starry heavens | ナノ

私が元の世界で体験した出来事をすべて彼らに話した。
部屋の中は静まりかえっている。

「……つまり、ワシたちはホリィを救うことには成功する。その変わりに、」

「この中の誰かが死ぬ…。」
衝撃の事実にジョセフさんも承太郎も言葉を失う。

「ジョースターさんと承太郎は名前のいた世界でも生きているんだろう?
ならば死ぬのは必然的に今ここにいる私たちと、もう一人加わるであろう仲間を合わせた4人の中から3人ということになるな。」

「なぁに冷静に言ってるんだよアヴドゥル!ほとんど死ぬってことじゃあねぇか!」

「だが事前に知れたということはこちらにとっても都合がいい。僅かながらも対策をとることが可能になる。」

「…ごめんなさい。誰がどういう状況でとか、詳しいことが知れたら一番良かったんですが…。」
その言葉にポルナレフは至極明るそうに答える。

「なぁに暗い顔してんだよ!その通りの現実になるとは限らないだろ!」

「ポルナレフの言う通りだ。我々は事前にこの事実を知ることができた。
それに何よりも名前の未来で起きてしまった出来事では絶対に起こり得なかった、一つの大きな事柄がここにはある。」
花京院君の言葉の意味が分からず私は疑問符を浮かべる。
そんな私を見た承太郎はハァとため息をついたかと思うとその真っ直ぐな瞳を私へと向ける。




「___名前、お前がここにいるという事実だ。」

承太郎の言葉に私は目を大きく見開く。


「名前。花京院や承太郎が言うように、ワシもお前がこの時代に来たのは何か大きな意味があるのだと思っておる。だからあまり自分を責めるな。例えワシらのうちの誰が離脱しようともな。ワシらはその覚悟で今ここにいる。

___お前もそうだろう?」
ジョセフさんの言葉に私は大きく頷いた。


「____はい。」

私が今ここにいるという事実。


それが良い方へ向かうのか、それとも…。
それは誰にも分からないことだが、これだけは分かっていた。







『皆を守りたい』

そのために私は今ここにいる。

















(閑話〜承太郎と花京院の部屋にポルナレフが移動した後〜)


「しかし承太郎と名前がねぇ〜。しかも10年後だろぉ!承太郎…お前……、あんな幼気な女の子に手を……。」

「…ポルナレフ。てめぇ余程ぶん殴られたいらしいな。」
スタープラチナを出現させた承太郎にポルナレフは慌てて弁明する。

「じょ、じょーだん!冗談だって!愛に年齢は関係ねぇもんなぁ!」
ワザとらしくうんうんと頷き始めたポルナレフに眉を顰めながらも承太郎はスタープラチナを引っこめる。

「しかし承太郎。今の君は彼女のことをどう思っているんだい?」

「…花京院、そいつはどういう意味だ?」

「未来の君とここにいる彼女は恋仲だったんだろう?だが今ここにいる君は彼女のことを知りもしない、赤の他人だ。彼女は一体どう思っているのかな?」

「…確かになぁ。寸分たがわず同一人物のはずなのに、相手は自分のことを知らない…。なぁんかそれって切ねぇよ。」
ポルナレフの言葉に何とも言えぬ沈黙が流れる。


「承太郎、本当に彼女のことを何とも思っていないのかい?」

「あぁ?なんなんだ、テメェさっきから。」
煩わしそうに眉を顰める承太郎。
凄む承太郎に並大抵の人間なら慌てて逃げていくだろう。だがこの花京院に限ってそんな脅しは全く通じなかった。

「あれ?分かりにくかったかな?じゃあ単刀直入に聞くよ。『名前のことをどう思っている』?」

「おいおい、どうしたんだよ花京院。らしくねぇぞ。承太郎もそんな睨むなって!」

「ああ、勘違いしないでくれよ。僕は彼女のことは大切に思っているが、それは同じ目的を共有する仲間としてだ。
だからこそ君に問いたい。君の曖昧な態度は彼女を傷つける可能性が大いにある。ここらではっきりさせといた方がいいんじゃあないかい?」

花京院を射殺さんばかりの勢いで睨みつける承太郎と、それをオロオロと見ているポルナレフ。
承太郎は花京院が引かないことを悟るとハァとため息をついて重い口を開いた。


「…あいつはいずれ未来に返るんだろう。だったら今の俺にどうこうすることはできねぇだろ。」
ギリッと悔しそうに奥歯を噛みしめる承太郎。
それは彼の気持ちを知るには十分すぎる表情だった。


「…らしくないね。」

「あぁ?」

「君ってそんな遠慮するような人間だったのかい?欲しいものは何がなんでも手に入れなきゃあ気が済まないって感じの顔しているクセに。」

「なんだそりゃあ。花京院。てめぇ馬鹿にしてんのか?」

「まさか。その逆さ。君のことはとても尊敬しているよ。」

「か、花京院!俺は?俺のことは?」

「フフッ。勿論君のことも尊敬しているよ、ポルナレフ。
そして一人この時代で奮闘する彼女のこともね…。」
花京院の言葉にポルナレフは心底嬉しそうにしながら、部屋に備え付けてある冷蔵庫に飲み物を取りに行った。
そんな彼の背を見送りながら花京院は再び口を開く。


「…承太郎、最後に一つ聞いていいかい?」

「…なんだ。」

「彼女、名前がもしも、もしも元いた時代に返ることが出来なかったら…。君、一体どうするつもりなんだい…?」

「………。」

その問いに承太郎はしばし無言で目を閉じていた。
しかし帽子の鍔に手をかけてそれを目深に被ったかと思うと口を開く。



「…決まってんだろ。アイツの全てを俺が奪う。それだけだ。」

めったに見ない承太郎の笑み。
それもその不敵さに花京院の背筋にはなんとも言えないゾワッとしたものが通り抜ける。

「……それでこそ僕の友人の承太郎だよ。」



調度話が終わった所をジュースやらなにやら冷蔵庫から色々持ってきたポルナレフが戻ってくる。

「おい〜。二人して内緒話かぁ?お兄さんも混ぜてくれよぉ」

「なに言ってやがるポルナレフ。てめぇどう見ても『お兄さん』なんてツラはしてねぇだろ。」

「な、なにを〜!なんて口の悪い奴だっ!コノヤロウ!!」

久方ぶりの安心できる夜の到来に、三人は男同士夜中まで話に花を咲かせたのだった。