった顔をしていた。
私はいまいちまだ分からないが。
割と個人によって好き嫌いがはっきり分かれる国だなぁとは思った。


そんな会話を他所にポルナレフは席を立って何やらボーイに話しかけている。
そのまま店の奥に入っていった彼を見送って私は再び目の前のチャーイに口をつけた。


それから数分後。

店の奥から険しい顔をしたポルナレフが走って店の外へと飛び出して行ったのだ。
慌てて私たちはそれを追いかける。


「どうした!?ポルナレフ!」


「…ついに、ついに奴が来たぜ。承太郎!
お前が聞いたという鏡を使うスタンド使いが来た!」

「それって……」
確かポルナレフの妹の仇の、名前は確か『J・ガイル』


「俺の妹を殺したドブ野郎によぉ、ようやく会えるぜ……!!」

そう言ったポルナレフはいつもの様におちゃらけた雰囲気はなく、ただ目の前に現れた仇を追う憎しみに溢れた目をしていた。



その普段とかけ離れた様子の彼に、嫌な予感が立ち込めるのを感じずにはいられなかった。