starry heavens | ナノ

落としてしまったココナッツジュースを恨めし気に見ていたら、承太郎が別の店でさくらんぼの乗ったソフトクリームを買ってくれた。なんだか食い意地が張っているみたいで恥ずかしい。
そして驚いたことに承太郎もそのソフトクリームを買っていた。いつもコーヒーばかり飲んでいるというイメージだったが、もしかしたら意外と甘いものが好きなのかもしれない。
さくらんぼの乗った桃色の可愛いソフトクリームと、マッチョな承太郎のアンバランスさがなんだか逆に可愛いく見えてくる。

少女はと言うと酷く怯えた様子でずっと私の腕に縋り付いている状態だった。彼女の視線は私たちの後ろを無言で歩いている花京院君に注がれている。
先ほどの騒ぎなどまるでなかったかのように、ただじっと後ろを歩く花京院君にやはり不気味なものを感じずにはいられなかった。


そして私たちはシンガポール駅に向かうためのケーブルカー乗り場に到着した。

「よぉ承太郎。そのチェリー食うのかい?食わないならくれよ。腹が空いてしょうがないぜ。」
花京院君はそう言ったかと思うと、承太郎の返事も聞かずにソフトクリームの上に乗ったさくらんぼをとってしまった。
呆然とそれを見ていると突然花京院君は承太郎の背中を押して、柵の向こうに突き落とそうとしたのだ。

「きゃあー!!」

「承太郎っ!!」
私と少女は慌てて承太郎の手を掴み、今にも落下しそうな彼を何とか支えた。
私たちが特に力を込めるまでもなく、承太郎は自らの力で柵を掴んで上ってきた。そんな彼を見て花京院君は何故か心底可笑しそうに笑う。

「じょーだん。冗談だって。承太郎センパーイ。」

すると下品にも先ほど承太郎からとったさくらんぼを舌の上で転がし始めたのだ。
今までの花京院君のおかしな言動と行動。そして今、彼はあろうことか承太郎をこの建物から地面に突き落とそうとした。
いよいよ浮上してきた彼は何者かに操られているのではないだろうかという可能性に警戒を強める。

承太郎はしばし無言でいたがかなり苛立ちを感じているようであった。
荒々しい口調で口を開く。


「ケーブルカーが来たぜ。乗れと言っているんだ。

___この俺のチケットでな」

承太郎はもっと早くからその可能性に感づいていたのかもしれない。彼は花京院君に向けて自身の拳を握ると彼の頬を殴った。
だが驚いたことに彼の拳を食らった途端花京院君の口が真っ二つに割れてしまったのだ。

「なにッ!?」
承太郎は今自身の拳で殴った。
『スタープラチナ』で殴られたならいざ知らず、人間の口がそう簡単に裂けるはずがない。
もしかしたらあの花京院君は操られている訳ではなく____


「承太郎っ!」

私が追いつく前にケーブルカーはピッタリと閉じてしまい、彼の背には届かなかった。



◇◇◇

「ジョセフさんっ!今ホテルですか!?」

『あ、あぁ…。どうした名前、そんなに慌てて…。承太郎と花京院と一緒じゃったろう?』

私はアンちゃんと共にケーブルカー乗り場からホテルにいるジョセフさんへ電話をかけていた。

「敵のスタンド使いに襲われました…!今承太郎が一人で戦っています!」

『なんじゃとっ!?名前、そこから承太郎の元へ行き援護をすることは可能か?ワシらもすぐに向かうが…。』

「そのつもりです!あっ!ジョセフさん…!花京院君って、そこにいますか!?」

『花京院か?…あっ!何故ここに…?
____なに?置いて行かれた?名前、良く分からんが花京院はここにいるぞ。お前たちに置いて行かれたと嘆いている。』

「よかった…。いるんですね!ありがとうございます!」

ガシャンと電話を切り心配そうにこちらを見上げる少女の背に合わせて屈む。

「アンちゃん。もうすぐここにジョセフさんたちが来るからそれまでここから動かないでね。」

「お、お姉さんはどうするの…?」

「私は承太郎を追うから。いい?危険だから絶対に着いてきちゃあ駄目だよ。」

万が一にも彼女が着いてこないように、できるだけ強い口調で言い聞かせる。
私が電話している間に承太郎は敵と共にケーブルカーに穴を空けて海へ落下した。
それを追うべく私はケーブルカー乗り場を降りて、走って彼らの元へ向かうのだった。


