starry heavens | ナノ

『黄の節制』を承太郎が倒した後、私たちは予定通りインド行の切符を買うことができた。
ただ切符を買うだけだったはずなのに、随分と時間がかかってしまった。
あの後私たちに追いついてきたジョセフさんとアヴドゥルさん、そして本物の花京院君を見たときはまた敵が現れたのかと驚いてしまった。
勝手に驚いてしまって事情を知らない彼には悪いことをしてしまった。
その後私たちはホテルでもう一泊して、次の日にはシンガポール駅からインド行の列車に乗って出発した。


乗った後になって気が付いたのだが、私たちの後をずっと着いてきていた少女はいつの間にか姿を消していた。
きっとお父さんとの待ち合わせの時間が来たのでそちらに向かったのだろう。
正直危険な旅だから彼女の同行については心配していたのだが、いなくなるとそれはそれで静かでなんだか寂しい気もする。


「アヴドゥルさん。インドまではどのくらいかかるんですか?」

「そうだな。丸一日はかかるだろう。何事もなければだが。」

列車で出された美味しいご飯も食べ終えて、いよいよやることがなくなった私は猛烈な眠気に襲われる。
うつらうつらしているのに気が付いたジョセフさんが、「寝ててもいいぞ。」と言ってくれたのでお言葉に甘えることにする。



「おいおい。本当に寝ちまったぞ。無防備すぎやしねぇか?名前の奴。」

「疲れているんじゃろう。無理もない。寝かしといてやれ。」


そう言ったジョセフとアヴドゥルは、本を片手に二人で何やら相談し始めた。






ゴトンゴトンと心地よい列車の振動も子守歌となり、周りの乗客はほとんどが眠っているようだった。
先ほどまで話し合っていたジョセフとアヴドゥルも今は腕を組んで眠っている。
承太郎も窓際の席でウトウトとし始めた時だった。


自分の斜め前に座るポルナレフが、何やらヒソヒソとその隣に座る花京院に話しているのだ。

なんだと思い片目だけ開けて様子を伺う。
どうやら彼らは調度自分の隣に座って眠っている名前の方をチラチラ見ながら話しているようだった。


何事かと思って彼女の方を見ると、彼らが嬉しそうに話している理由がなんとなく分かった。
寝入ってしまっているせいでスカートを履いた足が僅かに開いてしまっているのだ。


「…なにやってんだ、テメェら。」

呆れたようにため息をつく承太郎。
まさか承太郎が起きていると思わなかったのだろうポルナレフは「おわぁっ!」と大げさに驚いている。

「大きい声出すなよ、承太郎。もうちょっとで絶景がこの目で拝めるんだからよ!」

「うるせぇのはテメェだポルナレフ。花京院、揃いも揃って覗きとは趣味が悪いな。」

「お言葉だけど承太郎。可愛い女性の見えそうで見えないスカートが目の前にあったら、男として目がいってしまうのは仕方のないことだろう?」

ポルナレフはともかく上品で悪いことなんて知りません、っていうような顔をした花京院の意外すぎる一面に正直承太郎は驚いていた。
いや、むしろ隠さずに堂々としている分ポルナレフよりも質が悪いかもしれない。
彼女に注がれる視線に無性に苛立ちを感じた承太郎は、己の学ランを脱いで名前の膝へとかける。


「あぁ〜!承太郎!なんてことをっ!」

承太郎の学ランで覆われてしまった彼女の足に、この世の終わりとも言えるような残念そうな声を出すポルナレフ。

「うるせぇぞ。この変態が。」

「フフフッ。素直じゃないね。承太郎は。君だって彼女の足が目の前にあったら見ているクセに。」


花京院のその言葉に約一日前に襲われた彼女に化けた『黄の節制』のことを思い出す。
一瞬そのスカートの中身を想像してしまった承太郎だが、己の想像を振り払い、騒ぐポルナレフを無視して静かに目を閉じたのだった。


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短め。次回からインド編に入ります。