starry heavens | ナノ

私と承太郎と花京院君、そして少女の4人はシンガポールの町を歩いていた。
その目的というのがインド行の列車のチケットを手配しに行くことであった。
チケットを買うためにシンガポールの駅を目指す私たち。
この町は本当に綺麗だ。街並みも近代的なもので統一されており、そして何よりゴミ一つ落ちていない。
町についた時にポルナレフの荷物をゴミと勘違いして罰金を要求してきた警官を思い出し、思わず吹き出しそうになる。

「…何変な顔してんだ。」

「うぇ…!?じょ、承太郎、見て…!?」
私の返答を聞く前にプイッと視線を逸らして歩いていってしまう承太郎。

(ますます変な奴だって思われた……!)
最近彼には情けない姿ばかりさらしているような気がする。
ガクッと肩を落とすとそんな私の気を知ってか知らずか、少女が明るい声を上げながらグィとその手を引いてくる。

「ねぇ!これなぁに?」

「え?」
少女が気になったのは一つの屋台のようだ。私が答える前に屋台の主人が少女の問に答えてくれる。

「これはココナッツジュースだよ!一つ4シンガポールドルね!」

「観光客様にぼってる値段かよ。一つ2ドルなら飲んでやるぜ。」
値切り始めた少女に驚いてしまう。
原価の分からない私にはそれが本来いかほどのものなのかは分からないが、恐らく大抵の日本人ならまんまとぼったくられてしまう訳だろう。
足を止めた私たちに気が付いたのか、後ろから承太郎と花京院君もこちらに近づいてくる。

「…なんだ?飲みたいのか?」

「え!?い、いや…私は別に…!」
慌てて否定するが承太郎は決めたら早かった。

「飲んでみるか。4つくれ。」

「はいよー!16ドルねー。」

「おい、8ドルにしろ。」
変わらず値引きを要求する少女に苦笑がもれる。
財布を出し始めた承太郎と花京院君に、慌てて私も財布を出す。それを承太郎に声だけで制されてしまった。

「おい。別にてめぇが出す必要はねぇ。」

「え…。で、でも…。」

「名前。こういう時は男を立てるものだよ。」
花京院君にまで言われてあれよあれよという間に二人によってお金は支払われてしまった。

「名前。」

「あ…。ありがとう…。」
承太郎から手渡されたココナッツジュースはキンキンに冷えていて蒸し暑いこの気候ではとてもありがたいものだった。
ココナッツに刺さったストローに口を付け吸うと、ほどよい甘さが口の中に広がる。

「おいしい!」
思わず笑顔が漏れるおいしさで承太郎を見上げる。
そんな私を見た承太郎は「そりゃあよかったな」と言ったかと思うとフイと視線をそらしてしまう。

「…?」
それにしてもこのココナッツも承太郎が持つと小さく見えるから不思議だ。私なんて両手で持たないと落としてしまいそうだというのに。

「いただきっ!」
突然後ろから聞こえた知らない男の声に振り返る。だがそれがいけなかった。
振り返った瞬間にこちらに向かって走ってくる男と思い切りぶつかってしまったのだ。

「っ!!」
その衝撃に耐えられず持っていたココナッツを地面に落としてしまう。
私自身は倒れる瞬間承太郎に抱きとめられたおかげで地面とこんにちはすることはなかった。

「あのやろう…。」
上から聞こえてきた承太郎の声色に彼が怒っていることが分かる。

だがその前に動いた者がいた。
花京院君は『法皇の緑』に地面を這わせてその男をあっという間に捕まえた。そして男の前に威圧感たっぷりに佇んだかと思うと信じられない口調で話し始めた。

「てめぇ俺のサイフを盗めると思ったのかぁ…!このビチグソがぁ!」
普段の花京院君なら絶対に言わないような下品な言葉に、私たちは目を見開く。
そして突然男の顔面に蹴りを入れたのだ。

「か、花京院君っ!?なにを…!」
まるで私たちのことなど目に入っていないかのように男を痛め続ける花京院君。
見かねた承太郎が花京院君を無理やり男から引き離し、攻撃を止めさせる。

「これ以上やったら死んじまうぞ。」
男は恐怖の顔で花京院君を見たかと思うとそのまま財布を置いて逃げていった。

「……痛いなぁ。突き飛ばすことはないでしょう。こいつは僕の財布を盗もうとしたとぉっても悪い奴なんですよ。こらしめて当然でしょう。違いますかねぇ、承太郎クン。」
すると先ほど買ったココナッツジュースをジュルジュルと下品な音を立てて飲み始めた。

(い、いつもの花京院君じゃない…。)

そんな私の視線に気が付いたのか花京院君はニヤリと笑って口を開く。

「名前〜。さっきからチラチラとお前のパンティーが見えているぜぇ。今日は縞々かぁ。全くお前はお子ちゃまだなぁ〜。」

「っ!な…っ!」
その言葉に全身の血が沸騰するような羞恥に襲われる。
こんなデリカシーのカケラもないことを言う人、どう考えても花京院君だとは思えない。だが目の前の彼は間違いなく花京院君の姿形をしているのだ。

何故か彼が全く知らない人に思えて怖くなり、承太郎の背に隠れる。

「………。」
承太郎がそんな花京院君をジィっと見ていたことを、彼の背に隠れていた私は知る由もなかった。