◇◇◇

『スタープラチナ』でケーブルカーの床をぶち抜き、敵と共に海に落下した承太郎は今まさに男の顔面をその拳で殴ったところだった。

「や、やめてくれぇ〜。もう戦えない。再起不能だよぉ〜!」
承太郎に叶わないと知るやいなや、すぐさま態度をひっくり返して男、『節制』のスタンド使いはベラベラと仲間の情報を話しだした。
その話のなかにポルナレフの妹の仇のスタンド使いがいると知った承太郎はジッと考え込む。

そんな承太郎の横に設置されていた排水溝の出口に、大量のザリガニがくっついているのを男は発見したかと思うと、先ほどまでの情けない顔を一変させる。
そして海から上がり、自信たっぷりに話し始めた。


「承太郎〜!幸運の女神はまだ俺についているようだぜ!」

すると『黄の節制』は排水溝にくっついたザリガニを食べ始めた。

「しまった!」
承太郎が気が付いたときには遅く、ザリガニを食べたことで僅かながらも力を取り戻した男は再び自身にスタンドを纏わせる。
その男が化けた姿に承太郎はその目を大きく見開く。

「………テメェ」

「…承太郎。私を攻撃するの?」

承太郎が身上げた先にいたのは名前に化けた『黄の節制』だった。無論彼女本人ではないことは承太郎もよく分かっている。
だが、その姿はどう見ても名前本人にしか見えなかった。

「名前に化けてそれがどうした?この俺が怯むとでも思ってんのか。」

あくまで冷静な態度を崩さない承太郎を見て偽物の彼女はニヤリと怪し気に微笑む。
すると何を思ったのか自らの胸を下から持ち上げるようにして、承太郎に見せつけるように揉み始めたのだ。

「承太郎センパーイ。アンタは触ったことあんのかぁ?このおっぱい。案外着やせするタイプなのか?」

「てめぇ…っ!!」
思わず承太郎は海から上がり偽物の彼女に掴みかかる。
そして拳を振り上げる。

「承太郎…っ!やめて…!怖いっ」

恐怖した彼女の声に振り下ろそうとした拳をピタリと止める。
そんな承太郎に『黄の節制』はニヤリと笑ったかと思うと彼女のスタンドである『クリスタル・ミラージュ』を出現させて承太郎と自分の前に結界を出現させた。
『スタープラチナ』の動体視力で結界を出現しようとした瞬間に気が付いたため、間一髪その手を離す。

「おしいな〜!もう少し遅ければ右手が胴体とさよならしていたのに〜。」

承太郎は憎々し気に彼女の顔をした『黄の節制』を睨みつける。
元々彼女のスタンドはスピードもそれ程ある訳ではないし、攻撃にはあまり向いていない。自分のスタンド『スタープラチナ』を使えばあっという間に目の前の敵を倒すことはできるだろう。

「ハハッ!承太郎センパイも女には形無しだなぁ〜。所詮はただのオスってことかい?」

小馬鹿にしたように目の前の女は笑う。
その表情は自分の知る彼女とは似ても似つかないのに、承太郎は手を出すことが出来なかった。

「承太郎。死ぬ前に見せてあげるね。名前の大切なところ。」

そう言って彼女は制服のスカートを焦らすようにゆっくりと持ち上げ始める。
徐々に露わになる柔らかそうな白い太もも。それは海に入ったせいで水に濡れており酷く卑猥に見える。
だが承太郎の視線はそこにはなく、その後ろへと注がれている。
それに気が付いた『黄の節制』は意味が分からないと言った様子で後ろを振り返る。

「一体どこ見て…っフゲェ!?」

何かに殴られた『黄の節制』はその衝撃で再び海へと吹き飛ばされる。
そして海面に顔を出したときにはすでに元の姿に戻ってしまっていた。

「かかかかか勝手に、人の姿で変なことしないでよ!!この変態っ!!」

「ピィイイ!!」
そこにいたのは紛れもなく本物の名前本人だった。
彼女が自分に化けた偽物の後ろからゆっくりと近づいてきていたのを、前から見ていた承太郎だけは知っていた。
名前は自分に化けた偽物が、自分の姿で承太郎に向かってスカートをめくり上げようとしているのを見た途端、顔を真っ赤にしながら『クリスタル・ミラージュ』の尻尾で男を殴ったのだ。


そして今に至る。

再び海に戻ってきた男の髪の毛を掴んで承太郎は無理やり立ち上がらせる。

「じょ、じょ、冗談!冗談だってばさぁ!ちょっとした茶目っ気だよ!承太郎センパーイ。あんたもちょっとは良い思いしただろ!他愛のないいたずらさぁ〜!」

「……もうテメェに言うことはなにもねぇ。とても哀れすぎて」








『何も言えねぇ』





今度こそ承太郎は『スタープラチナ』の拳でパンチを叩き込んだ。